第42話 れんれんと高い景色を見たよ!
屋上には、やわらかな風が吹いていた。
まだ昼の熱が残っているはずなのに、どこか穏やかで静かな空気。
その中心で。
「よーし、ここはとどーん、ずばばーん!」
楽しそうな声が響く。
スケッチブックを膝に乗せ、小春は夢中になって筆を動かしていた。
「ふんふんふーん♪」
誰もいない屋上。
それでも、小春はとても楽しそうに絵を描いている。
そこへ。
「んあ?小春じゃねーか」
低く、少しだけ気だるい声。
「あーー!!れんれんだ!!」
ぱっと顔を上げて、嬉しそうに手を振る。
「おっ、絵描いてんのか?」
ひょい、と自然に隣にしゃがみ込み、スケッチブックを覗き込む。
「おおっ!?めちゃくちゃうまいじゃねーか!!」
素直な感想。
迷いのない言葉。
「ほんと!?えへへ、れんれんに褒められちゃったー!!」
嬉しそうに笑う。
「なんか、小春みたいな絵だな」
「ええ??どーいうこと??」
「……あったけぇ、絵だってこったよ」
少しだけ視線を逸らしながら言う。
「えへへ!あったかい絵!!」
くるりと笑う。
「れんれんが気に入ってくれてるならなんでも嬉しいな!!ありがとう!!」
「おう、おてんとう様でいてくれや」
「何それー!」
小春が笑う。
「れんれんはメラメラさんだねー」
「なんだよそれ」
「燃えてる感じ!!イメージ!!れんれんのイメージ!赤色!!」
「赤か……悪くねーな」
少しだけ口元が緩む。
「嫌いじゃねぇーぜ」
「やったーー!!れんれんは赤色ー!」
ふんふんふーん♪
楽しそうに歌う。
蓮は何も言わず、その隣に腰を下ろした。
言葉はなくても、不思議と落ち着く空気。
ただ隣にいるだけで、心地よい時間が流れていた。
⸻
放課後。
廊下に差し込む夕方の光。
「あっ!!れんれんーーー!!」
元気な声に、蓮が振り向く。
「ん?小春か、なんだよなんか用か?」
「うん!!一緒に帰ろーー!」
迷いのない誘い。
「おっ、いいじゃねぇか」
軽く笑う。
「お供するぜ」
「やった!れんれんと下校だーー!!」
並んで歩き出す。
「お姫様の仰せのままに、ってな」
「あはは!お姫様じゃないよー!」
手をぶんぶん振る。
「お姫様はもっともっーーと可愛い!!」
「じゃあ、小春がお姫様なのは合ってるな」
さらりと言う。
「俺にとって世界一可愛いのは小春だからよ」
「れんれん重ーい!!」
けれど。
笑っている。
「でも嬉しい!ありがとう!!」
「れんれんもかっこいいよ!」
「そいつはどうも」
ガハハ、と笑う。
あはは、と笑う。
歩く足取りが自然と揃っていく。
「あっ!れんれん!公園寄ってもいい??」
「おう、小春が行きてーなら付き合うぜ」
「やったー!!」
ぱっと表情が明るくなる。
「あのねあのね!描きたいお花があるの!!」
「なんの花だよ?」
「ライラック!!」
腕を引っ張りながら進む。
「綺麗に咲いてるの見つけたんだ!!」
「はいはい、ついていきまっせ」
楽しそうな背中を見ながら、蓮はゆっくり歩いた。
⸻
公園。
夕方の光に照らされる淡い紫色。
「ほら!あれだよ!れんれん!!」
「ほー……綺麗なもんだな」
「だよねだよね!!」
スケッチブックを取り出す。
けれど。
「うーん、高くてよく見えない!!」
ぴょこぴょこ跳ねる。
次の瞬間。
ひょい。
「うひゃー!!」
視界が一気に高くなる。
蓮の肩の上。
「これなら見えんだろ」
「高ーーい!!」
大きな歓声。
「すごーーい!!」
「これがれんれんの見てる景色かー!!」
空に近い場所。
「いろんなのが見えちゃうよー!!」
「はしゃぐと落ちるぞ」
落ち着いた声。
「まあ、俺が支えてるからありえねぇけど。一応な」
「れんれん力持ちだね??」
少し身を乗り出しながら、下をのぞき込む小春。
「私のこと片腕で持ち上げちゃうなんて凄いよ!!」
「小春が軽いからだろ」
さらっと言う。
「羽だぜ羽」
「あはは!羽より軽かったら空飛んじゃえそう!!」
「そいつは困るなー」
くっと笑う。
「追いかけんのが大変になっちまう」
「れんれんも飛べばいいんだよー」
「俺は小春みてーに軽くねーんだ」
「あはは!れんれんは筋肉ついてて浮かなそうだね!」
「ストッパーにならなれるぞ」
「れんれんストッパーー!!」
子供みたいにはしゃぐ小春。
そのまま、少し高い位置からライラックをじっと観察し、
真剣な表情でスケッチブックに線を走らせる。
さらさら、と鉛筆の音が響く。
蓮は何も言わない。
ただ、しっかりと支えながら、
落ちないように片手を添えていた。
邪魔をしないように。
静かに支えている。
「じゃじゃーーん!!」
ぱっと顔を上げる。
「みてみて!れんれん!」
「おお!」
感心したように声を出す。
「見事なもんだな!」
「まんまじゃねーか」
「写真かと思ったぜ」
「えへへ!」
嬉しそうに笑う。
「あっ、おろしてー!!」
「おう」
そっと。
丁寧に地面へ下ろす。
ぐらつかないように、最後まで支えながら。
「ありがとう!!」
「いいってこった」
軽く頭を撫でる。
わしゃわしゃ。
「ひゃーー!」
楽しそうに笑う。
「れんれん!!」
まっすぐな目。
「また一緒に来ようね!!」
「絶対だよ!!」
迷いのない約束。
蓮は少しだけ目を細めた。
「おう」
低い声。
「小春が行きたい時に誘ってくれや」
夕方の風が、やわらかく吹いた。
今日も、楽しい一日だった。
そう思った、
こはちゃんだった。
貴重なお時間ありがとうございました!




