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第6話 壊れていたのは誰か

第6話 壊れていたのは誰か


大神殿の祭壇へ進んだミレイユは、純白のドレスの裾を両手で広げ、真珠の飾りが正面から美しく見えるよう整えた。青黒く染まった手袋は侍女へ渡してしまったため、細い指には浄化水の雫が残っている。薔薇水の匂いはほとんど消え、その下に隠れていた百合と焦げた薬草の臭気が、浄化草の煙に押し出されるように強くなっていた。参列席の獣人たちは次々に鼻元を押さえ、王弟は眉を寄せながら隣の司祭へ臭気の正体を尋ねた。


「では、わたくしから先に触れればよろしいのですね?」


ミレイユは周囲の反応に気づかないふりをして、祭壇の水晶球へ右手を伸ばした。神具の内部を漂っていた銀色の粒が一斉に止まり、水晶の表面へ細い白線が走る。最高司祭は、まだ触れないよう杖で床を一度打った。先にリュカも祭壇へ上がり、二人が同時に神具へ魔力を注がなければ正しい判定はできないからである。


「リュカ様、早くいらしてください。皆様が、わたくしたちの祝福を待っていますわ」


ミレイユは花嫁が花婿を迎えるように左手を差し出した。リュカは濃紺の礼装の裾を整え、黒い布で吊った左腕をかばいながら階段を上がる。しかし、差し出された手を取らず、祭壇を挟んだ反対側へ立った。二人の間には透明な水晶球が置かれ、表面へ窓から入る白い光が映っていた。


エレナは両親の後ろで、膝に置いた手を重ねていた。濃い青色のドレスの裾には、去年こぼされた葡萄の果汁の染みがまだ薄く残っている。母が今朝縫い直した襟元の糸は一本だけ色が違い、間近で見れば修繕した箇所が分かった。エレナは指先でその糸を確かめながら、自分が番だと認められることより、リュカを苦しめてきた原因が二度と彼へ近づかないよう願った。


「儀式の手順を説明する。二人は水晶の左右へ手を置き、わしが合図をしたのち、同時に魔力を注ぎなさい」


最高司祭オルランドは二人の間へ立ち、神具の台座に刻まれた文字を杖で示した。魂が共鳴する二人なら水晶は金色か銀色に輝き、互いの魔力を受け入れる。番でなければ何の反応も示さないか、それぞれの魔力が別の色となって現れる。外部から薬や魔術による干渉が行われた場合は、神具がその力を異物として排出すると説明した。


「異物などありませんわ。わたくしたちは、正真正銘の番ですもの」


ミレイユは最高司祭の説明を途中で遮り、水晶へ右手を置いた。磨かれた表面は冷たかったらしく、指先が一瞬だけ縮む。リュカも右手を反対側へ置いたが、彼女の顔を見ようとはしなかった。参列者が息を潜める中、祭壇の横にいた若い司祭の腹が小さく鳴り、本人は耳まで赤くして法衣の上から腹を押さえた。


「朝食を抜いたのか」


最高司祭が小声で尋ねると、若い司祭は寝坊したため豆のスープを飲めなかったと答えた。張りつめていた堂内に、咳払いとも笑いともつかない音がいくつか漏れる。ミレイユは大切な儀式を台無しにされたと若い司祭をにらんだが、リュカはエレナの父が小さなチーズパンを司祭へ渡そうとして母に止められているのを見て、わずかに口元を緩めた。どれほど大きな出来事の最中でも、人は腹を空かせ、誰かが食べ物を持ち歩いているのだと思うと、彼の肩から余分な力が抜けた。


「始める。己の力を誇示しようとせず、普段どおりの魔力を神具へ流しなさい」


最高司祭が杖を掲げると、リュカは静かに目を閉じた。ミレイユは彼より先に結果を出そうとするように、水晶へ強い魔力を注ぎ込む。透明だった神具の内部へ淡い桃色の光が広がり、その直後、リュカの銀色の魔力が反対側から流れ込んだ。二つの光は中央で触れたが、重なることなく、油と水のように押し合った。


