第6話 新しい子と話したよ!
「ふんふふーん♪」
放課後の廊下を、小春はご機嫌で歩いていた。
腕の中には、大事なスケッチブック。
さっきみんなに絵を見てもらえて、まだ少しだけ嬉しさが残っている。
その時。
どさばさっ。
「ひゃー!!私のスケッチブックくーん!!」
手が滑って、スケッチブックが床に散らばった。
慌ててしゃがみ込む。
「あわわわ……」
すると、すっと一冊差し出された。
白くて細い指。
丁寧に扱われているのが分かる持ち方だった。
「こ、これ」
顔を上げると、見慣れない女の子が立っていた。
ふわりとした金色の髪が、光を受けてやわらかく揺れる。
整った顔立ちで、どこか上品な雰囲気。
少しだけ近寄りがたい印象なのに、差し出す手つきはとても優しかった。
「わあ!!ありがとう!!」
受け取ろうとした瞬間、女の子の視線がスケッチブックに落ちる。
開いたページには、やさしい色合いの風景画。
一瞬の沈黙。
「……絵、綺麗ね」
ぽつりと、小さな声。
思っていたよりも柔らかい声だった。
「ほんと!?嬉しいなー!!」
ぱっと表情が明るくなる。
「あっ!話した事ないよね?」
「私、水瀬小春!!よろしくねー」
「……あ、うん」
少しだけ間を空けてから、答える。
「私は白石桃花」
さらりと名乗る姿は、どこか落ち着いていて綺麗だった。
「桃花ちゃんかー!よろしく!!」
ぐいっと距離が縮まる。
「う、うん。その、よろしく」
少しだけ戸惑ったように目を逸らす。
頬が、ほんのり赤くなったように見えた。
その時。
「あっ、こはたーん」
聞き慣れた声。
「ひーくん!」
振り返る小春。
「!?」
桃花の肩がぴくりと揺れる。
陽向が近づいてくる。
明るい表情。
人懐っこい雰囲気。
一気に空気がにぎやかになる。
桃花の視線が、ほんの一瞬だけ陽向に向いた。
すぐに逸らされる。
「わ、私、もう行く!!」
「ええ!?桃花ちゃん!?」
「べ、別に仲良くしたいなんて思ってないから!!」
「ええ!?」
ばたばたと足音を立てて、そのまま廊下の向こうへ消えていった。
ふわりと金色の髪だけが揺れて見えた。
「……」
一瞬、静かになる。
小春は手の中のスケッチブックを見つめた。
さっき桃花が触れていたページを、そっとなぞる。
「褒めてくれたよね」
小さく呟く。
「なんだー?」
「ひーくん」
少しだけ眉を下げる。
「……っ」
「私、何かしちゃったのかな?」
「いや、照れてただけじゃね?」
「そうかな?ほんと?ほんとにほんと!?」
ぐっと距離を詰める。
「こはたん、近い近い!!」
「こはたんがいきなり嫌われるわけねーから」
「ひーくん!!ありがとーー!!」
ぎゅー。
「ちょ!?れいれいに殺されちゃうから!!」
「あはー、お熱い友情でしたわー」
聞き慣れた声が後ろから響く。
振り向くと、玲奈が腕を組んで立っていた。
おさげの髪が軽く揺れる。
「玲奈ちゃん!」
「相変わらず距離感バグってるわね」
「?」
そこへ、穏やかな声がかかった。
「あっ、お二人ともここでしたか」
「あっ、透ちゃんだ!どうしたのー?」
銀色の髪が光を受けてやわらかく輝く。
透はいつも通り落ち着いた様子だった。
その隣では、ひよりがぼーっと立っている。
「部活見学、みんなで行きたいなと思いまして」
「……無理矢理」
「人聞き悪いこと言わないでください!」
ひよりのふわふわした髪がゆっくり揺れる。
まだ眠そうだ。
「いーじゃんいーじゃん!!」
「楽しそー!!みんなで回ろ!回ろ!!」
ちょうどそのタイミングで。
「こはちゃーん」
「玲奈ちゃん!ちょうどいいところに!!」
「ん?何か用事?」
「みんなで部活見学行こーって話!!玲奈ちゃんも行こー??」
「ふふ、もちろん!参加するわ」
「やったー!」
「よーし!!みんなでレッツゴー!」
「おーー!!」
⸻
いろいろな部活を見て回る。
廊下は、同じように見学に来た生徒で少し賑やかだった。
「すぅ、くぅ」
「ひより!?寝ないでくださいー!!」
「茶道部、穏やかな雰囲気ー!こりゃ眠くなるわけだねー」
「見学なんだから騒がないの!」
「うおー!!バレーにバスケ、サッカー、野球!!選べねーー!!」
「そういえば、運動できるの?」
「できないのに選ぶわけないだろ?」
「はっ、れいれい天然さんかー!?」
「こいつに聞いた私が馬鹿だったわ!!」
「ひーくん、スポーツ得意なんだ!!すごーい」
「体動かすの好きだからなー!!」
「確かにイメージできますね」
「……暑苦しい」
「悪口混ざってますけど!?」
「ひーくんが運動してるとこデッサンしてもいいかも!!今度やってみていい!!」
「俺をモデルに選ぶとはやるなーこはたん!!」
「いくらでも描いていいぜ!!」
「やったー!!ありがと!!描いたら見せるねー!!」
「まじ!?見たいわー!!」
「ほんとあんた達仲良いわよね、ほんとに初対面だったの?」
「こはたんとは高校からだぞ!なー?」
「うん!玲奈ちゃんヤキモチー?嬉しいなー」
「こんなやつに焼かないわよ!私の方が仲良しだもの」
「うんうん!私たちの絆は誰にも止められないよー」
ぎゅー。
「ふふ、当然ね!」
「ふふ」
「ぐー」
「ずるいずるい!!俺も混ぜろー!!」
「いえあの、みなさん部活見学しましょ?」
⸻
さっき出会った桃花ちゃんのことを思い出す。
少しだけ不思議な子だった。
ちょっとだけ慌てていて、
ちょっとだけ恥ずかしそうで。
でも、
絵を褒めてくれた。
ちゃんと、見てくれていた。
また話せたらいいな。
そう思った、
こはちゃんだった。
貴重なお時間ありがとうございました!




