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第6章「暁に還る」

《グラディス城内 ホール〜リアン〜》


血の匂いが、濃い。広いホールに、負傷兵が並べられている。


うめき声。荒い呼吸。押し殺された痛み。


「次だ」


短く告げられる。


『……はい』


自分の声が、遠い。まだ実感が感じられない。


膝をつき、手を伸ばす。


その瞬間。


痛みが、流れ込む。


『……っ』


息が、詰まる。


骨が軋む感覚。裂けた皮膚。焼けるような熱。


全部が、一気に押し寄せる。


それでも。

光を流す。傷が、塞がる。


「次だ」


間髪入れずに、頭上から声が落ちる。


『……』


視界が、滲む。


『(……終わらない)』


また、手を伸ばし触れる。



ーー知らない天井。

ー冷たい床。


「次だ。立て」


『……っ』


違う。

ここじゃない。


でも、“同じだ”

同じ?どこで、前にあった?


首輪が引き上げられ現実に、引き戻される。


目の前の傷が、塞がっていく。呼吸が、浅い。


「止めるな」

身体が引き上げられ歩かされる。


低い声にびくり、と体が揺れる。


『(……ちゃんと、やらなきゃ)』


理由は分からない。

けど、止まれない。


また一人。

また一人。


治していくたびに、何かが、削れていく。


『……ぁ゛』


声にならない音が漏れる。

手が、震える。視界が、白く点滅する。息が、うまくできない


『(……もう)』


限界が、近い。


なのに、


「次だ。早く歩け。」


『………は…ぃ』


その時。


空気が、揺れた。


『……ぇ』


一瞬。

ほんの一瞬だけ。何かが、変わる。


音が、消えた気がした。


『(……なに、これ)』


胸の奥が、強く反応する。

懐かしいような。怖いような。


でも。“知っている”


『……っ』


顔を上げる。



ーーー来る。


そう、思った。


その瞬間。




——轟音。


天井が消し飛び、夜空が剥き出しになる。


瓦礫が降り悲鳴が上がる。


「な、にがっー!」


言葉は、続かない。


その上空。


うまく見えないけど、見知った影が、ある。






《グラディス国 ホール 〜フェリクス〜》


フェリクスは、妖精に抱えられたまま目を細める。


『……見える』


広がる視界。気配の網。


敵の配置が、浮かび上がる。


『左翼、密集。中央、薄い』


短く、告げる。

その声に応じるように、ヴェスカの魔力が収束する。


『そこ』


風が抜けるように、衝撃もない。


ただ、確実に彼女の能力が兵士を撃つ。


兵が、次々と気絶し崩れ落ちる。


一瞬で。

戦線の半分が、沈黙した。


静寂。


誰もが、息を呑む。


「……侵入者だ!!」


叫びが、遅れて響く。


けど、その中心。

王の周囲だけが—、崩れない。


魔力持ちの兵士たちが、壁のように立っている。


『……』


フェリクスが、わずかに眉を寄せる。


『(固いな)』


そして。視線が、下へ落ちる。


『……リアン』


手を止めていない。

治癒を、続けている。


『……なんで』


わずかに、声が揺れる。


ホールに降り立ちヴェスカが、一歩前に出る。


静かな声で話し始める。


「交渉をしましょう。」

「その子を返しなさい。それで、この場は引くわ」


少しの間を置き、王が口を開く。


「断る」


迷う素振りは無い。


「有益な力はそれを活用する者が持つべきだ。」


空気が張り詰める。

誰も動かない……動けない。


「やれ」


静かに冷徹に冷たい声が響く。

それを皮切りに動き始める。


剣が空気を切る。鉄がぶつかり合う。兵の怒号。魔術が爆ぜる。


華美なホールは戦場と化した。


その時。


王への間に隙ができる。


「行ける!!」


一人の声。


その声に視線を向ける。

でもその近く。嫌にニヤつく兵の表情に悪寒が走る。


「待ちなさい!」


ヴェスカの声。

制止より、早い。


光が、膨張する。

ヴェスカが手をかざす。魔力が集中する。


『まず——』


爆発。


2つの衝撃が、全てを飲み込む。

悲鳴。瓦礫。崩れる空間。


爆破の相殺。



『……っ』


直接的ダメージは防いだ。


けれど、衝撃は大きく、衝撃が彼女を弾き多くが壁にうちつけられる。


『ヴェスカ様!』


ドレスは引き裂かれ、細かな切り傷ができている。


他の妖精も爆破の衝撃で体を強く打ち付けていた。


兵士が笑う。状況が崩れる。


(『……っまずいか』)



その時。

ヴェスカの視線が、わずかに動く。


ー窓際。


(来たのね)


何も言わない。ただ、顔を上げる。


「…まだ、話は終わっていないわ」


王へ向き直る。

時間を、引き延ばす。


その裏で。


影が、動く。


——ユハ。



気配を殺し、背後へ。

リアンへと手を伸ばす。


(あと少し)





《グラディス城内 ホール〜リアン〜》


「次だ」


声がする。

誰かが、何かを言っている。


『……』


手を、動かす。触れる。治す。

…それだけ。


何人目かも、分からない。


早く。

もっと。

止めるな。


頭の奥で、何かが繰り返している。


まだ足りない。まだ終わってない。止めたら


『……っ』


息が、詰まる。

怖い。


何が?

