落ち着いた頃に
※この話の投稿の数時間前に、一話投稿してありますのでご注意ください。
「うん。やっぱりこのままでいいと思う」
「………」
「彼は彼だから。それが、一番だよ」
「………」
「…うん。やっぱり生徒会長の人達がそっちに行くんだよね」
「………」
「留学生はこのまま?まあ、帰すわけにもいかないもんね、父さん────」
「こんな所で、何をしている?」
寮へ帰る道から急いで引き返し、俺は校舎の屋上にいた。そこで見つけたのは、暮谷が教えてくれた名前の人物。誰かと電話をしていたらしい。
驚いた顔をしたその人物は、まず最初に電話をしまった。その後、五メートルほど離れている俺を見つめてきた。
向こうが何も言わないので、俺が先に口を開く。
「お前を怪しいと思う人物がいてな。色々話を聞いた結果、俺はなんとなくお前の『立ち位置』がわかった気がした」
「…へえ?さすが奏寺くんだね」
俺と向き合った人物は、にこりとこちらに笑みを見せた。その笑顔は『織り姫』というあだ名に相応しい、可愛らしいものだ。
暮谷が惚れるのも、無理はないだろう。
「城戸、お前は役所関係の人間だな?」
単刀直入に俺は目の前の人物、つまり城戸の正体を聞く。
すると城戸は頬に手を当てて、小さく頷いた。
「うん。正確には、役所の人間の子供かな。たまに手伝いとかしているから、似たようなものだけど」
「なるほどな」
「ええ。それで?私が怪しいって言ったのは、やっぱり翔汰?」
翔汰とは、暮谷の名前である。
一応暮谷からは、暮谷が城戸が怪しいと思ったことを伝えて良いと許可は得ている。だが、二人が恋人関係だと思うと少し気が引けた。
そのせいで俺が押し黙っていると、城戸が納得したような顔になる。
「やっぱり翔汰か…。うーん、私が必死に隠していたところに気付くなんて流石ね!やっぱりかっこいいなぁ…」
「…おい」
輝くような笑顔で城戸は空を見つめていた。
…何というか、本当に両想いでなによりだな。
俺が話しかけても城戸はぼうっとしている。
やれやれと思い声をかけるのを諦めると、はっとしたように城戸は自分の世界から帰ってきた。
「で、奏寺くんは何の用なんだっけ?」
「あのなぁ…。まあ、いいか。さっきの話聞こえちゃったんだけど、生徒会長達がどうなるって?」
ハイペースなマイペースの城戸に呆れながら、先ほどから気になっていたことを聞いた。
城戸は少し考えた後に、ゆっくりと話し始める。
「そうだね…。津辻のせいで生徒会長の秘密もバレちゃったから、会長は役所の方にいってもらうみたい」
「…え」
「ふふ、大丈夫だよ。役所でこの土地をまとめる仕事をしてもらうだけだから」
そうか。
ということは、これからは一般の生徒が会長になるんだよな。
それが当たり前なんだが、なんか不安というか…先が見えない。
「ふふっ」
ふいに、城戸が笑った。
「な、なんだよ」
「ううん。やっぱり、奏寺くんはそのままの方がいいよね」
「?」
城戸は俺から視線を外し、グランドを見た。
「情報部に奏寺くんを推薦したのって、私なんだ」
…!
