ななななななな・七不思議
「ということで学校の七不思議を捕まえるぞ!」
「前提がないのに前提があるものとして話を進めないでください」
我が怜悧なるアイディアに水を差すのは、いつだって学友である。放課後、己がクラスの教壇に威風堂々と立つ私は、拳を振り上げ朗々と語った。
「私の意見に反駁の余地はない。その前提で進めようではないか。
学友は知っているのか? 我らが母校の七不思議を! 私は知らない。じゃあみんな知らない。
ならば捕らえてインターネッツの白日に引きずり出してやろうではないか。七不思議の墓標にデジタルタトゥー刻むのだよ!」
「誤った前提は議論を迷走させる……!」
生徒役よろしく机に座した学友が何やらほざいているが、知ったことではない。
「しかしまぁ、七不思議を探そうにも我々お友達が少ない上に人見知り激しいから、聞き込みとか無理だろう?」
「……」
珍しく学友が黙っている。
「ということで、心強い助っ人をお呼びした!
コミュ強といえばギャゥ! 我らがギャゥ子(愛称)様!」
「初対面の人とは淫夢語録でしか話せなくなりまーす。よろしくぅー」
「いつの間にギャゥ(愛称)と付き合い始めた? マッシュヘア眼鏡男子君!」
「みんなからは特技がないのび太くんって呼ばれてるでがんす。よろしくでががんす」
「押せばなんでも言うことを聞いてくれる! 八尸さんの親友、小柄かわいいクラスメイトちゃん!」
「えっと、ね、うん。よろしく、ね?」
「なんでこのメンツで行けると思ったんですか?」
学友はこめかみを両手でマッサージしつつ言葉を重ねた。
「どうして突然、七不思議がどうの、という話になったんです。殊、あなたは先日も狐に……」
その先を口にするのは憚られたらしく、学友の言葉は尻すぼみになった。
「生徒会がこの学校の公式アカウントを運営してるだろう? そのアカウントが『我が学校の七不思議募集してます! ご存知の方は是非コメントください!』って投稿してるのに3いいね、1リポスト、コメントゼロじゃないか。
見てていたたまれなくなったから七不思議を捏造して盛り上げてあげようかと」
「この公式アカウントあれだよねー。前に初体験の年齢アンケートを取って、爆炎上かましてからおもんないことしかポストしなくなったよねぇー」
「この学校の生徒であることが恥になるようなことしかやらない公式アカウントでがんすな!」
「生徒会会計監査役として申し上げます。誠に申し訳ございませんでした」
机に額を擦り付ける勢いで謝罪する学友を尻目に、私は黒板へ文言を書きつける。
「まぁ、公式アカウントの件はあくまできっかけだ。いきものがかりの活動も今日はない。
七不思議探し、暇つぶしにはちょうどいいだろう?」
「私らも七不思議探しついでに人気のないところ見つけて、いちゃいちゃできたらそれでいいしねぇー」
「学校内での不純異性交遊、学生時代でしか味わえない青春の味でがんす」
「それを邪魔するためのクラスメイトちゃんだ。共に最悪のタイミングでカップルの間に割って入ろうな!」
「えっと、ね、あの、うん。がんばる、ね」
「嫌なことは嫌と言っていいんですよ」
私は黒板を見上げてふぅと息をつく。
・トイレの花子さん
・走り出す人体模型
・動き出す二宮金次郎像
・誰もいない音楽室から鳴るピアノ
・目が動く音楽室の肖像画
・誰もいない体育館でボールの跳ねる音がする
・開かずの部屋
・段数が増える階段
・貸出禁止の本を読んだら呪われる
・深夜大鏡を覗くと死に顔が見える
・桜の木の下には死体が埋められている
・七不思議を全て知ると死ぬ
「とりあえずド定番の七不思議を書き出した。この中で検証可能なものを選び出し、手分けして調査しよう。
もちろんこの学校独自のガチ七不思議がある可能性もあるから、それを知ってそうな人物がいたら挙げて欲しい」
「てかさ、もううちの高校七不思議何個かはすでにあるくね? 急に校舎に神社できたんだってぇー」
