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18 第4章:候補3・パーソナルトレーナー(肉体派イケメン)

第3節:ベビーモニターの活用


パーソナルトレーナー・陸斗がベビーベッドの柵に手をかけ、「ちっ、邪魔なガキだ」と冷酷な殺意を剥き出しにしたその瞬間、俺――前世の記憶を宿したまま赤ん坊として転生した佐藤一真の心の中で、復讐のギアは最高速度へとシフトアップした。


弁護士・神条が法律の網をくぐり抜けて遺産を強奪しようとし、IT企業役員・陣内が権力と秘密の医療支援で愛華を支配下におきながらもDNA鑑定の結果に狂乱した。そしてこの陸斗は、若さと圧倒的な肉体の暴力性、そして打算的な野心をもって、愛華のすべてを乗っ取り、この赤ん坊である俺を邪魔者として排除しようと企んでいる。


(どいつもこいつも、前世の俺を食い物にした挙句、残された遺産と保険金をハイエナのように貪り食おうって寸法か。だが、お前たちのその醜い欲望こそが、お前たち自身を絞殺するための最高のロープになる)


愛華が「お待たせ! 冷たい麦茶持ってきたわよー!」と明るい声を上げながらキッチンのほうから戻ってきた瞬間、陸斗はあの冷酷な野獣の表情を完璧に消し去り、爽やかで人懐っこい「若いトレーナー」の仮面を何食わぬ顔で装着してみせた。


「おっ、ありがとう愛華さん! 助かるよ」

陸斗は愛華からグラスを受け取り、慣れた手つきで彼女の腰を引き寄せ、再び甘い空気を纏い始めた。


表面上は、夫を亡くした悲劇の未亡人と、彼女を優しく支える若いトレーナーの甘美なひととき。しかし、その内側では、互いが互いを利用し、出し抜こうとする毒蛇の化かし合いが繰り広げられている。


(だが、それもここまでだ。神条や陣内の時と同様に、この陸斗に対しても、奴らの犯罪の決定的な「自白」を記録し、動かぬ証拠としてクラウドに刻み込んでやる……!)


俺はベビーベッドのなかに寝かされたまま、頭脳をフル回転させ、部屋全体のスマートホーム環境のネットワーク構造を再構築した。


この港区の高級タワーマンションには、最先端のIoT家電が網の目のように張り巡らされている。リビングのスマートスピーカー、各部屋を繋ぐ自動空調、そして育児の必需品として寝室とリビングをネットワークで結んでいる「高機能ベビーモニター」だ。


通常、ベビーモニターというものは、赤ん坊が寝ている別室(または寝室)の様子をカメラとマイクで捉え、リビングに置かれた親用の受信端末やスマートフォンに音声をライブ配信するためのシステムである。

しかし、前世でITシステムの構築やネットワーク制御に精通していた俺の頭脳からすれば、その通信プロトコルをハッキングする――あるいは、赤ん坊の小さな手足の反射とスマートリモコンの音声認識エラーを巧妙に利用して「ルーティングの逆流」を引き起こすことなど、不可能ではなかった。


数日前、愛華がリビングのソファでうたた寝をしている間に、俺はベビーベッドの近くに放置されていた古いタブレット端末とスマートリモコンの配線を、赤ん坊の小さな足のバタつきを利用してわずかに接触させ、システムの内部設定を密かに書き換えておいたのだ。


その結果どうなるか。

本来であれば「寝室からリビングへ」流れるはずのベビーモニターの音声入力系統が逆転し、「双方向の常時録音モード」として強制同期される仕組みが完成していた。


(準備は整った。……さあ、ボロを出すがいい、陸斗。お前がその薄汚い口で愛華を口説き、俺をどう処分しようと企んでいるか、そのすべてをこのシステムに録音させてやる)


