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第5章「嵐の前」

《ルーメンの森 外縁〜ティア〜》


息を、殺す。羽音すら、最小限に。


下を見れば、グラディスの兵が展開している。

雪は消えかけているけど、踏み荒らされた跡がはっきりと残っていた。


『(……多い)』


けど、怖くはない。

フェリクスの声が、頭の奥に残っている。


(“囲んでください。一人も外へ出さないように”)


小さく、息を吐く。


『(やらなきゃ)』


手を軽く上げ、合図する。

次の瞬間。

森の“上”が、動いた。


枝の影。葉の裏。幹の陰。


そこに潜んでいた妖精たちが、一斉に動き出す。


「——今」


自分の声が、思ったより冷静だった。


眼下で、ざわめきが走る。


「なっ……!?」

「囲まれてる——!」



『(逃がさない)』


上から、糸のような魔術を張る。

空間に、薄く張り巡らせるそれは徐々に形取られ結界になる。


見えない“壁”。

走った兵が、それにぶつかる。


「ぐっ!?」


横から、別の妖精が飛び込む。

武器を弾き、足を止める。

隊列が、崩れ、統率が、乱れる。


『(大丈夫、これでいい)』


殲滅じゃない。

ここですべきは足止め。捕縛。


フェリクスの声が、脳裏をかすめる。


(“時間を稼いでください”)


『…はいっ』


小さく、応える。

森の外縁は、もう閉じている。


誰一人、外へは出さない。


ーーーー



《グラディス国 城周辺 〜ユハ〜》


風が、強い。

街の空気が、ざわついている。


『……うわ、多いなぁ』


思ったより、兵がいる。

城の周り。通り。屋根の上。


あちこちに、気配。


『でも……やるしかない』


ぐっと、手を握り少し深呼吸。

そして一歩、踏み出す。


空間が、歪む。景色が、ズレる。

道が、ほんの少しだけ“違う場所”に繋がる。


走ってきた兵がそのまま、別方向へ抜ける。


「は…今何が…?」


「道が……変わった……?」


『…よし』


うまくいった。これなら。


その時。

歪みが、崩れる。


「いたぞ!!」


『え、ちょっ……!?』


見つかった。しかも早い。


『なんでバレるの!?』


もう一度、空間を歪める。


でも—


浅い。思った位置に、繋がらない。


兵が、別の場所から回り込んでくる。


『(っやばい)』


「囲め!」


「逃がすな!」


兵士の怒号がすぐ後ろまで来てる。


「ユハ!こっちだ」

兵士じゃない別の声が響く、足を強く踏み込み声のする方へ駆ける。


「くはっ…」


振り返ると怒号が消え兵士が倒れていた。

傍には屋敷の中では比較的体格が良い妖精。

その手には大きめのフライパンがひしゃげていた。


「ギネア!」


普段はシェフをしてるギネアだった。


『(シェフ…今フライパンで殴ったよね?)』


「あんたの能力は確かに強力だが油断はすんなよ?

さっもうひと頑張りといこうぜ!」


ギネアも無傷じゃない。でも、力強くて元気になれる。


『おうっ!』


力強く頷き返し、もう一度戦火に飛び込む。

少し集中、でも気の流れに乗る。

周りの空気に身を任せる。


『ここ』


兵士同士がぶつかり合う。妖精たちが兵士の死角に運ばれる。

今なら大丈夫。少しだけ能力がハマる。

混乱が確実に広がっている。


兵同士の衝突。進行方向の狂い。指示が通らない。


『(大丈夫。ちゃんとできる。)』


完璧じゃない。


でも——崩れてる。


『……っと!』


ぎりぎりで追撃を避け、屋根へ跳ぶ。


下を見れば、完全に隊列が乱れていた。


『……よしっ』


息を整える。


『ヴェスカ、今だよ』


小さく、呟く。






《グラディス国 城上空 〜ヴェスカ〜》


その頃。城の上空。


静かに、影が滑る。風を切る音すら、ほとんどない。

月は、まだ高くない。


でも、十分だった。


『……綺麗に崩してくれたわね』


下を見下ろすと、混乱する兵。乱れた配置。


完璧な“隙”。


『さぁーー』


翼をわずかに広げる。


『迎えに行きましょうか』


ーー


そのまま——


影は、城へと落ちた。




《グラディス城内 謁見の間 〜リアン〜》


広いな。

それが、最初の印象だった。


高い天井。冷たい床。

足音が、やけに響く。


『……ここ、どこ』


腕には、重い拘束具。


魔力が、うまく流れない。


「顔を上げろ」


低い声。


ゆっくり視線を上げるとそこにいたのは、王だった。


「……花霊族」


値踏みするような視線が嫌にねちっこい。


『……』


怖いはずなのに、どこか現実感がない。


「噂通りだな」


王は、静かに言う。


「触れるだけで傷を塞ぐ」

「枯れかけた命を繋ぎ止める」


一歩、近づく。


「戦を変える力だ」


『……』


意味が、うまく入ってこない。


だけど、“同じことを言われた気がする”


一瞬、視界が揺れる。


「我が国が動いた理由は単純だ」


王の声が、続く。


「均衡を崩すものは、排除するか——」


「支配する」


空気が冷える。言葉が、出ない。


「ルナロージュ=ノワール…あの一族は秩序を侵す」

「今までだって我々が保ってきたラインを壊し暴虐武人に振舞ってきた。」


一息置きこちらを舐め回すように視線を動かす。


「そして、お前の価値さえ理解できない愚か者だ」


「私ならお前をより効率的に使える。」


その瞬間。

視線が刺さる。知らない声。知らない場所。


何か…身体の芯から冷えるような締め付けられる感覚…


“怖い”


理由も分からないまま、そう思った。


「連れて行け」


鎖が引かれ肩を掴まれる。


「まずは使ってみる」


その言葉に。胸の奥が、強くざわついた。


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