第4話 みんなでお弁当たべたよ!
「ふぁー。眠ーい」
朝のキッチンに、小さなあくびがこぼれた。
制服姿の小春は、まだ少しだけ眠そうな顔で立っている。
コンロの前では、朝陽が手際よく朝食を仕上げていた。
背が高く、少しだけ不良っぽく見えるのに、表情はとても優しい。
そんな朝陽の横顔は、朝の光の中でどこか頼もしく見えた。
「小春、まーた夜更かししてたろ」
振り返りもせずに声が飛んでくる。
「だってインスピレーションが止まらなかったんだよー」
「こーら、育ち盛りなんだから寝なさい」
ぽか。
軽く頭を叩かれる。
「うへぇ、はーい。ごめんなさーい」
口では反省しているようで、どこか楽しそうだ。
テーブルの上には、色とりどりのおかずが並んでいる。
「卵焼き難しいよー」
フライパンの前で、小春は困ったように眉を下げる。
「仕方ないな、作れるようになれよ」
朝陽が横から手を伸ばし、菜箸を器用に動かす。
くるり、ときれいに巻かれた卵焼きが完成した。
「わぁ!!お兄ちゃんすごーい!」
「まあ、可愛い小春のためならいくらでも作ってやるからな」
ぽん、と頭に手が置かれる。
「えへへ、ありがと!」
こうして今日のお弁当も、なんとか完成した。
ほとんど朝陽の力だけど。
⸻
昼休み。
教室のざわめきが少しだけ明るくなる時間。
玲奈が振り返る。
茶色のおさげが揺れて、少し大人っぽい横顔が見えた。
「こはちゃーん、ご飯食べよう?」
「もっちろん!行こ行こ!!」
小春は勢いよく立ち上がった。
「どこで食べよっか?」
「屋上!今日天気いいし!桜も見れそう!!」
窓の外には、春らしいやわらかな光が広がっている。
「それなら中庭じゃない?」
「高いとこからみたーい!玲奈ちゃん行こ?」
「ふふ、はいはい。」
結局、小春の希望で屋上へ向かうことになった。
⸻
屋上の扉を開けると、春の風がふわりと吹き抜けた。
あたたかい日差しと、やわらかい空気。
そして。
「ひよりー?起きてくださーい?」
見覚えのある声が聞こえた。
ベンチの近くで、透が困ったように声をかけている。
銀色の短い髪が光を受けてやわらかく揺れる。
中性的で綺麗な横顔は、遠目だと少し女の子にも見えた。
その隣では、ひよりが気持ちよさそうに眠っていた。
ふわっとしたミディアムボブの髪が頬にかかっていて、見ているだけで眠くなりそうなくらい穏やかな空気をまとっている。
「お弁当、食べれなくなりますよー?」
「すぅすぅ」
「うぅん……すぅ」
全く起きる気配がない。
「あれー??透ちゃんとひよりん!!」
小春が声を上げる。
「あ、水瀬さん。」
透が少し安心したように笑った。
「……うぅ、小春ちゃん?」
「はい、水瀬さんですよ。ひよりも起きてください」
むく、とひよりがゆっくり起き上がる。
少し眠たそうな垂れ目が、ぼんやり小春を見た。
「うぅ、眠たい。小春ちゃんこんにちは〜」
「あはは、ひよりん眠そう!」
「起きてるとこ見たことないんだけど」
玲奈が小さく呟いた。
「あっ!そーだ!!二人とも一緒にご飯食べよーよ!!」
小春がぱっと表情を明るくする。
「え?あ、はい!勿論です」
「ぅん、いいよ〜」
「やったーー!玲奈ちゃんもいい?」
「断る理由ないでしょ?」
「わーい!みんなで食べよー!!」
自然な流れで、四人で昼ごはんを食べることになった。
⸻
「当ててあげる、卵焼きは朝陽兄が作った!」
玲奈が即答した。
「あちゃー、バレちゃったー」
てへへ、と頭をかく。
「うぅ、私食べる専門!!」
「ふふ、こはちゃんらしいね」
