第30話 みんなの水瀬さん
いつからだろう。
気づけば、
レンズ越しに探してしまう。
人混みの中でも、
すぐ見つかる。
理由は分からない。
ただ、
視界に入ってしまうだけだ。
⸻
「ひよりー?起きてください。ひよりー」
朝は、いつも同じ光景から始まる。
カーテンの隙間から差し込む光。
寝返りも打たずに眠る幼馴染。
昔から変わらない。
「ふふ、仕方ない人ですね」
肩を揺らすと、
ゆっくりと瞼が開く。
「うぅ、とぉる……?」
「ひより、学校行きますよ」
「水瀬さんに会えますよ?」
「ん……」
最近は、
この一言で起きてくれる。
分かりやすい。
彼女の世界にも、
自然と入り込んでいる。
水瀬小春。
気づけば、
当たり前のようにそこにいる存在。
静かに、
ゆっくりと。
距離を変えていく人。
⸻
昨日のことを思い出す。
「あー!透ちゃん!ひよりん!!紹介するねー!れんれんだよー」
いつも通り、
誰に対しても同じ笑顔。
同じ距離。
分かっていた。
彼女は、
誰に対しても平等だ。
それが彼女の良さだと、
理解していた。
理解していた、はずだった。
それなのに。
胸の奥が、落ち着かない。
(……どうしてでしょう)
鼓動が、少しだけ速い。
⸻
「あー!!透ちゃんだー!!おっはよー!!」
いつも通りの声。
変わらない笑顔。
それだけで、
少し安心する。
「水瀬さん、おはようございます」
「すぅ、すぅ」
「ひよりんは相変わらず寝てるねー!ひーよりん!!」
「んん……小春ちゃん……?」
「うん!おはよー!!」
周りには、
いつも人がいる。
賑やかな声。
絶えない会話。
それでも、
彼女の言葉は
不思議と聞き取りやすい。
「君は素直ですね」
思わず、
そんなことを考えてしまう。
多くの人は、
言葉を選ぶ。
距離を測る。
相手によって態度を変える。
でも彼女は違う。
いつも同じ。
誰に対しても同じ温度。
だから、
安心する人が多いのだろう。
まるで、
太陽みたいだ。
「小春」
「あー!!れんれんだー!!おはよー!!」
鬼塚さんに向ける笑顔も、
変わらない。
距離も、
変わらない。
それなのに、
なぜか。
胸の奥が、
少しだけ重くなる。
⸻
体育の授業。
光の角度がいい。
空の色も悪くない。
写真にするなら、
今かもしれない。
「透ちゃん!!透ちゃんは何の競技に出るのー??」
「僕はリレーですよ」
「ええ!!すごい!!」
近い。
距離が近い。
でも、
嫌ではない。
むしろ、
心地いい。
「私いっーぱい応援する!!透ちゃんファイトーー!!」
応援、ですか。
ふふ。
不思議だ。
ただの一言なのに、
少しだけ嬉しい。
⸻
最初は、
ただの友達だった。
本当に。
それで十分だった。
十分なはずだった。
でも、
気づいてしまった。
彼女の言葉を、
待っている自分がいることに。
彼女の反応を、
気にしている自分がいることに。
彼女の隣にいる人を、
見てしまう自分がいることに。
鬼塚さんが現れて、
はっきりしてしまった。
この感情は、
きっと。
もう、
友達では収まらない。
⸻
少し離れた場所で、
笑っている君が見える。
いつも通りの笑顔。
変わらない声。
変わらない距離。
それなのに、
どうしてだろう。
少しだけ、
独り占めしたいと思ってしまう。
そんな自分に、
少しだけ驚いている。
ああ。
なるほど。
僕はきっと――
君のことが、
好きなんですね。
貴重なお時間ありがとうございました!




