第35話 変わらないで
第35話 変わらないで
拝啓
誰に宛てたわけでもない言葉を残す。
届かなくていい。
知られなくていい。
ただ、ここにあればいい。
そう思った。
⸻
「蒼真君のこと好きです」
「好き!付き合ってください!!」
「蒼真君」
「かっこいい」
人から向けられる好意は、得意ではない。
最初から苦手だったわけではないと思う。
むしろ最初は、
嬉しかったのかもしれない。
誰かに好かれるということは、
悪いことではないはずだから。
そう思っていた。
変わったのは、
中学の頃。
バレンタインデー。
ただの行事のはずの日。
机の中。
靴箱。
鞄の中。
気づけば、増えていた。
名前も知らない人からの好意。
好きです。
応えてほしい。
どうして見てくれないの。
蒼真君。
周囲は面白がる。
モテてるじゃん。
いいな。
羨ましい。
そう言われるたび、
距離が遠くなった。
同性からは、
好かれていないことも分かった。
逃げ場は、あまりなかった。
モテたいと思ったことはない。
望んだこともない。
気づけば、
誰かの期待の中にいた。
何もしていないのに。
勝手に好きになられて。
勝手に近づかれて。
勝手に理想を押し付けられて。
俺の気持ちは、
どこに置けばいい。
本当に好きなら、
どうして嫌がることをするのだろう。
俺のことを知らないのに。
知っているつもりで、
言葉を重ねないでほしい。
好意が、
少しずつ苦手になった。
恋を向けられることが、
苦手になった。
近づかれることが、
煩わしくなった。
好きだと言われるたび、
距離を取りたくなった。
⸻
高校に入学した。
水瀬小春。
最初の印象は、
少し変わっている人。
無視をしても、
挨拶だけしてくる。
それ以上は、
何もしてこない。
必要以上に踏み込んでこない。
ただ、礼儀として挨拶をしているだけ。
だから、
会釈を返した。
それだけのはずだった。
それだけで終わるはずだった。
なのに。
とても嬉しそうに笑った。
また挨拶をしてくれた。
不思議だった。
恋を向けられるわけでもなく。
期待されるわけでもなく。
ただ、
そこにいるだけだった。
嫌いなはずなのに。
苦手なはずなのに。
君には、
不快感を感じなかった。
理由は分からない。
挨拶を返すようになった。
単語を交わすようになった。
気づけば、
会話が増えていた。
友達として。
俺のことを好きだと言う。
でも、
それ以上を求めてこない。
距離を詰めてこない。
期待もしない。
何も押し付けてこない。
それが、
とても楽だった。
君は、
俺に恋をしない。
だから、
安心できる。
⸻
「榊原君!!」
「水瀬」
「あのねあのね!!」
変わらない笑顔。
変わらない距離。
変わらない声。
それだけでよかった。
それだけで、
十分だった。
君が変わらなければ、
それでいいと思っていた。
だから。
変わらないで。
そのままでいい。
これからも、
友達でいてほしい。
それだけでいい。
それ以上は、
望まない。
望まないはずだ。
だから。
どうか、
このままで。
敬具
貴重なお時間ありがとうございました!




