第8話 美術部に入ったよ!
「玲奈ちゃん玲奈ちゃん!!」
勢いよく声をかけると、玲奈が少し驚いた顔で振り向いた。
おさげの髪が揺れて、落ち着いた雰囲気がふわりと広がる。
「こはちゃんどうしたの?」
「私!美術部に入ったよーー!!」
「行動力!!」
玲奈が思わず声を上げる。
「えへへ、見学さーっと行って、「入りまーす!」って言っちゃった!」
「誘ってくれたらいいのに」
「いやー、見学したくて我慢できなくてー」
「ご、ごめんね?」
「何に謝ってるのよ、怒ってないわ」
「よかった!!」
そこへ、聞き慣れた声が割り込んできた。
「何がよかったん??」
「ひーくん!」
陽向がいつも通り軽い足取りで近づいてくる。
明るい茶色の髪が光を受けて、元気な雰囲気そのままだ。
「おっすー!こはたん、れいれい」
「ほんと、あなたすぐ来るわよね。暇なの?」
「なんだよれいれい、ツンデレかー?」
「あら、残念。これはね嫌いっていうの」
「ひでー!?」
「玲奈ちゃん!ひーくんのこと苦手なの?」
「いや、苦手というか」
「ひーくんはいい人だよ!優しいよ!明るくて元気!!玲奈ちゃん!嫌いにならないで!!」
「いや、嫌ってないから」
「よかったー!!みんな仲良くが1番!!」
「ははっ!そうだなー!」
「ほーられいれい?仲良くしてこーぜ?」
陽向が手を差し出す。
「ええ、よろしく」
ぎゅっ。
「い、痛い!!れいれい!!」
「……」
にこり。
「仲良しさんだねー」
「どこがだよー!!!」
⸻
美術室。
大きな窓から光が差し込んでいる。
白いカーテンがゆっくり揺れ、絵の具の匂いがほんのり漂う。
キャンバスや筆が並ぶ空間は、静かで落ち着いていて、
どこか安心できる場所だった。
小春は自然と表情がゆるむ。
「ぐるっと描いてぼーん」
鉛筆が軽やかに動く。
迷いのない線。
「うお、水瀬。絵上手いな!!」
「本当ですか!!嬉しいです!!先輩の絵も綺麗!!」
「そうか?ふっ、ありがとう」
「こことかどうやって描くんです?びーって感じ?」
「びーかどうかはわからないけど、ほらここをーー」
「なるほどなるほど!!ババーンでしたか!」
「うん、わからん!!」
楽しそうな声が美術室に広がる。
その時。
「こはたーん!!」
「ひーくん!!どうしたの??あっ!?美術部に入るー?」
「いやいや、俺絵は描けねーから」
「水瀬さん、どうも」
透が穏やかに会釈する。
銀色の髪が光を受けてやわらかく見えた。
「小春ちゃん、きたよ〜」
「ごめんね、こはちゃんの絵が見たいってみんな言い始めちゃって」
「わぁ!!みんな来てくれて嬉しい!!先輩!いいですか?邪魔はしないので!!」
「いいよいいよ、みんなゆるっとやってるからさ」
「やったー!!ありがとうございます!!」
「えへへ!許可もらいましたー!!」
「こはたんさっすがー!!」
「陽向さん、あまり大きな声は出さない方がいいですよ」
「すぅ、すぅ」
「ひよりちゃん、寝てるんだけど」
ひよりは窓際の椅子に座ったまま、すでに夢の中だった。
ふわふわした髪が頬にかかっている。
その時。
ちらちらと、視線を感じた。
振り向くと。
そこに、桃花が立っていた。
少しだけ距離を保った位置。
静かに様子を見ている。
「桃花ちゃんだーー!!」
「ひゃ!?」
肩が小さく揺れる。
「どうしたのどうしたの!?」
「べ、別に絵が見たいなんて思ってないから!!」
「わぁ!!見に来てくれたんだ!是非是非!!」
「いや、見たくないって言ってなかった?」
「照れ隠しだってー!ももちー照れ屋!」
「ち、違うから!!気安くしないで!!」
「仲良くしてって言ってるよー」
「いや、正反対すぎなんだけど」
「可愛いよー?」
「なら、可愛いわね」
「おいおい!」
小春はまた鉛筆を走らせる。
「んー!ここはしゃーっとやってすばーん」
迷いなく線が重なっていく。
「言ってることは全然わかんねーけどすげぇな、こはたんの絵!!」
「はい、美しいなんて単純な言葉じゃ足りませんね」
透がじっとスケッチブックを見る。
「ふみゅ、すぅ」
ひよりも寝たまま小さく声を漏らした。
「3人とも褒めてくれてありがとー」
「なんであんた、ひよりちゃんと普通に会話できるのよ」
「ええ?わかりやすいけどなー?」
「いえ、水瀬さんが凄いだけかと」
「そうかなー??」
「こはちゃん、描いてるとき楽しそうよね」
玲奈が少し優しい目をする。
「あっ、ここはこうしたらいいかもー!」
「こはたん、家でもこんな感じで描いてんだろーな」
「鼻歌はよく歌ってるわね」
「ふふ、水瀬さんらしいですね」
しばらくして。
「かんせーい!!」
くるりとスケッチブックを向ける。
「えへへ!どう?どうかな??」
そこには。
みんなの姿が描かれていた。
柔らかい色合い。
優しい雰囲気。
それぞれの特徴がちゃんと分かる。
「こはちゃんこれってもしかして」
「俺たちじゃん!!」
「うん!みんな大好きだから描いてみた!!」
「凄い!」
「気に入ってくれたかな??」
「勿論ですよ!素敵な絵をありがとうございます!」
「この絵の良さがわからない人なんていないわよ」
「今度は俺のデッサンしねー?」
「図々しいわ!!」
「……ん、綺麗」
ひよりが小さく呟く。
「わ、私のことも描いてくれたんだ」
桃花が少し驚いたように絵を見る。
「もっちろん!桃花ちゃんもお友達!ねー!」
ぎゅー。
「へ?ちょ、う、嬉しくなんかないからね!!」
「はーい!!」
「外から聞いたら意味わかんない会話なんだけど」
「こはたんらしいじゃん!」
「まあ、それはそうね」
「みんなみんな大好き!!」
好きなことをして、
好きな人たちがいて。
それだけで、すごく嬉しい。
そう思った、
こはちゃんだった。
貴重なお時間ありがとうございました!




