表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過去私をパシリにしていた男が、エリート社長になって戻ってきたら、溺愛宣言して放してくれません  作者: cheeery


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/26

すっきりした日


それから……。

なにかと黒瀬が忙しいことや、会食などが重なり、その件について話す時間もなかった。


ただどこでやるのかと時間を伝えると、黒瀬は待ち合わせ場所を指定してきた。


そして、婚約パーティー当日。

私は、淡いベージュの膝丈ドレスを着て髪も少し巻いてきた。


本当に来るんだろうか。

待ち合わせ場所に立つ私は、スマホの時計を何度も確認していた。


って……時間、過ぎてるし……。

予定していた時刻を、五分、十分と過ぎていく。


LINEにも既読はつかない。


浮かび上がる不安と焦りを押し込めながら、私はバッグの中の招待状を握りしめた。


黒瀬は「必ず行くから」と昨日メッセージを送ってきた。

でも蓋を開けてみればこれだ。


けっきょく待ち合わせになっても来ないじゃない。

一瞬だけ期待してしまった自分が、心底情けなかった。


あの黒瀬が、本気で自分の味方をしてくれるわけがない。


あれはただの思いつきか、退屈しのぎでそう言ったと思った方が、納得がいく。

それか、アイツも「本当に行ったのかよ?」なんてからかったりしてね?


……バカみたい。


小さくため息をついて、私はひとりでホテルの会場へ向かった。


パーティー会場は、ホテルのラウンジスペースで行われていた。


すでに受付には同僚たちが何人か集まり始めていて、グランドピアノのBGMが静かに流れている。


テーブルの上にはシャンパンと軽食。

社員たちはフォーマルな装いで談笑していて、全体に祝福ムードだった。


会場の奥、ひときわ目立つテーブルの中央にいたのは、美咲と圭介だった。


美咲は、圭介の腕に手を添え、満面の笑顔を周囲にふりまいていた。


はぁ……。

私はなにをしにここに来ているんだろう。


なにが楽しくて、浮気した元カレの笑顔を見に来ているのだろう。

すると、美咲たちが私たちの元にやってきて、笑顔で出迎えてくる。


「みんな来てくれてありがとう~~!」

「キレイだよ~美咲」


「ありがとう」


みんなに笑顔を見せると、今度は私に視線を向けた。


「莉乃~、来てくれたんだ! 嬉しい!あれ、でも彼氏は?」


莉乃はニヤリと笑いながらそんなことを聞いてくる。


「えっ、彼氏?」


みんなが驚いたように声をあげた。


「そう、莉乃ね。彼氏が出来たみたいなの。この婚約パーティに連れてくるって言ってたよね?」


「ええっ!そうなの?」


「みたいみたい~!」


なにも知らないみんなは目を輝かせてこっちを見つめる。

私が無理やり笑顔を作ることしか出来なかった。


「あっ、えっと……遅れてるみたいで……」


そして圭介くんが言う。


「最初は彼氏が出来たって聞いて驚いたけど、今日会えるのを楽しみにしてるよ」


圭介くんは笑顔を作った。


みんななにを言ってるんだろう……。


気持ち悪すぎて、背筋がぞわっとした。

すると美咲はちょっと低い声で言った。


「まさか空想上の人物とかじゃないよね~?」


くすっと笑う美咲。

周りが驚いた顔をする。


「えっ」


「いやぁ~莉乃ってけっこうそういうところあるんだよね?私に張り合って勢いで自分もいるって言っちゃうこととかさぁ」


みんながそれを聞いて微妙な顔をする。


悔しくて、情けなくて、でも……言い返したい言葉が出てこない。

……どうして、こんな場所に来てしまったんだろう。


黒瀬が変なこと言い出さなきゃ、私は参加しないで済んだのに。


やっぱりアイツは最低なやつ。

そのときだった。


「空想上の人物じゃなくてごめんね。莉乃……お待たせ」


低くて、静かな声が背後から聞こえた。


振り返ると、そこに……黒瀬が立っていた。


「くろ、せ……」


濃紺のスーツにシルバーのタイ。

いつもと変わらぬ冷静な表情を崩さず、それでいて場の空気を一瞬で掌握するような存在感。


まわりがざわっとどよめいた。


「えっ……黒瀬社長?」

「うそ……なんで……?」


美咲の表情が、見る間に強張った。


黒瀬は私の隣にすっと並ぶと、当然のように私の腰に手を添えた。


「仕事が長引いて連絡も出来なかった。ごめんな、莉乃」


その呼び名に、空気が凍った。


「えっ、あの……高梨さんの彼氏ってその……」


「黒瀬社長……!?」


なんて答えていいか分からず、戸惑っていると、黒瀬がポンポンと腰あたりを叩き頷けと言う。


私は言われるがままに小さく頷いた。


「ウソでしょ~!?ビックカップルすぎる……!」

「そんなことがあっていいの!?」


周りは歓喜に包まれていた。


どうしよう、めっちゃ注目されているんだけど……!


