第7章「静寂の朝」
《グラディス城周辺 〜ユハ〜》
風を切る音だけが、やけに大きく聞こえる。
『……は、っ』
息が浅い。
でも、足は止まらない。
城周辺。
大通り。
ルーメンの森。
大きく息を吸い込み、声を張る。
『みんなー!終わったよ!』
その一言で、空気が変わる。
座り込む人。
拳を上げる人。
安堵が広がる。
⦅さっきの血、まだ手に残ってる気がする⦆
そっと手を握る。
確かめるみたいに。
リアンは、もう屋敷に戻っている。
眠ったまま。
何度も往復する。
城と屋敷を。
人を運ぶ。
声をかける。
住民は多くない。
でも、
みんな、疲れきっている。
いつもの屋敷に戻るには、
少し時間がかかりそうだ。
また、景色が揺れる。
誰かの横を、すり抜ける。
倒れている兵。
動かない影。
⦅今は……見ない⦆
考えない。
今はただ、
『…大丈夫』
小さく呟く。
それが誰に向けた言葉なのか、
自分でも分からないまま。
足を止めない。何度でも往復する。
みんなを、連れて帰るために。
《グラディス国 ホール〜ヴェスカ〜》
終わった。
一息置いて周りを見渡し、一人の男へ歩み寄る。
『そこの紫衣の者。』
男が顔を上げる。
その瞳には、明確な恐怖。
「……お願いします。どうか国は……」
言い終わる前に、口を開く。
『安心なさい。無用な争いを続ける気はないわ』
わずかに間を置く。
『グラディスは——私の父の母国だから』
それを聞いた男は驚いたように目を白黒としている。
父親母国といえど200年ほど前の事だ当時はかなり大ごとだったらしいが、それだけ昔だと文書の1つも残っていなかったのか。
一度息を吸い直し再び話し始める。
『此方の条件は、貴方が国を統治する事、屋敷の住民に危害を加えない事、ルーメンの森に悪意をもって入らない事。』
『これを飲むならこれ以上危害を加えることは無いわ』
「……?…なぜ私が統治を…?」
『今、ここに意識を失い倒れている者たちは我々に敵意を抱いていた者たち。裏を返せば、意識を保った者たちは我々に本心では敵意が無かった。
そして貴方は王の間直で国の政府に関わり我々に敵意を持たない。』
ここまで言えば彼は理解したようで少し俯いたが、すぐに決心したように顔を上げる。
「わかりました。私が責任持って統治します。勿論、今後貴方がたに危害を加える事もありません。」
その返事を聞き軽く頷く。
あとはそれを条約として書面で契約して終わり。
やるべき事が終わり、周辺を見渡す。
屋敷の者たちが皆帰った事を確認し、自身も屋敷へと向かう。
昨夜の騒然とした様子がまるで夢だったかのように、静かに風が流れ少し遠い日の光が差し込めている。
既に夜は明けていた。




