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過去私をパシリにしていた男が、エリート社長になって戻ってきたら、溺愛宣言して放してくれません  作者: cheeery


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婚約パーティ


出社してすぐのことだった。

社内が、どこかいつもと違う空気に包まれていた。


ざわざわと人の声が飛び交い、何人かの女性社員たちがフロアの一角に集まっている。


……なにがあったんだろう。


エレベーターを降りた私は、資料のファイルを抱えたまま小さく首を傾げた。


「あっ、高梨さん、来て来てー!」


社員の人に言われ、私は人だかりが出来ているところへ向かう。

すると、その中心にいたのは美咲だった。


「うそー! 本当に!?」

「すごい~!まさかそんなに進んでるとは思わなかったよ」


声に引かれて視線を向けると、美咲が左手を掲げて、くるりと手首を返した。

そこには、ひときわきらめくプラチナの指輪がはまっていた。


えっ。

なに……?


そう思っていると、美咲は改めて言った。


「ふふ……先週、もらったの。婚約って言うのかな?」

「うわ~キュンすぎる! いいなぁ!」


「ちゃんとサイズぴったりなんて、彼氏さんさすがじゃん!」


美咲は得意げに微笑みながら、指輪の石の部分をさりげなく角度を変えて見せびらかしていた。


指輪……。

もらったんだ……。


私と別れたばっかりなのに、もうふたりは婚約するなんて……。


それを囲むようにして、女子社員たちがきゃあきゃあと騒ぎ、全体が明るい空気に包まれていた。

私はその輪から少し離れたところで、ただ黙って見ていた。


もし圭介くんと私が上手くいってたら、その指輪は私が付けていたのかな。

そんなことを考えてしまって、胸の奥が、きゅうっと締めつけられた。


「ねぇ、莉乃」


すると、私を見つけた美咲がこっちにやってくる。


「本当にいい人紹介してくれてありがとう!」


美咲は満面の笑みを浮かべながらそう言った。


「ええ~高梨さんの紹介でふたりは出会ったの?」

「うん、そうなんだ~。本当親友がいい縁を作ってくれたって感じ」


周りにいる人が興味深々にそんな話を聞く。

でも強引にも笑うことは出来なかった。


「それで……彼と実は婚約パーティーをしようって考えてまして……」


美咲の声が、ひときわ弾んだ。


「ぜひみんなも来てくれないかなっと思ってるの。ラフな感じでも参加するようにする予定だからさぁ」

「行きたい!」


ひとりが口火を切れば、あっという間に火がついたように話題が広がっていく。

美咲は満足そうに頷きながら、私に視線を向けた。


「莉乃も来てくれるよね?せっかく縁を繋いでくれたんだから、仲人的な感じでお祝いして欲しいし、彼氏とかも連れてきてOKだから」


彼氏なんかいるわけがない。


別れたばかりだと知っているクセに……。


そんな盛り上がっている空気を引き裂く声があった。


「もう就業時間始まっていますよ」


低く、静かな声。

その声には圧倒的存在感があって……。


みんなが驚いたように振り返ると、そこには黒瀬社長がいた。


「しゃ、社長……」

「騒ぐのは昼休憩に。迷惑になるからね」


「は、はい……すみません」


誰も、なにも言えず美咲ですら、手を止め、苦笑いを浮かべるしかなかった。


淡々としたそのひと言に、まわりはぞろぞろと席へ散っていった。

黒瀬社長はそれを見届けると、ふとこちらに視線を向けてくる。


「高梨、いいか?スケジュールを確認しておきたい」

「はい、分かりました」


もしかして助けてくれた……?


なんて考えすぎか……。


フロアのざわつきがウソのように収まったあと、私は社長室へ戻った。


ドアを閉めると、外の空気が音ごと遮断され、静けさが広がる。

机に資料を置き、パソコンを立ち上げようとしたとき。


「なにがあった?」


不意にかけられた声に、動きが止まった。


顔を上げると、デスクに座っていた黒瀬が、視線をこちらへ向けていた。

姿勢は変わらず、書類に目を落とすふりをしているのに、明らかに私の様子を見ていた。


「別に……大したことではありません」


そう答えながらも、少しだけ喉が詰まる。


「フロアで、村瀬が……婚約を報告していて、周囲が少し浮ついていました。騒がしすぎたので、社長が登場された時点で、場が一気に引き締まったようです」


事実だけを、感情を削ぎ落として淡々と並べる。


「……お前は?」

「私は、ただの通りすがりです」


「そうは見えなかったが?泣きそうな顔してた」


そう言ってそっと私の顔に手を伸ばしてくる。

その手を払うようにして私は言った。


「私のなにを知ってるんですか?」


「昨日ので大方知った」


……そうだった。

この人に失恋の話をしてしまったんだったな。


話を聞いてもらった手前、関係ないでしょと言い放つのには気が引ける。


助けてもらったのもあるし……。

私は深いため息を落としながら言った。


「村瀬なんですよ。その……元カレの不倫相手が」


私の話す内容に意味が分からないとでも言いたげな視線を向ける。


こっちの方が意味が分からない。


「それで婚約したらしいですよ。だから婚約パーティーに参加してくれって」


「お前を誘ったのか?」


「そーですよ」

「なんのために?」


そんなのこっちが聞きたいってば……。


「まぁ、おそらく嫌がらせじゃないですか?」


それ以外無いもの。

浮気されていたことはもういい。


でもお願いだからこれ以上関わってきてほしくなかった。


彼女がいる限り、私の心が癒える時間がない。


「くだらんな」


黒瀬社長はそう吐き捨てた。

一応、元いじめっこの割にはそういう意識くらいはあるらしい。


私は説明を終えたので、業務に戻ろうとした。


しかし、その瞬間。ぐいっと肩を組まれる。


「……っ、?」


すると彼は私の横で堂々と言った。


「よし!そのパーティ、参加するか!」

「……は?」


なに、言ってるの……?

誰が元カレがいるパーティに行きたいって思うのよ。


もう見たくもないラブラブなところを見せつけられて、これ以上私をみじめにさせるつもり?

やっぱり黒瀬は変わってない。


私の心を地の果てまで落とそうとしてる!


黒瀬はふっと、肩にかけた腕を下ろしながら言った。


「そのパーティ、めちゃめちゃにしてやればいい」

「めちゃめちゃにって……」


「俺も参加する。お前の婚約者としてな」


はぁ!?なにを言ってるの?こんなことありえないでしょ。


それから、黒瀬は呼び出され仕事に戻っていった。


どういうつもりそんなことを言うんだろう。

本当に黒瀬の考えていることは分からない。


『とりあえず参加するって言っておけよ』


黒瀬からは、そんなことを言われてしまい私は自ら美咲に参加すると伝えるしかなかった。


どういうつもりなの?

見返すなんて言って来ないで私をまた笑うつもり?


黒瀬はたしかに昨日は優しくしてくれたけれど、過去のことを許したつもりはない。


【莉乃が来てくれて嬉しいよ!きっと圭介も喜ぶと思う!新しい彼氏を見れるの楽しみにしてるね♡】


しかもなにも言っていないのに彼氏と来るとか言ってるし……。


「……行きたくなんて、ないんだけどな」



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