「水瀬さん、お料理されるんですね」
透が少し驚いたように言う。
「うん、うちは、家事分担制なのー」
「わあ、素敵です。家庭的なんですね」
「えへへ!透ちゃんありがと!料理はまだまだだけどねー」
「でも、中学の時よりは上手くなったんじゃない?」
「ええ!?本当!!嬉しいなー」
「卵焼きは……うん。無理そうね」
「玲奈ちゃんひどーい!!」
「ふふ、お二人は本当に仲がいいですね」
「ふふーん!透ちゃん!玲奈ちゃんは大親友!」
「説明になってないわよ、小学生の頃から友達なの」
「そうなんですね、幼馴染ですね」
「玲奈ちゃんが転校してきたんだよ!」
「それから仲良しよねー」
「うん!うん!私、玲奈ちゃんだーいすき!!」
ぎゅー。
「きゃ!?もー、こはちゃんったら」
優しく頭を撫でられて、小春は嬉しそうに笑った。
「えへへー」
その時。
「あー!!みんなこんなとこにいたー!!」
元気な声が屋上に響いた。
ふわっとした明るい茶色の髪を揺らしながら、陽向が駆け寄ってくる。
子犬みたいに人懐っこい笑顔は、見ているだけでこっちまで元気になりそうだった。
「ひーくん!」
「なんだよーみんなで食べるなら呼んでくれよー」
「ご、ごめんね!!探しに行けばよかった!!」
慌てて頭を下げる。
「いやいや!いいって!こはたん真面目ー!」
「んじゃ!次からは呼んでくれよー!」
「もっちろん!1番に誘うね!!」
「よっしゃ!!」
玲奈が少しだけ優しい目をした。
(……こはちゃん)
「成瀬さんは今までどちらに?」
「なんだよとーやん!堅苦しいー!」
「陽向でいいよ!陽向ー!」
「え?え、あの、ひ、陽向さん?」
「おう!オッケー!」
「無理矢理呼ばせてどうすんのよ」
「えぇ!?無理矢理じゃねーって!!」
「なぁ?とーやん?」
「ふふ、はい。陽向さん」
「ふふーん」
「何こいつうざい」
「あはは」
「うぅ、うるさい」
「あっ!ひよりん起きたー!」
ひよりがゆっくりと身体を起こす。
「ん」
もぞもぞ。
気づけば、小春の膝の上に頭を乗せていた。
「ありゃ?」
「んふ、あったかい」
「ふふ!ひよりちゃんのベッドになっちゃったー」
「いや、なんでよ!起きなさいよ」
「すぅ」
「寝ちゃったよ」
「お昼ご飯は!?」
「いーなー!こはたんの膝枕ー!」
「膝は貸してるから貸せないけど」
「あっ!肩ならいいよひーくん!」
「まじ!?」
「ちょっと、ほんとにやったら許さないわよ」
びしっ。
玲奈のフォークがぴたりと向けられる。
「……」
笑顔なのに、圧がすごい。
「うっはー、怖っ!?」
「冗談じゃん!!しないってー」
「??」
「あっ!確かにまだ眠くなさそうだもんね!」
「いやいや!俺節操無しじゃねーから!!」
「あー、えと。れいれい?フォークおろしてー!?」
玲奈がすっと立ち上がる。
その瞬間。
だっ。
陽向が逃げる。
「ちょっと待ちなさい!!」
追いかける玲奈。
「ふふ、何してるのやら」
透が穏やかに笑う。
「二人とも足早いねー」
「ちょっ!!笑ってないで助けてくれよー!」
「こはちゃんに手出しはさせない!!」
「二人は仲良しさんだねー」
「えーと、どうなんでしょうか?」
「すぅ、すぅ」
ひよりは変わらず眠っていた。
笑い声。
慌てた声。
呆れた声。
まだ始まったばかりなのに、
なんだかもう、前から知っているみたいな距離感で。
少しだけ、不思議な感じがした。
でも、
悪くない。
むしろ、ちょっと楽しいかも。
そう思った、こはちゃんだった。
貴重なお時間ありがとうございました!