さっきまで美咲を囲んでいた輪が、一気にこっちに傾く。


これ、想像以上に騒動になっちゃうんじゃないの?


「高梨さんと社長いつから付き合ってたの!?」


目を丸くして聞いてくる後輩や、ざわめく同僚たち。


なんて返したらいいか分からず、戸惑っていると黒瀬が代わりに言う。


「実は俺たち、高校が一緒だったんだ。久しぶりに再会したこともあって話が弾んでね」


黒瀬は、淡々とそんなことを言う。


決して話が弾んだわけじゃないのだけど……。


パニックで言葉が出てこない私の隣で、黒瀬はさらに言った。


「お騒がせしてすみません。今日は主役の村瀬さんにぜひ一緒に来てほしいと言われたもので……でも主役はあくまで村瀬さんたちなので、あまりこちらに注目が集まらないようご配慮いただけると嬉しいです」


穏やかな口調でニコっと笑う社長にみんなが釘付けになっていた。

すると、その中心にいた美咲がギリっと歯をくいしばる。


そして私を睨みつけるように見ていた。


「莉乃、これ好きだったよね?」

「あ、ああ……ありがとう」


今、黒瀬からキラキラの笑顔を向けられている。


「黒瀬社長、カッコイイ……とりわけてあげてる」

「優しそうよね……っ。高梨さんが好きっていうのが伝わって来るわぁ」


これは演技のためだ。


分かってはいるのだけど。


「莉乃、そっち持つからおいで」


この甘々黒瀬が慣れない……!


まわりの視線を一身に集めながら、私の肩を自然に抱いてみせるこの人は、どう見ても本当の恋人にしか見えない。

慣れてるのか、こんなスマートに色々こなしちゃうしさぁ!


すると食事をしている際、近くにいた同期がたずねてきた。


「ねぇ黒瀬社長、高梨さんのどんなところに惹かれたんですか?」


そんな質問が飛び交う中、黒瀬はこともなげに答えた。


「芯が強いところかな。見た目に騙される人間は多いけど、莉乃はしっかり自分の軸を持ってる」

「ちょ、黒瀬社長……!」


それでも、彼の言葉に周囲は「素敵……」なんて息を漏らしていて、私ひとりだけが心の中でバタバタしていた。


「……ちょっと、トイレ行ってきます」


グラスを置き、私はその場から逃げるように足早に会場を出た。


なんか居心地が……。

さっきまで絶望の中にいたとは思えない、なんとなくむずがゆい感覚……。


これをどうしていいか分からない。


長めの鏡が並んだホテルのパウダールーム。

照明の優しい光の中で、私は鏡越しに深く息を吐いた。


落ちつけ私……。

黒瀬は演技をしてくれてるだけだから……。


あと少しいたら帰ろう。

にしても、この後どうするつもりだろう。


ここまで知られてしまっては、黒瀬はやりずらいんじゃないの?


手を洗って個室を出たそのとき。


「莉乃」


声をかけられて、反射的に振り返る。

そこには、圭介くんが立っていた。


どうしてここに……。


「ちょっと話したいんだけど」

「……なに?」


私は出来るだけ圭介くんを見ずにそう答えた。


「さっきから見てたけどさ、あの人本当の彼氏なの? 」

「……どういう意味?」


「美咲の会社の社長だって聞いたけど……」

「……そうだよ」


もういいでしょ。

これ以上話したくない。


美咲の元に戻って欲しい。


「あんなに早く相手作るなんてさ……俺と付き合ってる時から関係があったんじゃないの?」


――は?


なにを言ってるの、この人。

自分が浮気をしていたクセに、私に罪をなすりつけようとするわけ……?


どこまで最低な人なんだろう。


「違うから」


この人とはどこまでいっても分かり合うことは出来ないんだろう。


「もういいでしょ?圭介くんと話すことなんてない」


すると、彼は私の手を掴んだ。


「……莉乃!」

「……痛……っ」


その瞬間―─。


「手を離せ」


廊下の空気が一瞬で張りつめた。


振り向くと、そこには黒瀬が立っていた。


スーツの裾を片手で整えながら、視線だけで空気を支配するような佇まい。

その目は、圭介くんを真っすぐに射抜いていた。


「彼女の手を握る権利は、もうお前にはない」

「……なんだよ、あんた。社長だからって……」


「関係ない。男としての話をしてる」


黒瀬は一歩前へ出た。

その動作ひとつで、圭介くんの手がわずかに緩む。


すると黒瀬は笑顔を作った。


「お似合いだと思うよ。親友の彼氏を取るような倫理観のない女とキミは……」

「……なっ!」


圭介くんの顔が一瞬で引きつる。

黒瀬はゆっくりと私に歩み寄ると、私の背に手を添えた。


「そろそろ帰ろうか、莉乃。キミが嫌な気持ちになるならここにいる意味もないからね」

「……うん」


それから私たちはパーティ会場を後にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