第5話 絵を見てもらったよ!
「ひーくんひーくん!!」
放課後の教室で、小春が勢いよく振り返った。
ふわりと揺れたポニーテールの毛先で、星の髪飾りが小さくきらりと光る。
「なんだなんだ??こはたんご機嫌じゃん?」
「じゃじゃーん!!」
小春が取り出したのは、大きめのスケッチブック。
大事そうに両手で抱えている。
「あー!!前に言ってたスケッチブック!!」
「そうそう!見たいーって言ってたから持ってきたよ!!」
そっと差し出す。
「見ていいのかー?」
「うん!私の絵でよければ見てみてー!!」
ぱらり。
ページをめくった瞬間、陽向の目が大きく開かれた。
「うおっ!?うっま!!」
「でしょ?」
いつの間にか後ろから覗き込んでいた玲奈が、小さく笑う。
ラベンダー色のヘアゴムでまとめたおさげが揺れる。
少し大人っぽくて綺麗な雰囲気なのに、表情は親しみやすい。
「あれ?こはちゃんのスケッチブックだ」
「あ!玲奈ちゃん!」
「でも、前のとちょっと雰囲気違う?」
「最近は家で描くことが多くてねー」
「お兄ちゃんがイーゼル買ってくれたの!」
「だから、つい夢中になっちゃって」
「おかげさまで寝不足だよー」
「もう、夜更かしはお肌に良くないわよ」
「うへぇ、お母さんみたいなこと言わないでー」
「もう、こはちゃん可愛いんだからケアもしっかりした方がいいわよ!」
「私より玲奈ちゃんの方が可愛いよ!!」
「ひーくん!玲奈ちゃん可愛いよねー?」
「ん?れいれいはどっちかというと綺麗系じゃね?」
「はっ!確かに!!さっすがひーくん!!」
「何言ってるのもう」
「玲奈ちゃん照れてるー?」
「怒ってる」
「ひゃー!ごめんなさーい!!」
「んー。こはたんは可愛いよな!」
「当たり前でしょ、こはちゃんなんだから」
「あはは、二人ともありがと〜」
「ひーくんもかっこいいよー」
陽向がにやっと笑う。
明るい茶色の髪が光に透けて、子犬みたいに人懐っこい雰囲気があった。
「だろ!!」
「うわぁ……」
そのタイミングで、後ろから穏やかな声がした。
「楽しそうですね、なんのお話ですか?」
「むぅ、寝てたいのにぃ〜」
振り向くと、透とひよりが立っていた。
透は相変わらず整った顔立ちで、短い銀色の髪がさらりと揺れている。
隣のひよりは、少し眠そうな目をこすりながらぼんやり立っていた。
ふわふわしたボブの髪が、わたあめみたいにやわらかそうだ。
「あっ、透ちゃん!ひよりん!!」
「えっと、ひーくんに絵を見てもらってて」
「あとあと!!玲奈ちゃんは綺麗でひーくんはかっこいいよねーって話!」
「情報量多くない?」
透が小さく笑う。
「ああ、前に絵を描いてるって言ってましたもんね」
「小春ちゃん、絵描きさんなの〜?」
「絵描きさんの域まではいけてないけどねー」
「でも充分過ぎるほど上手いわよ!!」
「それに、賞もとってたじゃない!最優秀賞!」
「うん!!あれは嬉しかったなー!!いっぱい絵を見てもらえて」
「ふふ、こはちゃんは賞よりも見てもらいたいんだもんね」
「私の絵を見て元気になってくれたら一番嬉しい!!」
少しだけ照れたように笑う。
透が興味深そうにスケッチブックを見つめた。
「素敵な考えですね。僕も見ていいですか?」
「うん!是非是非!!」
「……ん」
「ひよりんも見てくれるの!?見てー」
「いや、なんで会話できるのよ」
透がページをゆっくりめくる。
「凄い、こんな綺麗に描けるんですね」
「色使いが優しいですね」
「絵が描けない僕じゃ到底無理です」
「そんなことないよー?」
「楽しく描いたら、それはもう絵だよ!」
「ふふ、それなら僕でもできそうです」
「わあ!透ちゃんも描く?一緒にお絵描きしよー」
「うん、綺麗」
ひよりがぽつりと呟く。
眠そうなのに、ちゃんと見ている。
「ひゃー!ひよりんに褒められちゃったー!」
「よかったわね、こはちゃん」
「嬉しい♪嬉しい♪嬉しいなー♪!!」
「ぷっ、何その歌」
「嬉しさを伝える曲ー!」
透がふと思い出したように尋ねた。
「そういえば、皆さん何部に入られるんですか?」
「美術部!!」
即答だった。
「んー、まだ決めてねーなー」
「バレーボール部にしようと思ってるわ」
「すぅ、すぅ」
「ひよりんは部活入らないってー」
「いやなんでよ!寝てて会話してないでしょ!?」
「うん、入んない」
「え?なんで会話できてるの??」
「んー?以心伝心?友達パワー!!」
「意味わかんないんだけど」
「なんとなくだよー!ねー?」
「ね〜」
「ひよりの理解者が現れて嬉しいです」
「すっげーー!俺もできるようになれっかなー」
「ひーよりん??」
「すぅ」
「うん!寝てる!」
「見たまんまじゃないそれ!!」
「透ちゃんは?何部にするのー?」
「僕は写真部にしようかなって思ってます」
「わあ!!いいねいいね!」
「透ちゃんが撮って私が絵を描くのも楽しそーー!!」
透の表情が少しだけ明るくなった。
「それ、凄く素敵です!今度やりましょう!」
「わーい!透ちゃんとの共同作業だー!!」
「いい写真撮れたら見せますね」
「うん!!いっぱい見せてー!!」
「ふふ、何枚描くつもりですか?」
「透ちゃんが気に入るだけー!」
「もう、何それ。一ノ瀬くん一枚でいいからね」
「ふふ、はい」
「よーし!楽しみが増えたぞー!!」
放課後の教室に、笑い声が広がる。
好きなことの話をしている時間は、
なんだか少しだけ、特別に感じた。
一人で描く時間も好きだけど、
誰かに見てもらえるのも嬉しい。
それに、
こうして一緒に楽しみにしてくれる人がいるのは、
もっと嬉しい。
少しだけ未来が楽しみになった、
こはちゃんだった。
貴重なお時間ありがとうございました!