「そういえば、窓ガラスに変なモノが映るとかいう噂もあるでがんすね。眉唾でがんす」
「ははは聞いたことないなぁ」
私と学友が体験したよくわからん事件が七不思議として、語り草になろうとしている。学友が何か言いたげな視線を向けてくる。私の背にもよく分からない汗がぷつぷつ浮かぶ。
我々をよそにギャ(愛称)と眼鏡男子はチョークを持って、思い思いに黒板へ文字を書き足していく。
「僕ら七不思議を7つ以上把握してるわけでがんすが、死なないでがんす?」
「とりあえず二宮金次郎と大鏡はこの学校にないから削除、トイレは散々使ってるから花子さんがいないのは自明だ」
「音楽室はガチガチに施錠されてるから入れないしー。体育会系吹奏楽部にかち合うかもしんないの無理すぎ」
「深夜に学校へ侵入するのは内申点が下がるからナシでがんすな。桜の木の下も掘る元気がないから却下でがんす」
「あの、ね? 司書さんと、仲良いから、か、貸出禁止の本、調べるよ、ね?」
「死ぬらしいですが大丈夫ですか?」
「あと校長にこの学校にまつわる怪談を聞くかぁ」
「なんで校長ー?」
「校長って田舎の村長みたいな、なんでも知ってそうな雰囲気ないか?」
「ありません」
「この高校に五浪してる先輩と知り合いでがんす。五浪先輩に聞いてみるでがんすよ」
「なんか怪談に詳しい、オカルト部みたいなのないのー?」
「オカルト部ではありませんが、ミステリー同好会はありますね。
面白い話を聞けるかもしれません。部費関連で何度か部長さんと話したことがあるので、そちらは私が」
侃侃諤諤の議論の末、割り振りは以下のようになる。
ギ(愛称)と眼鏡男子は五浪先輩に聞き込み。のちに部室棟の旧校舎で、階段の段数と開かずの部屋の調査を片手間でこなしつつ、男女の営みに励む。
学友は校長とミステリー同好会の聞き込み。
私は化学準備室・化学室の人体模型を調べ、体育館を遠目に観察しつつ、いちゃつく男女の邪魔をするために旧校舎へ急行。
クラスメイトちゃんはそこそこの量がある貸出禁止の本の調査。終わり次第旧校舎へ、私と共に他人の恋路をめちゃくちゃにする。
「よし、調査は18時まで! 黄昏時にまた会おう!」
「もうゴロー先輩に会わないでいちゃいちゃしにいかね?」
「さっさと調査終わらせて邪魔してやるからな」
「本末が転倒しすぎて意味が分からなくなってきたでがんす」
「色々とご迷惑をおかけいたします」
「なんで君が謝ってるんだ」
「あなたが謝らないからですよ」
こうして今日も、平凡な退屈しのぎが始まった。
*
職員会議のある日の放課後はがらんどうだ。
顧問がいないため部活は休みとなり、ほとんどの生徒は学舎の外へ繰り出してしまう。
本校舎四階の廊下をひたすら東へ歩く。突き当たりを左に曲がれば、化学室と化学準備室だ。人気のない学校では、沈黙が埃のように床に転がり、ある種の威厳すら漂っていた。
きゅっきゅと、リノリウムと上履きの擦れる音が廊下に足跡を残す。
からころ、からころ。
それに混じって聞いてしまった下駄の音。
本来聞こえるべきではない音に私は足を止める。
黒い着物と高下駄。真夏の白昼夢以降、何日かに一度、視界の端にそれらを捉えることがあった。
しかしそれだけだった。
最近は良くも悪くも慣れてしまい、暗くなり始めた時間帯でそれを見ても無視できるようになっていた。
からころり。
前方から這い寄る下駄の音。下駄の音を聞くのは炎に包まれたあの日以来のことであった。
私は無意識に携帯を固く握りしめていた。奇妙な出来事に立ち会うと響く『ノミのワルツ』が、今日はなぜだか沈黙している。
私の視線は緑色の床に落ちる。髪が点々と落ちている汚い廊下。隅には埃だらけになった輪ゴムが落ちていた。私は薄汚れた輪ゴムをじっと見つめていた。輪ゴムに影が差す。
その影はあの美丈夫のものだった。
私は弾かれたように踵を返し走り出した。
本校舎中央の階段へ! 階段へ!