「どうして光が混ざらないのですか。もっと魔力を出してください、リュカ様」


ミレイユは水晶から手を離し、リュカの右手を上からつかんだ。素肌が触れた瞬間、リュカの銀色の魔力が大きく逆立ち、水晶の中で鋭い音が鳴る。彼の手の甲には冷たい痺れが走り、喉の奥へ薬を飲んだときのような苦味が広がった。けれども以前のように動けなくなるほどではなく、参列席にいるエレナの気配を感じることで呼吸を保つことができた。


「手を離せ。決められた手順に従え」


リュカが低く告げても、ミレイユは指へ力を込めた。二人の魔力は激しく衝突し、水晶の内部で桃色と銀色が細かく砕ける。次の瞬間、神具全体が鈍い灰色に濁った。腹の底へ響くような音が鳴り、見えない力が祭壇から広がって、二人の身体を反対方向へ弾き飛ばした。


リュカは石床へ片膝をつき、右手で身体を支えた。傷のある左腕へ衝撃が伝わり、黒い布の下から血が少し滲んだが、倒れることはなかった。ミレイユは純白の裾を踏んで背中から床へ倒れ、真珠の冠が髪から外れて階段を転がった。冠は三段目で止まったものの、縫いつけられていた真珠が何粒も外れ、白い石の上を乾いた音を立てて散らばった。


「結果は明白である。二人の魂には共鳴がない。それどころか、リュカ殿の魔力はミレイユ嬢との接触を強く拒絶している」


最高司祭が宣言すると、大聖堂に低いどよめきが広がった。ヴァルフェン侯爵夫人は席を立ちかけたが、リュカが無事であることを確かめて座り直す。ラングレー侯爵は肘掛けをつかみ、散らばった真珠と倒れた娘を交互に見ていた。ミレイユの侍女は助け起こそうとしたものの、最高司祭に止められ、その場へ立ち尽くした。


「違います。今のは、わたくしが転んだからですわ。もう一度行えば、正しい結果が出ます」


ミレイユは自分で立ち上がり、外れた髪を手で押さえた。純白のドレスの背中には床の灰がつき、長い裾の一部が靴へ絡んでいる。彼女は冠を拾おうともせず、再び祭壇へ手を伸ばした。すると灰色に濁った水晶が震え、表面から白い神聖魔力が噴き出した。


白い光はミレイユの手首から腕へまとわりつき、肌と髪に残っていた魔導薬を容赦なく引き剥がした。百合の匂いが一度だけ濃くなり、直後に焦げた薬草と腐った果実の臭気が大聖堂を満たす。ミレイユの毛穴や髪の間から黒い靄が立ち上り、純白のドレスの周囲を蛇のように這った。香炉を持つ司祭たちは咳き込み、参列者の何人かはハンカチで鼻と口を覆った。


「何ですの、これは。わたくしに何をしたのですか!」


ミレイユは黒い靄を手で払おうとしたが、触れるたびに指へべっとりと絡みついた。神聖魔力は彼女の胸元、髪飾り、爪の間にまで入り込み、隠されていた薬の残滓を一つずつ表へ出していく。真珠の冠の内側にも青黒い油が塗られていたらしく、床へ転がった冠から細い煙が上がった。最高司祭は杖を向け、黒い靄が参列者へ流れないよう結界を張った。


「これは月惑いの香油だ。番に似た匂いを作り、獣人の嗅覚と魔力を惑わせる禁制薬である」


最高司祭の声が堂内へ響き、参列者たちの視線が一斉にミレイユへ集まった。支援市で彼女の味方をしていた令嬢たちは顔を伏せ、扇の陰で互いに何かをささやいている。国王の名代である王弟は、持参した記録官へ一言も漏らさず書き留めるよう命じた。記録官は慌てて羽ペンを動かし、インクを袖へ飛ばしたが、拭う時間もなく羊皮紙へ文字を書き続けた。


