第10話 みんな家で何してるか聞いたよ!
「ここはぐるっ、あとはすすす」
放課後の教室。
小春はスケッチブックに向かって、真剣な表情で鉛筆を走らせていた。
さらさら、と軽やかな音が静かな教室に響く。
「こはたん!!絵描いてんの??」
元気な声とともに、陽向が机に近づいてくる。
ふわっとした明るい茶色の髪が揺れて、子犬みたいに人懐っこい笑顔がのぞく。
「ひーくん!!そうだよー!みてみてー」
スケッチブックをくるっと向ける。
「おお!!犬!!」
「近所に犬がいてね!!可愛くて描いちゃえって思って描いてた!!」
「こはたん、犬好きなん?」
「犬も猫も鳥も全部大好き!!」
「こはたんらしー」
「ひーくんは?好きなものなーに??」
「俺の好きなもん?そーだなー」
少し考えて。
「体を動かすことかなー?」
「そっか!前に運動好きって言ってたもんねー!」
「そうそう!!こはたんは聞かなくてもわかるわ絵だろ!」
「ありゃ!!バレてる!」
「バレるの何も目の前で描いてるし!」
「2人で何話してるの?」
玲奈が椅子を引きながら振り返る。
茶色のおさげが肩の横で揺れる。
少し大人っぽい雰囲気なのに、表情はとても親しみやすい。
「玲奈ちゃん!好きなものなーにって話!!」
「何それ、質問大会?」
「れいれい!ナイスアイデア!質問大会さんせーい!!」
「楽しそう!!やろうやろう!!」
「え?今から?もう帰る時間くるわよ??」
「こういうのは思いついた時にやるのがいいんじゃん!なー?こはたん!」
「そうだよそうだよ!!玲奈ちゃんもやろう!!」
「れいれいも観念したら?」
「誰のせいよ」
そんなやり取りをしていると、教室の扉が開いた。
「あれ?みなさん、まだ帰らないんですか?」
「ふみゅ、ねむ」
「透ちゃん!ひよりん!!」
銀色の短い髪が光を受けてやわらかく見える。
透は相変わらず中性的で綺麗な雰囲気だった。
その隣には、ふわふわしたミディアムボブのひよりが立っている。
眠そうな垂れ目と、のんびりした空気がなんだかわたあめみたいだった。
「今から質問大会だ!参加な!とーやん、ひよりん!!」
「何さらりと強制参加させてんのよ」
「わあ、楽しそうですね」
「すぅ」
「付き合ってもいいだって!」
「しつこいようだけど、なんでわかるのよ!?」
「んー?勘!!」
「勘!?」
そのとき。
教室の入り口に、少しだけ遠慮がちな影が見えた。
「……」
「あっ!桃花ちゃーん!!」
ぶんぶんと手を振る。
「あっ、えと」
そこに立っていたのは、金色の髪をふわりと揺らした桃花だった。
整った顔立ちで、少し近寄りがたいくらい綺麗なのに、どこか戸惑った表情をしている。
「ももちーも来いよ!!質問大会!!」
「え?何それ、や、やりたくなんかないからね!!」
「はい!桃花ちゃんも参加ー!!」
「えぇ!そ、その。うん」
「素直!!」
「何から聞こうかなー?」
小春が少し考えてから、ぱっと顔を上げる。
「みんな、家で何してるのー?教えてー!!」
「散歩してるかも?あんまり家の中でじっとしてないわ」
「玲奈ちゃんらしい!!散歩楽しいよね!色んな景色見れるしー!絵も描けるしー」
「こはたんは絵が描きたいだけだろーそれー」
「あははー」
「散歩、いいですね。僕も好きです」
「透ちゃん写真上手だもんねー」
「寝る」
「いや、いつものこと!!」
「ひよりんらしい!!寝る子は育つ!!」
「俺はゲームしてるぜ!」
「なんのゲーム??」
「テレビゲーム!!弟達と良く遊んでるわ」
「ひーくん弟いるのー??私はお兄ちゃんがいるよ!!」
「家で何してるのから、家族の話になったわね」
「水瀬さんらしいですけどね」
「うみゅ、すぅ」
「わ、私は歌を歌ってるかな」
桃花が少しだけ視線を逸らしながら答える。
「聞きたい聞きたい!!今度カラオケ行こうよ!!」
「え?う、……ぅん」
「俺も!!俺も行く!!」
「みんなで行けばいいじゃない」
「わあ!!楽しそう!!ねー!!」
「うん、そうね」
「ひゃー!!楽しみ!!」
そこへ。
「楽しんでるとこ悪いけど」
落ち着いた声が割り込んできた。
「あっ!石田君だ!!どうしたの??」
きっちり整えられた黒髪に、落ち着いた雰囲気。
真面目でしっかりしていそうな印象は、今日も変わらない。
「水瀬さん、ほんと距離近いよね」
こほん、と軽く咳払いをしてから。
「教室の鍵閉めたいから出て」
「まだ下校時間前じゃん!!」
ぶーぶー。
「下校時間に閉めたら俺が帰れない」
「あくまでも、自分優先スタイルなのね」
「ほら出た出た」
「あっ!そうだ!石田君も質問大会参加してよ!!」
「は?いや、鍵」
「家では何してるのー??気になるなー!!」
「え?いや、えと」
少しだけ考えて。
「本読んでることが多いけど」
「わあ!どんな本?ジャンルはー??」
「最近だとミステリー……」
はっとして。
「はっ!いいから帰れ!!」
「うひゃー!バレた!!」
「いや、バレるも何も直球で聞いてたじゃない」
「自然すぎて答えちゃってましたね」
「あーもう!帰るぞ!早く!」
「ひゃー!委員長命令だ!横暴だーー!」
だっ、と小春が走り出す。
「にっげろー!!」
陽向も続く。
「ええ?待ってよー」
「抱っこ」
「いや、たまには歩きましょうよ」
「あ、ま、待ってー!!」
「いや、俺は何も悪くないからな!?」
慌ただしく教室を飛び出す一同。
なんだか、少しずつ。
自然に集まるようになってきた気がする。
好きなことも。
過ごし方も。
少しずつ分かってきて。
まだ知らないことも、きっとたくさんあるけど。
それも含めて、
ちょっと楽しいかも。
そう思った、
こはちゃんだった。
貴重なお時間ありがとうございました!