想像よりも足は動かず、どれほど激しく呼吸しても酸素が足りない。水の中を進んでいるようなもどかしさがあった。
慌てすぎて携帯が手からすっぽ抜ける。携帯は進行方向と逸れた方へと飛んでゆき、大袈裟な音を響かせた。私は思わず携帯が落ちた方へと目を向けてしまう。
そのため、逃げようとしていた方向から近づいてくる誰かに気づけなかった。
ただ、その誰かの言葉だけは耳にしていた。
お前は巨悪。わたしは正義。
ご覧。わたしの思想にみなの心臓が脈打つ。
故にわたしは正しいのだ。
言葉を耳にした途端、腹の辺りに激痛が走った。熱した鉄杭を直に押しつけられたような、耐え難い痛みだった。
口の中に、飲み込めない塊があった。吐き出して気づく。口に溢れていたのは血だった。
口から止めどなく溢れる血が制服を赤黒く染め、床を汚し、なすすべもなく、自ら吐いた血溜まりの上へ倒れ伏した。
目に血が入り込んだせいで世界が赤く見えた。
視界の端をからころと、高下駄が通り過ぎ、私の意識は刈り取られる。
*
「あぁ、やっぱり、ね? やっぱり来た、のね?
信夫の三狐が一角、一盃森の長次郎!」
血溜まりに沈む女子高生の前に立つは、褐色肌の黒髪男。泥染めの着物は男の美貌を際立たせる。
「自分の姿さえ、本当の姿さえ、忘れて、失った、妖狐風情がどう、どういう、風の、吹き回し?
あなた、あなたの、時代は、終わり、終わったの。今更、『驚異の胎』を得ても、あなたにゃ、宝の、持ち腐れ!」
男と相対するは小柄小太りの女子高生。ワカメを思わせる縮れた髪に、嫌味なまでに校則通りの制服は、陰気な雰囲気を発していた。
『クラスメイトちゃん』とあだ名される女。
「『驚異の胎』と、けっ、契約でも、した? 胎の、子孫とつながり、ある?
それとも、胎に、惚れた?」
男は目を見開いた。すると、その美貌のみが右へ右へと傾いでゆく。美貌の奥から、火を吹く粘液がまろび出た。粘液は男の輪郭を飲み込み、歪め、やがて深海魚に似た姿を形どった。
小太りの女子高生は、その姿に似合わぬ俊敏さで後退し、粘液の間合いから逃れた。
「『言葉よ廻り巡れ。無数の悪意よ山野を駆けろ。
お前の人生詰んでくれ』!」
小太りが口ずさむや否や、血溜まりの女子高生の胸から火柱が立った。女子高生の喉がひくつき、口から血の泡がこぼれた。
深海魚は腕のような触手を血溜まりに向けて伸ばし、火柱を握り潰した。火柱の勢いは萎んでゆく。
「め、迷惑! ほんと、迷惑! こ、この間、熱中症の、『驚異』で、胎を茹で殺そうとしたら、邪魔して、きて! 灼いた、灼いたでしょ、熱中症の、『驚異』を!
こ、今回の、炎上の、『驚異』とも、あっ、相性、最悪!」
果たして火柱は消えた。しかし今度は深海魚の身体を覆う炎が、血溜まりへ沈む女子高生に着火する。
深海魚は慌てたように触腕を伸ばし、炎を消さんとした。炎は鎮まるどころか、ますます女子高生の身体を灼いた。
小太りは、あははと嗤う。
「そ、その炎がなければ、血反吐に沈む胎を守れず! し、しかしその炎が、胎を、灼く!
人を焼いた、因果の果て! 化け物の、あなたには、にあい、お似合いの、末路!」
小太りが携帯を深海魚に突きつける。その構えは銃を狙い定めるガンナーのようでもあった。
「でも仕方ない、仕方ない、よ。人を焼くのは、たっ、楽しいもの。わたしも、すきよ。電波で人が、やっ、焼けるのは。ひ、人が、焼けた時の、あの香ばしい臭いといったら!」
深海魚はゆらりと身構えさらに炎を吐き出した。その裏では女子高生が灼けている。
「ど、同志、同好の、士よ! 人、人を、燃やした罪で、一緒に地獄、地獄へ、堕ちましょう!