「違うわ。神具が壊れているのよ。わたくしがリュカ様の番なの!」


ミレイユは黒い靄に包まれたまま、水晶へ両手を伸ばした。神具は彼女の指が触れる前に強く発光し、もう一度その身体を弾いた。今度は司祭二人が受け止めたため倒れなかったが、ドレスの肩紐が切れ、真珠がさらに床へ散った。彼女は司祭の腕を振り払い、壊れているのは神具だ、最高司祭もエレナに買収されたのだと叫んだ。


「大神殿の神具を、ローデンベルク伯爵家が買収できるとお考えなのですか」


王弟が尋ねると、ミレイユは、エレナが人族の魔術で全員の目を欺いているのだと答えた。誰かが反論するたびに、その者もエレナに操られていると言い換える。証拠が示されても、証拠を出した者が敵になり、神具に拒まれても神具のほうが壊れたことになる。彼女の中では、自分がリュカの番だという結論だけが動かず、周囲の現実はすべてその結論に合わせて塗り替えられていた。


「アルフレッド・グレイ。調査結果を提出せよ」


王弟の命令を受け、アルフレッドは参列席から立ち上がった。黒い礼装の胸元を整え、革張りの書類箱を抱えて祭壇の前へ進む。箱の留め具には何度も開閉した跡があり、角には昨夜こぼした珈琲の薄い染みが残っていた。徹夜で資料を整理したため、彼の目の下には普段見られない影ができている。


「こちらは王都南区の魔導薬商から押収した裏帳簿です。三年前から、マリー・ランゲという偽名で月惑いの香油が購入されています」


アルフレッドは帳簿を開き、購入日と金額が記された頁を王弟と最高司祭へ示した。代金はラングレー侯爵家と取引のある服飾商を経由して支払われ、受取人にはミレイユ付きの侍女の特徴が記録されている。さらに、香油が購入された翌日には、ミレイユがヴァルフェン侯爵邸や騎士団行事へ出席していた。日付を照合した一覧表も用意され、リュカの体調不良を記録した医務日誌と一致していた。


「帳簿など、いくらでも偽造できますわ。アルフレッドは、昔からエレナの味方でしたもの」


「私はエレナ様と二人で話したことすら、今回の事件までほとんどありません」


アルフレッドは表情を変えずに答え、次の証拠を取り出した。青い硝子瓶が三本、綿を詰めた木箱の中へ並んでいる。一本は騎士団の廊下で見つかった破片と形が一致し、残る二本は行方を捜していた侍女が、ラングレー侯爵邸の外に借りていた部屋から発見されたものだった。瓶の底には月惑いの香油が乾いて残り、一本にはミレイユの名を示す頭文字が金色で刻まれていた。


「その侍女は昨夜、王都東門の宿屋で保護されました。姿を消したのは、ミレイユ嬢からすべての責任を負うよう命じられ、従わなければ家族を領地から追放すると告げられたためです」


アルフレッドが説明すると、扉の横に控えていた衛兵が一人の若い女を連れてきた。ミレイユに仕えていた侍女で、栗色の髪を簡素に結び、右頬には小さなほくろがある。着ている灰色のワンピースは宿屋から借りたものらしく、袖丈が合わず、手首が大きく出ていた。女は祭壇へ近づくにつれ足を止めかけたが、アルフレッドに促され、証言台の前へ立った。


「申せ。誰の指示で、月惑いの香油を購入した」


最高司祭に問われ、侍女は乾いた唇を舐めた。朝から何も口にできなかったらしく、腹が小さく鳴る。先ほど空腹を訴えた若い司祭が自分の法衣を探り、どこからか干し林檎を一切れ取り出したが、今は渡せる状況ではないと気づいて手を引っ込めた。侍女はその動きを見て一度だけ息を吐き、ミレイユのほうへ顔を向けた。


「三年前、ミレイユ様から命じられました。リュカ様が成人しても番の徴候を示さなかったため、このままでは別の方を選んでしまうとおっしゃって……」


「嘘よ! あなたが勝手に買ったのでしょう!」


ミレイユが叫ぶと、侍女の肩が跳ねた。それでも女は逃げず、最初の一本を買った夜のことを話し始める。ミレイユは鏡の前で瓶を開け、自分の手首へ一滴つけた。甘い匂いが立ち上ると何度も笑い、これで皆が自分をリュカの番だと認めると言ったという。