分からない。


でも。止まったら、駄目だ。


—轟音。


何かが、壊れる。でも、関係ない。手を、動かす。


その時。


す、と。


音が、遠くなる。


『……?』


誰かが、触れた。


「大丈夫」


声。近いのに、やわらかい。


「もう、誰にも気づかれない」

『……』


分からない。けど、少しだけ。

楽になる。


重かったものが、ゆるむ。

怖さが、ぼやける。


『……だれ』


声にならない。

身体が、支えられる。

歩いている。と思う。足の感覚が、あいまい。


周りが、見えない。

いや、見えているけど、“遠い”。


…なんか……もう…考えなくていいかな。

怖くない。


「もうちょっとだよ」


声が、導く。


『……』


そのまま、身を預ける。


そして。ふ、と。“戻る”。


音。光。気配。

全部が、一気に流れ込む。


『……っ』


視界の先。見えた。


ヴェスカ。フェリクス。


『……え』


なんで。

ここに。


「リアン」


声が、届く。

現実が、戻ってきた。


『(……あれ、なんで)』


助けに、来てくれた?



「……奪われたぞ!!」


誰かの叫び。空気が、変わる。

殺気。


「構うな!!潰せ!!」


兵士が目を血を走らせて刃を向ける。

妖精たちが飛び立つ。


砂が舞う。ぶつかり合う音がする。血の匂い。


『……ごめん…なさい』


消えそうな声。でも、それさえ拾われる。


「大丈夫だよ。リアン。みんないるよ」


すぐ横。白くて小さい子。


『ユハ?』


その顔は大丈夫には見えないほど不器用な笑顔。

いつの間にか天井の無くなった空を見上げる。


月が高い。日が近い。


目の前の戦場に目を向ける。


(『…防戦一方』)


皆ができる事をするしか無い。でも優勢にはならない。


『……』


片側の角に意識を集中する。魔力がより濃くなる。

魔力が溢れて角にヒビが入る。


(『…これなら』)


角をしっかり掴む、深呼吸をして一気に力を入れる。


『…う゛ぁ』


「リアン!何してるの⁉︎血が…」


『…ごめんユハ、肩貸して』


ゆっくりと立ち上がり、あの人の方へ足を進める。


(『…大丈夫』)




《グラディス城内 ホール 〜ヴェスカ〜》


「……奪われたぞ!!」


それぞれで皆が動き出す。

空気が、変わる。突き刺さる殺気。


グラディス兵の魔力が、膨れ上がる。


異様な濃度。


『…っ』


思わず息を詰める。


(『これは…』)


ただ、増やしただけの力。


「薬を使え!!」


理性が削れ、暴力だけが膨張する。


「来るぞ!!」


衝突。

受け止め弾き守る。

けれど。押されてる。


『数が……!』


崩れはしない…が、余裕がない。


『……時間がない』


唇を噛み締める。


(『まさか、あんな物を持ってるなんて…』)


空を見上げる。月がもう高い。

夜が、終わる。


その時。


「……ヴェスカ」


背後に現れたか細い声。


『リアン⁉︎』


まだ足元は覚束なくユハに支えられている。

リアンの手が触れる。


『……?』


「これ……使って」


濃縮された魔力。

まだ血の温もりを残す、折られた角。


『……リアン』


一瞬だけ。ヴェスカの目が揺れる。


けれど、


『…借りるわ』


空気が変わる。

魔力が、収束し始める。


『全員、時間を稼げ。ユハは前線へ。フェリクス、補助を』


声が走る。

皆の動きが、揃う。


ヴェスカの声が響き皆が気を持ち直す。


魔力が練られる。次で確実に決める。


「ユハ、右を崩せ!」


フェリクスの声が響くと同時に影が走る。


ユハが消える。

気づかれないまま、兵の背後へ。混乱が、増す。


「今!」


一瞬の隙。

妖精たちが飛び込む。けれど、押し返される。


「まだだ……!」


フェリクスの声が、研ぎ澄まされる。


「……見えた。ヴェスカ様!」


ヴェスカが、顔を上げる。

魔力が、完成する。


「『そこ』」


妖精たちが一気に身を引く。


——解き放たれる。


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