だっ、大丈夫、鏡の神は、火と相性が、悪い、悪いから、邪魔して、来ない、来れないの!
もっともっともっともっと、燃やして、燃やして、燃やして!
お祭りは、まだまだ、これから!」
ふたりの対立を、階段の踊り場から冷めた瞳で見つめる影ひとつ。背筋の伸びた、どことなく古風な高校生。
血溜まりに沈む女子高生が『学友』と呼ぶその人物は、固く握りしめた拳からぽたぽたと血を滴らせていた。
*
結局18時に教室へ戻ってきたのは私と学友のみであった。眼鏡男子から飛んできたメッセージ曰く、五浪した先輩の話が長く解放してもらえない、七不思議は知らないそうだ、先に帰っててくれとのこと。
学友も校長は職員会議のため不在、ミステリー同好会もお休みで空振り。動く人体模型やボールについては、言うまでもない。
なんとも消化不良の結果だが、まぁそんなものだろう。ある意味予定調和である。
「……あれ? 七不思議調査って、4人だけだったか? なんだか、もうひとりいたような……」
「何をおっしゃいます。4人で調査を開始したではありませんか。それとも、もうひとりいたと?
まさか、七不思議でもあるまいし」
学友の発言は正しい。しかし黒板に書き記した、貸出禁止の本を調査したのは、一体誰であったのだろう?
学友は野暮用があって残ると言い、私は帰路についた。
家には誰もいなかった。母は買い出し、父は仕事、弟は部活。
広々とした家を鼻歌交じりで横断し、おててを洗わんと洗面台の前に立ち、固まる。
数十秒の逡巡。私は制服のワイシャツを脱ぐことにした。手が震えて、ボタンが外せない。普段の倍以上の時間をかけ、私は服を脱ぎ上半身を露出させる。
皮膚が激しく爛れていた。
腹と右胸を侵食した爛れは、皮下組織を黒く変色させ、左頬のすぐ下まで達していた。
存在すら忘れていた記憶が、濁流のように脳内へ雪崩れ込んできた。不吉な語群。口内に広がった鉄の味。ぬめりけのある赤黒い液体。頬を濡らす我が血溜まり。
私は己の叫び声で喉を焼いた。
帰ってきた母は半狂乱になった娘たる私を見て、即救急車を呼んでくれた。この辺りのことはほとんど覚えていない。
記憶がはっきりし始めたのは、入院して二日目のことだった。精密検査では異常が見つからなかった。ただ、この皮膚の爛れは、皮膚移植を行ったとしてもきれいに治すのは難しいと、医師から告げられた。
母は私に隠れて泣いていた。
退院後、その週は学校を自主休校した。弟も学校を休み、何かにつけて世話を焼いてくれた。親は何も言わなかった。
家のソファで弟とふたり、ぼぅとTVでYouTubeを観ていた。何気なく庭へつながる掃き出し窓へ目を向ける。西日がキツいので、白いレースのカーテンが常時ひかれている。
そのカーテンに、高下駄の大男の影があった。
私は弟にコンビニでしろくまさんアイスを買って来いと命じ、家から追い出した。
弟がチャリのロックを外し、車輪の回る音を聞く。
私は高鳴る心臓を感じつつ、何度も息を吐く。意を決して立ち上がり、カーテンの前に立つ。影はカーテンに応じてゆらゆら揺れる。私は思い切りカーテンを開けた。
当然のように誰もいなかった。
猫の額のように狭い庭。誰も管理していないので、雑草が腰のあたりまで繁茂している。
窓ガラスを開ける。ムッとする雑草のにおい。野良猫の気配すらない。
「ねぇ、黒い着物の。でておいで」
その一言で空気の密度が変わった。外気が跳ね上がり、濡れそぼった犬のような臭いが庭一帯を支配した。
果たして、緑の荒地に黒い着物の美丈夫が現れる。
変わらずの容姿に息を飲み、深々とため息をついた。直視に耐えず、膝に手をついて己の足指を睨みつけた。
「あなたなんだろ。私の肌を爛れさせたの。
頼むから、もうやめてくれまいか。これ以上、親も弟も悲しませたくないんだ」