「初めは、一度だけのつもりだとおっしゃっていました。夜会で番だと発表してしまえば、両家も婚約を進めるだろうと。でも、リュカ様が反応を示されなかったため、量を増やすようになりました」


侍女の証言によれば、ミレイユはリュカに近づく前、必ず香油を首筋と髪へ塗っていた。効果が弱いと感じれば菓子や手紙へ染み込ませ、ヴァルフェン侯爵邸の客間にも少量を垂らした。リュカが頭痛を訴え始めても使用をやめず、むしろ彼の具合が悪いのは、番である自分から離れているためだと言うようになった。医師が香油の使用を控えるよう勧めた際には、その医師を屋敷から追い出した。


「わたくしは、そんなこと言っていないわ。最初から、わたくしはリュカ様の番だったもの」


ミレイユは侍女を見ながら首を横へ振った。ところが侍女は、初めて香油を使った日のことを記した手紙を持っていた。ミレイユが薬商との連絡を侍女へ命じたもので、そこには「本物の番が現れる前に、私が番だと全員へ認めさせる」と本人の筆跡で書かれている。紙の端には化粧用の紅がつき、裏面には衣装に使う真珠の数まで走り書きされていた。


「これは、あなたの字ではないのか」


ラングレー侯爵が席から立ち、掠れた声で尋ねた。ミレイユは手紙を見ようとせず、父まで騙されていると言い返す。侯爵は娘の字を幼い頃から知っており、家庭教師へ出した謝罪文も、母親の誕生日に添えた短い手紙も同じ右上がりの文字だった。彼は椅子へ戻らず、その場で額を片手に覆った。


最高司祭は手紙を受け取り、記録官へ渡した。最初に嘘をついた時点で、ミレイユ自身が番ではないと知っていたことは明らかだった。しかし、その夜会のあとから彼女は、自分は幼い頃から番の気配を感じていたと話し始めた。翌年には、幼少期にリュカから番だと告白されたという出来事を作り、その次の年には、両家が生まれたときから婚約を決めていたと記憶を書き換えた。


「わたくしたちは、樫の木の下で約束したでしょう。大人になったら結婚すると、あなたが言ったのよ」


ミレイユは床に散った真珠を踏みながら、リュカへ近づいた。リュカはその思い出を知っていたが、内容はまったく違っている。樫の木の下で結婚の話をしたのは、六歳だったミレイユが、リュカとエレナの両方を自分の使用人にすると言い出したときである。リュカは使用人にはなれないと断り、エレナは三人で近所に住めば毎日遊べると答えた。


「俺は、君と結婚すると約束していない。あの日、俺は木から落ちた君の靴を拾っただけだ」


リュカが事実を話すと、ミレイユは彼の記憶までエレナに書き換えられたのだと言った。リュカが否定すればするほど、彼女は声を大きくした。幼い頃に菓子を分けてもらったことも、舞踏会で最初に踊ったことも、怪我をしたときに見舞われたことも、すべて番である証拠として並べ直される。そこにリュカ自身の考えはなく、ミレイユが望む役割だけが与えられていた。


「リュカ様、わたくしを見て。あなたはわたくしを選ぶはずでしょう?」


ミレイユは崩れた髪を両手で直し、頬に流れた化粧を手の甲で拭った。純白だったドレスには黒い薬の染みが広がり、真珠を失った糸が何本も垂れている。それでも彼女は花嫁のような微笑みを作ろうとし、リュカへ手を差し出した。彼がその手を取れば、すべてが元に戻ると信じているようだった。


リュカは祭壇から下り、ミレイユの前へ立った。幼い頃の彼女が転ぶたびに手を差し出し、泣けば菓子を譲ってきたことを思い出す。今回も少し言葉を和らげれば、彼女は一時的に落ち着くかもしれない。しかし、その場しのぎの情が三年前の嘘を育て、エレナや家族、騎士団の者たちまで傷つける結果を招いた。


