↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
95/95

あとがき

数字だけが知っていた夜

最後まで読んでくれて、ありがとう。

この話を書こうと思ったのは、夜勤が大変だったから、というだけじゃない。

仕事がきつい。

人が足りない。

負担が偏っている。

そんな話なら、どこの職場にもあるだろう。

問題は、そこから先なんだよ。

実際に何が起きているのか。

誰が、どれだけ仕事をしているのか。

どこに負担が集中しているのか。

そういうことを、きちんと見ようとしているのか。

そして、見ようとしないまま判断したとき、何が起きるのか。

俺が気になったのは、そういうことだった。

俺は、最初から会社と戦いたかったわけじゃない。

誰かをやり込めたかったわけでもない。

ただ、現場で起きていることを知ってほしかった。

だから記録を取った。

数字にした。

報告書にまとめた。

改善できるところは、改善してほしいと思った。

自分の見方が間違っている可能性だってある。

だからこそ、感覚だけで話をするのではなく、数字を残そうとした。

俺一人の感想で終わらせたくなかったんだよ。

実際、データを取ったのは俺一人じゃない。

一緒に記録を積み重ねた人間がいた。

現場を離れた人間が残したものもあった。

そうやって、少しずつ事実を積み上げていった。

ところが、数字を出せば、すべてが伝わるわけじゃなかった。

説明すれば、分かってもらえるわけでもなかった。

ここが、なかなか難しい。

数字は嘘をつかない。

……なんて言うけどさ。

数字を見た人間が、どう受け取るかまでは、数字には決められないんだよ。

同じ数字を見ても、考え方は違う。

何を重視するかも違う。

自分が見ている範囲を、現場のすべてだと思ってしまうことだってある。

そして、気づかないうちに、判断する側と、そこで働く側の認識が離れていく。

誰か一人が悪いと決めつければ、話は簡単になる。

でも、本当にそれだけなのか。

そこを考えずに結論を出してしまえば、同じことが別の場所でも起きるかもしれない。

この話は、そんなことを考えながら書いた。

もちろん、俺自身に問題がなかったと言うつもりはない。

腹が立った。

納得できないこともあった。

感情的になったこともある。

言い方も含めて、別のやり方があったんじゃないか。

今になって考えることだってある。

自分の主張が正しいと思っていても、どんな言い方をしてもいいわけじゃない。

そこは、俺も同じだ。

ただし。

俺の言動に問題があったことと、それ以前に現場で何が起きていたのかという問題は、別の話なんだよ。

片方だけを取り上げて、もう片方までなかったことにはできない。

逆に、数字があるからといって、俺の言動のすべてが正当化されるわけでもない。

どちらか一方だけを見れば、話は簡単になる。

でも、現実はそんなに都合よくできていない。

俺自身も、その現実の中にいた。

だから、この話を読んで、俺だけが正しかったと思ってほしいわけじゃない。

かといって、俺が悪かった、それで終わりにしてほしいわけでもない。

何が起きていたのか。

なぜ、そこまで話が噛み合わなくなったのか。

そして、どうして最後には、説明し続けることをやめたのか。

そこまで考えてもらえたら、それでいい。

途中から、俺の考え方は変わった。

何とか分かってもらおう。

現場を改善しよう。

自分が見てきたことを、きちんと認めてもらおう。

最初は、そう思っていた。

でも、いつまでも同じことを繰り返していると、あるとき、ふと思うんだよ。

もう、いいんじゃねえか、と。

怒りが消えたわけじゃない。

納得したわけでもない。

相手の言い分を理解して、すべてを受け入れたわけでもない。

ただ、これ以上、自分の時間と労力を使って、分かってもらうことだけにこだわる必要があるのか。

そう考えるようになった。

戦い続けることだけが、責任の取り方じゃない。

自分にできることをやる。

記録を残す。

必要なことを伝える。

そして、その先の判断は、判断する側に返す。

そこまでやったら、自分はそこを離れる。

それも一つの選択なんだと思った。

辞めたからといって、すべてが解決したわけじゃない。

俺がいなくなった後、現場がどうなるのか。

何が変わり、何が変わらないのか。

それを自分の思いどおりにすることはできない。

だからこそ、最後まで自分が関わり続ける必要もない。

自分が去った後のことまで、すべて自分の責任にする必要はないんだよ。

この作品には、数字が何度も出てくる。

荷物の個数。

重量。

時間帯ごとの実績。

人員配置。

勤務の実態。

数字ばかりで、少し面倒に感じた人もいるかもしれない。

でも、あの数字がなければ、俺が何を問題にしていたのかは、うまく伝わらなかったと思う。

忙しかった。

大変だった。

不公平だった。

そう言うだけなら簡単だ。

けれど、それだけでは、受け取る側によって意味が変わってしまう。

だから、数字を残した。

もちろん、数字だけですべてが分かるわけじゃない。

人間関係もある。

その場の空気もある。

言葉にできなかったこともある。

それでも、数字があれば、少なくとも、そこから考え始めることはできる。

誰かの感想だから、と片づける前に。

一人の不満だから、と決めつける前に。

実際には、どうだったのか。

そこを見てほしかった。

そして、俺がいなくなった後、現場には現場の現実が残った。

人が必要になれば、募集をする。

人がいなくなれば、仕事をどう回すか考えなければならない。

荷物は、誰かが処理しなければならない。

夜が明ければ、朝の仕事が始まる。

誰かが辞めても、仕事そのものが消えるわけじゃない。

当たり前の話だ。

でも、その当たり前のことを、実際に人がいなくなってから考えることもある。

そして、そのときには、もう以前と同じ状態には戻せないこともある。

俺が伝えたかったのは、そういう現実だった。

最後に、一つだけ。

この作品は、誰かを悪者にして終わるための話じゃない。

会社全体を敵にした話でもない。

俺が見ていたものと、判断する側が見ていたもの。

その間にあったズレ。

数字を残しても埋まらなかった溝。

そして、最後に俺が選んだ撤退。

そういうものを書いたつもりだ。

読んだ人が職場の管理者なら、自分が見ている範囲だけで判断していないか、少し考えてみてほしい。

現場で働く人なら、自分が感じている問題を、どうすれば相手に伝えられるのか、考えるきっかけにしてほしい。

どちらでもない人なら、誰かの話を聞いたとき、片方の言い分だけで結論を出していないか、振り返ってもらえたらと思う。

もちろん、俺の考えがすべて正しいとは限らない。

この作品の中にも、俺自身の見方や解釈がある。

そこは、読む人が考えればいい。

俺が正しいと認めてもらうために、最後まで書いたわけじゃないからな。

ただ、実際に何が起きていたのか。

何を記録し、何を伝えようとしたのか。

そして、なぜ俺がそこを去ったのか。

それを、なかったことにはしたくなかった。

だから、書いた。

それだけだ。

気づいたときには、もう終わってる。

人がいなくなってから、初めて気づくことがある。

問題が起きてから、初めて見えてくることがある。

誰かが何度も説明していたのに、そのときには届かなかった話が、本人がいなくなってから、別の形で現れることもある。

そのとき、誰が正しかったのか。

それを決めるのは、読む人に任せたい。

俺は、もうそこにはいない。

残ったのは、数字と記録。

それから、俺が見てきた一年間の出来事だ。

数字だけが知っていた夜。

あの夜に何があったのか。

それを、ここに残しておく。

最後まで読んでくれて、ありがとう。

――俺は、もう次に進む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。