この懇願が通じる相手か分からない。だが伝えないわけにはいかなかった。
「ただでさえ、この顔のせいで貰い手がないんだ。これ以上私を惨めにさせないでくれ」
男はどんな様子だろう。
ふと見上げてみる。
翡翠の瞳と目がかちあう。瞳に宿るは膿んだ諦念。死期を悟った生物だけが持ち得る、濁った瞳。
その瞳のせいだ。
私の口から思いもよらぬ言葉が飛び出した。
「責任を取って、私を貰ってくれないか」
薄氷が砕けるような音がした。男の美しい顔に、一本の太い亀裂が走っていた。亀裂から黒々とした粘液が溢れ出す。男はその粘液を手で抑え込もうとしていたが、その甲斐虚しく瞬く間に粘液に飲まれてしまう。粘液は人間と猿のあいのこのような腕を作り出し、私に向かって伸びてきた。燃え盛るその姿は、まるで抱擁を求める幼児のようだ。
咄嗟に固く目を閉じる。
いつかの激痛が襲ってくるのを待った。
数秒が過ぎ、数分が過ぎても例の激痛はなかった。
恐る恐る、目を開く。
濡れ犬の臭いはなく、外気は涼やかで、平日特有の緩慢とした雰囲気に包まれている。
男の気配が完全に消えていた。
お通夜みたいな土日を潜り抜け、月曜日。弟は今週も休むよう言っていたが、いい加減行かねばそのまま引きこもりまっしぐらである。私は首元が隠れる黒いインナーを着て、日常へ帰って行った。
クラスメイトは私の帰還をほどほどに歓迎してくれた。学友はどこか気まずそうだったが、当人がその気まずさを私に感じさせぬよう振る舞っていた。
数日分のノートを必死こいて写し、恐ろしいほど進んだ授業について行こうと足掻いているとあっという間に一日の授業が終わった。
放課後、胸のつっかえを学友に吐き出した。
「……なぁ。私、真面目に失恋したかもしれん」
「今度はどなたに初恋を?」
教室の窓辺でたそがれる私を学友は苦笑する。学友は近くの椅子へ腰掛け、話の先を促した。
「多分、恋しちゃダメな相手だったんだ」
「既婚のお医者様にでも惚れましたか? インモラルですこと」
「神出鬼没の、黒い着物を着たイケメン。燃える黒い粘液を出す」
学友が固まった。いつもの愛想笑いすら忘れたらしく、口元が引き攣っている。
「やばい、やばいひとだったんだ。
でもさ、我が人生の最推したる茶渡泰虎にそっくりだったんだ……」
「さど、やすとらってだれですか」
言うに事欠いて本筋とは離れたことを学友はたずねる。
「えっ知らないか。『BLEACH』のチャドだ。動画配信サービスでアニメ見れるぞ」
「……なるほど」
学友は携帯で調べていたが、ぎくりと手を止めた。何度も瞬きをしてから、携帯の画面をこちらへ向ける。
「この、詩……!」
「あぁ、巻頭歌か。単行本の表紙を飾るキャラをモチーフにした詩だよ。茶渡泰虎の巻頭歌は、
『剣を握らなければ おまえを守れない
剣を握ったままでは おまえを抱き締められない』
最高にクールで好きなんだ、心から」
学友は黙りこくっている。私も言葉を続けたい気分ではなかったので、下校する生徒の背を眺め続けた。
学友が自嘲するように笑った。
「ごうがここまで因果を狂わせるのですね。
未来のために、過去の人間を抹消する者たちは、一体どれほどのごうを背負わされるのでしょう」
学友の言葉は理解できない。
おそらく学友は私の理解を望んでいないのだろう。
そして私も、彼女の発言を理解しようとはしなかった。
秋の匂いを孕んだ冷たい風が、私と学友の間を通り抜けた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
評価感想ブクマをお願いしたいんですが、どなたか茶渡泰虎の夢小説書いてませんか本当に困ってます
続きは11月に……! 出せるといいな……!!