愛華が持ってきた麦茶を飲み干し、陸斗は満足げに息をついた。

彼はリビングのソファに深く腰掛け、そのすぐ隣へと引き寄せた。


「なあ、愛華さんさ……。いつまでもこんな広い部屋で、あの旦那の思い出にしがみついている必要なんてないんじゃないか?」

陸斗のトーンが、先ほどまでの爽やかなものから、より低く、耳元を舐めるようなねっとりとしたものへと変わった。


愛華はグラスをテーブルに置き、少し困ったような、しかしどこか酔いしれたような笑みを浮かべた。

「……どういうこと? ここは一真が遺してくれた大切なマンションだもの、簡単に離れるわけにはいかないわよ」


「一真だって? あんな、仕事ばかりで妻を放置して、勝手にぽっくり逝きちまった男のことなんか、もう忘れたほうがいいって。……正直、お前も内心スッキリしただろ?」


――ぞっとするような沈黙が、リビングルームに落ちた。


愛華の表情が、一瞬だけピクリと硬直した。

「……どういう意味よ、それ」


「そのままの意味さ」

陸斗は愛華の顎を優しく、しかし強引につまみ上げ、その逃げ場のない瞳をじっと覗き込んだ。彼の声には、若さゆえの残酷さと、すべてを自分のものにしたいという剥き出しの独占欲が満ち溢れていた。


「あいつが消えたおかげで、手に入ったんだろ? この数億円とも言われるタワマンも、莫大な生命保険金も、そして……俺とこうして自由に愛し合える時間も。なあ、愛華さん。あいつが消えて、本当はスッキリしたろ?」


その言葉は、あまりにも直截的で、あまりにも暴力的だった。

夫の死を悲しむべき未亡人に向かって、「夫が消えてスッキリしただろう」と笑いながら言い放つ。それは単なる不倫相手のセリフではない。彼女が抱いていた心の闇、そして犯罪の共犯者としての本質を容赦なく突く、悪魔のような囁きだった。


ベビーベッドの中で、俺はそのやり取りを冷徹に聞き逃さなかった。


(言ったな……! 「あいつが消えてスッキリしたろ」と、自分の口でハッキリと……!)


その瞬間、リビングの壁際に設置されていたスマートスピーカーのインジケーターが、ピカッと青く眩い光を放った。

ベビーモニターの音声を逆流させ、さらにリビング全体の空間音声をキャッチするよう仕込んでおいた自動録音システムが、陸斗のその声を完璧な音質で捉えたのだ。


『――音声データのキャプチャおよびクラウドサーバーへの暗号化保存を完了しました』


無機質なシステム音声が脳裏に響く。

陸斗が愛華を口説き、前世の俺の死を嘲笑いながら「あいつが消えてスッキリしたろ」と迫るその決定的な瞬間の一部始終が、動かぬ音声証拠として完全に記録された瞬間だった。


愛華は陸斗のその言葉に、わずかに息を呑んだ。

彼女の瞳孔が揺れ、恐怖と快感が入り混じった複雑な表情が浮かび上がる。夫を殺した(あるいは見殺しにした)秘密を共有しているという背徳感と、この若い肉体にしがみつきたいという依存心が、彼女の理性を完全に麻痺させていた。


「……あなたって本当に、性格の悪い男ね」

愛華は小さくため息をつきながらも、陸斗の首筋に腕を回し、その唇へと自分の顔を近づけた。


「性格が悪いのは今更だろ? さあ、余計な話はもうおしまいだ。あのオッサンどもの遺産が手に入ったら、二人で海外のビーチで暮らすんだろ? その予行練習をしようぜ、愛華さん……」


二人の影が重なり合い、リビングのソファの上で深く溺れ合っていく。


その醜く、そしてあまりにも生々しい密会の光景を、ベビーベッドの上から俺は冷酷な、氷のように冷たい瞳で見据えていた。


(いいぞ、もっと溺れろ。お前たちが交わすその愛の言葉も、隠そうとした殺意の言葉も、すべてこの手の中にしっかりと握りしめた。神条の法律上の隠蔽工作、陣内の権力による買収とDNA不一致の絶望、そしてこの陸斗の肉体的な脅迫と共謀の自白――すべてのピースが、完璧に揃った)


弁護士、IT役員、そしてパーソナルトレーナー。

3人の候補男たちの偽りと罪のすべてを暴くための武器は、すでに完全に揃い踏みしていた。


ベビーベッドの柵を握りしめる俺の小さな手は、もはや震えてなどいなかった。

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