第12話 水族館に行ったよ!
「えへへ〜新しいスケッチブック君を手に入れたぞーー!!」
小春は大事そうに紙袋を抱えながら、るんるんと歩いていた。
中には、新しいスケッチブックと参考本。
ずっと欲しくて、お小遣いをこつこつ貯めてやっと買えたものだ。
「はぁ!!楽しみだなー、何描こうかなー!!」
自然と鼻歌がこぼれる。
その時。
「あっれー?こはたん!!」
聞き慣れた元気な声。
振り向くと、陽向が手を振っていた。
「ひーくん!こんにちはー!!」
「おっすー!偶然じゃん!買い物ー?」
「新しいスケッチブックと参考本買っちゃったー!!このためにお小遣い貯めてたんだ!!」
「おお!!いいじゃんいいじゃん!!」
陽向がにっと笑う。
「せっかくあったしどっか遊びに行かね?」
「賛成賛成!!ひーくん天才!!どこ行く?どこ行きたい??」
「ふふーん、見よ!!」
取り出したのは二枚のチケット。
「わあ!!水族館のチケット!!」
「俺、水族館好きなんだよー。落ち着くじゃん?」
「わかるわかる!!お魚が泳いでるの見るだけで癒されるよね!!」
「本当は弟と行く予定だったんだけどさー」
「断られたんだよ!酷くね??」
「ええ!!?もったいなーい!!ひーくん!弟くんの分まで私達で満喫しよ!!」
「よっしゃ!!行こうぜこはたん!」
「うん!!」
歩き出そうとした瞬間。
「あっ、その前にほれ」
陽向が手を差し出す。
小春はぱっと両手で握る。
「ん?」
「違う違う!!」
陽向が思わず笑う。
「こはたん、握手じゃなくて荷物」
「へ?荷物?」
「重たいだろ?持つぜ!付き合ってくれるお礼だと思ってほら」
ひょい、と軽々持ち上げる。
「ひーくん!!ありがとう!!」
「いい男だろ!」
「もっちろん!!最高!!大好き!!」
「お、おう!当然じゃん!!」
少しだけ照れたように笑った。
⸻
水族館。
青く揺れる光の中を、魚たちがゆったりと泳いでいる。
「おお!!すげぇー!!」
「わあ!!可愛い!!」
「こはたんこはたん!!こっちこっち!!」
ぐいっと手を引かれる。
「ひーくん待ってー!!」
ガラスの向こうには、見たこともない形の魚たち。
「おお!!深海魚!!」
「暗ーい!!」
じっと観察する。
「深海魚って不気味だけど面白い見た目だよね。デッサンしていいかな??」
「ははっ、こはたんブレねー」
陽向が紙袋を差し出す。
「ほれ!スケッチブックじゃ!贈呈しよう」
「ははー、ありがたく頂きますー!!」
すぐに鉛筆を走らせる。
「何描く?あいつとかいいんじゃね?」
指さされた魚は、やたらと体が長かった。
「あー!いいね!体長ーい!!キモ可愛い!!」
「いや、キモくね?」
「ひーくん!魚さんに失礼だよ!可愛い!」
「はーい、ごめんな」
陽向が魚に向かって軽く頭を下げる。
「うんうん!」
満足そうに頷く小春。
陽向は思わず笑った。
⸻
「こはたん、お腹空かない?」
「実はぺこぺこー」
「ははっ、あっちにフードコートあったぜ!行こ!!」
「わあ!!行こう行こう!!」
トレーを持って席に座る。
「んん!美味い!いやー、腹減って腹と背中くっつくかと思ったわ!」
「あはは、ひーくん大袈裟ー」
「こはたん、これ」
「なーに?」
「あーん」
スプーンに乗ったアイスが差し出される。
「あーん、んー!!」
「美味しい!!」
「ネットで好評のバニラアイス!うん、上手い!」
「ひーくん!」
「ん?」
「ほっぺついてるー」
そっとハンカチで拭う。
「お、おー!サンキュー!こはたん」
「ふふん!こはたんにお任せあれ!!」
「おーおー!任せた任せた!!」
楽しそうな笑い声が、フードコートに溶けていった。
⸻
帰り道。
「いやー!楽しかったー!」
「こはたん、付き合ってくれてありがとな!」
「私の方こそありがとう!!」
「荷物もごめんね?重かったでしょ?」
「運動好き舐めんなって!平気平気」
ぽん、と軽く頭に手が乗る。
「えへへ」
「んじゃ!こはたん、今日はマジありがとな!」
「また、学校で会おうぜー」
「うん!またねー!!」
ぶんぶんと手を振る。
なんだか少しだけ特別な一日だった気がした。
⸻
次の日の学校。
「ふんふーん、昨日は楽しかったなー」
少し軽い足取りで廊下を歩く。
その時。
「あっ!」
教室の前に、榊原 蒼真の姿があった。
「榊原君!おはよー!!」
声をかけると、
蒼真は一瞬だけ視線を向けて。
ぺこり、と小さく会釈をした。
それだけ。
言葉はない。
「えへへ!じゃあねー!!」
小春は気にした様子もなく、ぱたぱたと教室へ向かう。
少し静かで、
少しだけ近寄りがたい人。
でも。
毎日ちゃんと会釈を返してくれる。
それだけで、
なんだかちょっと嬉しい。
クラスメイトって、
少しずつ知っていくものなのかもしれない。
昨日みたいに、
たくさん笑う日も楽しいけど。
こういう小さなやりとりも、
悪くないなって思った、
こはちゃんだった。
貴重なお時間ありがとうございました!