「俺が選ばなかったという事実を、君は一度も見ようとしなかった」


リュカは声を荒らげず、差し出された手を取らなかった。ミレイユの指が宙に残り、作りかけた笑みが顔へ張りついたまま止まる。リュカは幼馴染だった過去まで否定するつもりはないが、その過去を理由に自分の人生を差し出すことはできないと告げた。番であるかどうか以前に、嘘を重ね、他者を害し、自分の意思を無視した相手を選ぶことはないと言い切った。


「では、わたくしは何のために、ずっとあなたの隣にいたの?」


ミレイユの声が小さくなり、伸ばしていた手が下がった。誰かの隣にいた年月は、相手を手に入れるための代金ではない。幼馴染として過ごした時間も、贈った品も、流した涙も、リュカの選択を買う権利にはならなかった。最高司祭は彼女へそのことを伝えたが、ミレイユは床に落ちた真珠を見つめたまま返事をしなかった。


しばらくすると、彼女は散らばった真珠を一粒ずつ拾い始めた。指が震えてうまくつかめず、拾ったそばから手のひらの隙間を抜けて床へ落ちる。侍女が手伝おうと近づくと、ミレイユは触れないでと鋭く叫んだ。これが花嫁の冠なのだから、リュカとの式までに直さなければならないと繰り返しながら、黒く汚れたドレスの裾へ真珠を集めた。


王弟は衛兵へ合図を送り、ミレイユを祭壇から離すよう命じた。ただし、判決が出る前に罪人として扱うことはせず、神殿内の控え室で医師と監視役をつけるよう指示する。衛兵が左右から近づくと、ミレイユは真珠を握ったまま後ずさった。彼女の瞳はリュカではなく、参列席に座るエレナへ向けられた。


「あなたがいなければ、何もかもうまくいったのに」


ミレイユはそう言ったが、エレナは席から逃げなかった。自分がいなくても、リュカは薬に触れられるたびに苦しみ、いつか偽りへ気づいていたはずである。ミレイユが失ったものは、エレナに奪われたのではない。相手の意思を見ず、自分の望みだけを真実にしようとした結果だった。


衛兵に付き添われて歩き出したミレイユの手から、真珠が一粒落ちた。白い粒は石床を転がり、先ほど腹を鳴らした若い司祭の靴へ当たって止まる。司祭はそれを拾ったものの、どこへ返せばよいか分からず、法衣のポケットへ一時的に入れた。そこには食べ損ねた干し林檎も入っており、真珠は甘い果物の匂いがついた布へ沈んだ。


大聖堂の扉が閉まり、ミレイユの声が聞こえなくなると、最高司祭は神具の浄化を命じた。司祭たちが水晶へ清めの水を注ぐと、鈍い灰色が少しずつ消え、元の透明な輝きが戻っていく。黒い靄は香炉の炎で焼かれ、腐った果実の臭気に代わって、松と薄荷の香りが堂内へ広がった。参列者たちは長く止めていた息を吐き、椅子の上で姿勢を直した。


「偽りについての判定は終わった。だが、本日の儀式はまだ終了していない」


最高司祭は透明になった水晶を確かめ、参列席のエレナへ顔を向けた。大勢の視線が集まり、エレナの父は無意識に上着の釦へ手をやった。今度は掛け違えていないことを母が確かめ、夫の手をそっと押さえる。エレナは濃い青色のドレスの裾を整え、自分の足で立ち上がった。


「エレナ・ローデンベルク。祭壇へ進みなさい」


最高司祭の声が大聖堂へ響いた。リュカは彼女へ手を差し出しかけたが、すぐに止めた。神具へ向かうかどうかも、彼女自身が決めるべきだと気づいたからである。エレナは両親を振り返り、二人が頷くのを確かめると、床に残った最後の真珠を踏まないよう避けながら、祭壇へ向かって歩き始めた。


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