た、確かに俺と同じ中学校の城戸なら、俺の記憶力を把握しているだろうが。
動揺する俺を見て楽しむかのように、城戸はくすりと笑った。
「よく知らないけど、二年生には色んなタイプの情報のスペシャリストがいるんだよね?…奏寺くんはね、その優れた記憶力を発揮して、二年生たちの技術を身につけてほしかったの」
「それって、つまり……!」
「うん。役所はあなたに、津辻みたいな人になってほしいみたい。だからお手本として、この土地は津辻を受け入れたんじゃない?」
津辻は様々な技術を持っていた。確かに情報部としては優秀過ぎる人材だ。
しかしいくら記憶力が良くても、そういったものを覚えることには無理がある。
「はぁ…役所って無茶言うなぁ」
「さすがの私でもそう思う。だから、奏寺くんは今のままでいいよ。役所にいるお父さんにもそう言ったから」
「ああ、それはありがとう」
それから城戸は、こちらが心配になるほど色んなことを教えてくれた。本人曰わく「とくに制限はないから良い」とのことらしい。
ただ、城戸はあくまでこの土地の生徒として楽しみたいようだ。自分の立場を利用して、戦闘に勝とうとは考えたことがないらしい。
話に夢中になっていると、城戸は戦闘部から電話で呼ばれてしまった。およそ一時間に及んだ会話は、これにて終了する。
そして城戸が立ち去ろうとした、その背中に向かって一つの疑問を投げかけた。
「なあ。もしかして、俺が大の苦手としている『あの人』も、役所の関係者か?」
「んー…」
歩いていた足をぴたりと止めた後、城戸はこちらを見ないまま答える。
「…うん。私も夏期休暇中に知ったんだけどね」
それだけいうと、早々と城戸は去っていった。
時は流れ、季節は冬になっていた。
さすがに冬になると、朝早く起きるのがきつくなる。俺は今までより登校時間が遅くなっていた。
おかげで毎日希月と一緒に登校するようになる。
「寒…」
「寒いね…」
いつもの書類に加え、防寒具が増えたせいで体が重い。朝のランニングで飛脚部が軽やかに走っていくのを見ると、なんとなく羨ましくなる。
あの戦闘から約三ヶ月あまり。
この土地の学校の数は、相変わらず四つのみだった。早くも生徒会長たちはその職を離れ、役所に通勤を始めている。
そして今日は楽しみな人にはとことん面白い、ある結果発表が待っていた。
さっそくその結果の張り出しを見た希月は、溜め息をつく。
「うわぁ…」
そこには『新生徒会長…暮谷翔汰』と、でかでかと書いてあった。
「うーん。生徒会と部活の掛け持ち許可が出たら、いきなりこれ?」
「ははは…まあ、一年生で当選っていうのも凄いと思うが」
不満そうにする希月は、他の結果も見始めていた。もちろん、希月も俺も立候補などはしていないため、名前は乗らない。
俺も結果の張り出しをじっくり見ていると、後ろからとてもよく聞く声が聞こえてきた。
「あ、奏寺だ。おはよう」
「ついに結果がでたか」
俺は後ろを振り返る。するとやはり、あの二人がいた。
「白池先輩に香藤部長。おはようございます」
小さい声で、そして周りから見たときに、会話しているように見えない絶妙な方向に目線を向けた。
どんなに周りの環境が変わろうと、情報部の状況は変わらない。まあ強いていえば、そこまで嫌われなくなったのは、多少の変化だった。
それでも風紀委員は怖いが。
香藤部長と白池先輩も結果発表を見始めていた。相変わらず、白池先輩は香藤部長をからかって遊んでは、怒られている。
そしてそのとき、やっと希月の隣に春崎先輩がいることに気付く。なにやら不思議そうな顔つきで、結果の張り出しを見た後に去っていった。
な、何を見ていたんだ…?
気になって春崎先輩が見ていたところを見ると、そこには『新生徒副会長…雪平正護』という文字があった。
「お、おお…」
「ん?奏寺、どうしたの?」
「あ、いや、なんでも」
これにて、情報部は生徒会に進出と。
何だかんだで第三高校の広報部二人の連絡先も交換したし、湖上高校の霧丘とは仲が良いし…情報部がこの土地に広く関わり始めているな…。
とはいうものの、この土地は最近静かだ。まだまだみんな、戦闘には手を着けたくないらしい。
ま、それは俺もか…。
さて、これからこの土地はどんなものになっていくのだろうか?
自分の将来も気になるところだが、この土地の未来も気になってしまう。
しかし学校を卒業すれば、二度とこの土地には帰ってこれないだろう。
それなら俺はこの土地で、情報部を満喫するとしようか。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
終わり方については色々と悩みましたが、これが作者の精一杯でした。
作者の想像以上に話が長くなった『彼が噂の情報部』ですが、最後まで書ききれて良かったな…と今は思っています。
次作等については、後々活動報告にてご連絡させていただきますので、どうかよろしくお願いします。
それでは、本当にありがとうございました!




