第53話 「そのままでいろ」
「お前は何でこんなに出来が悪いんだ」
「本当に私たちの息子なのか?」
「話にならん」
「成績が上がるまで部屋から出るな」
バタン。
扉が閉まる音。
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……ああ。
またか。
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ごめんなさい。
役に立てなくて。
ごめんなさい。
頭が悪くて。
ごめんなさい。
理想になれなくて。
ごめんなさい。
生まれてきて。
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許して。
頑張るから。
許して。
ちゃんとするから。
許して。
ここにいていいって、
言ってくれよ。
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……言ってくれなかったけどな。
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気づいたら、
外にいた。
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笑えるよな。
家出とか、
ガキみてぇで。
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でもよ。
あそこ、
家じゃねぇ。
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家族ってのは、
あんなもんじゃねぇだろ。
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俺は俺だ。
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名前も。
家も。
全部捨てた。
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いらねぇ。
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あんなもんに、
縛られるくらいなら。
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その辺、
ぶらぶらしてた。
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絡まれて。
殴られて。
殴り返して。
勝って。
また絡まれて。
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くだらねぇ。
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意味のねぇ喧嘩。
意味のねぇ強さ。
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……違う。
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強さってのは、
守るためにあんだろ。
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壊すためじゃねぇ。
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誰かのために、
使うもんだ。
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……って、
その時はまだ、
よく分かってなかったけどな。
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バイト始めた。
ラーメン屋。
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店主のおっちゃん、
いい人でよ。
飯食わせてくれるし、
寝る場所もくれた。
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「給料から引いてるからな」って
嘘ついてんの、
バレバレなのによ。
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ああいう嘘は、
嫌いじゃねぇ。
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あったけぇから。
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俺も、
ああいう大人になりてぇなって思った。
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誰かを、
ちゃんと支えられるやつ。
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高校入ってからは、
なるべく関わらねぇようにしてた。
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面倒くせぇし。
揉め事も嫌だし。
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舐められねぇように、
髪染めて。
近づかれねぇように、
壁作って。
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最初からいなきゃ、
傷つけることもねぇだろ。
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……そう思ってた。
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そこに、
お前が来た。
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小春。
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なんだよあいつ。
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いきなり話しかけてきて。
無視しても、
普通に笑ってて。
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しつこくねぇのに、
ちゃんと近くにいる。
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距離感、
バグってんだろ。
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でもよ。
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嫌じゃなかった。
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むしろ、
楽だった。
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あいつ、
何も押し付けてこねぇんだよ。
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「こうしろ」とか、
「こうあるべき」とか。
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一切言わねぇ。
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ただ、
いるだけ。
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それでいいって、
顔してやがる。
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……ずるいよな。
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あんなの、
好きになるに決まってんだろ。
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俺が欲しかったもん、
全部持ってんだよ。
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優しさも。
明るさも。
距離感も。
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全部、
ちょうどいい。
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愛されたことなんて、
なかった俺に。
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あいつ、
普通に言ってくんだよ。
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「大好きー!!」って。
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……なんだそれ。
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こっちは、
どうしていいか分かんねぇのに。
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でもよ。
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あいつといると、
思うんだ。
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ああ、
俺、
ここにいていいんだなって。
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俺のままで、
いいんだなって。
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だから、
今度は俺の番だ。
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愛されなかった分、
全部。
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あいつに返してやる。
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守る。
支える。
笑わせる。
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全部、
俺がやる。
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「小春」
小さく呟く。
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お前は、
何も変わらなくていい。
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そのままでいろ。
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そのまま、
俺のそばにいろ。
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俺が、
全部受け止めてやるから。
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……愛してる。
貴重なお時間ありがとうございました!




