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過去私をパシリにしていた男が、エリート社長になって戻ってきたら、溺愛宣言して放してくれません  作者: cheeery


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イケメン社長


「全社員の皆様、本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます」


それから私たちは広めの大会議室に集められた。

この会社で一斉に社員が集まる機会はそう多くない。


新体制発足の節目となる今日、フロアごとの持ち場を離れ、部署を超えて一堂に会することになった。


空調が効いた室内には、朝からの業務の緊張感とは異なる、どこか浮ついた空気が漂っていた。


「新社長楽しみ~!若いんでしょう!?」

「黒瀬さんって雑誌にも乗ってる実業家だよね。やばいんだけど」


ヒソヒソと、けれど興奮気味な声が、あちこちから聞こえてくる。

前社長が会長になったことを発表され、スピーチをした後、黒瀬が発表されることになった。


「それでは、新社長よりご挨拶を申し上げます」


司会役の部長の声が響くと、会場がぴたりと静まった。

そして黒瀬社長が扉から入ってきて、一歩前へ進み、マイクの前に立つ。


「本日より、弊社の代表取締役社長に就任いたしました、黒瀬悠真です。まずは、このような大役を任されたことに、身が引き締まる思いです」


低くよく通る声が、会場全体に響く。

すると女性社員たちの甘いため息があがった。


「超イケメンじゃん……」

「結婚してるのかな?私、狙っちゃおうかな」


あっと言う間にみんな黒崎社長にくぎ付けになっていた。


「社員の皆様が、日々の業務にまい進されていることに、心から敬意を表します。私も、皆様と同じ目線で現場を知り、一緒に走っていけるよう努めてまいります。どうぞよろしくお願いいたします」


拍手が起こった。

そして、またもやざわつく声。


「あれで独身とかあり得るかな?」


「でもまだ若いし……私、思い切って挨拶行こうかな。話しかけるチャンス、今しかないし」


視線の先には、壇上に立つ黒瀬社長。

濃紺のスーツに身を包み、堂々とスピーチをするその姿は、確かに誰が見ても様になる。


それを見ながら、心の中で小さくため息をついた。


けっきょく目立つ人はどこへいっても、こうしてみんなの視線を集めていくんだ。


(あの時と、少しも変わってない)


要領がよくて、人の懐に入り込むのが上手で、なにもかも自然と手に入れていく。

苦労なんてしたことがないんだろう。


私は視線をそらし、手元のスケジュールに目を落とす。


なんか、くやしいな。

昔の私に強烈にコンプレックスを植え付けた相手がこうやって色んな人に認められ、楽々と人生を歩んでいっているのは……。


午後一番の会議。

さっそく、私は黒瀬社長と一緒に仕事をすることになった。


今は経理部を交えて会議中だ。


社長席のすぐ隣。

議事録用のタブレットを開きながら、私は黒瀬社長の動きを横目で追っていた。


「この第2四半期の数値、予測と比較して乖離しているけど……これは想定内ですか?」


さらりとした問いに、経理部の課長がやや緊張した面持ちで答える。


「はい、昨年同時期との比較では大きなズレではなく、許容範囲内です。今後の修正で――」


「わかりました。その辺りもう少し整理した上で、資料は再提出してください」


社長はひとつ頷くと、視線をこちらに向けた。


「高梨さん、スケジュール調整お願いできますか?」

「承知しました」


私は即座に応じながら、タブレットにメモを加えた。


無駄がない。

黒瀬社長は、驚くほどスムーズに会議を進めていた。


資料にざっと目を通すだけで、数値の前後を即座に把握し、的確な指摘と判断を下していく。


しかも、初対面のはずの取引先の社名も、担当者の名前も、過去の実績さえも、すでに頭に入っているようだった。


要領がよくて、記憶力も優れていて、場の空気を読むのが上手い。


私はそっと視線を落としながら、唇を引き結んだ。


昔からそうなんだよな。

なんでもそつなくこなして、先生にも気に入られて、周囲の信頼を当たり前のように手にしてしまう。


だからなにをしてもこの男は許されてきたんだ。


会議が終わり、会議室を出ると、そこには人だかりが出来ていた。


な、なに!?

黒瀬社長が一歩外に出ると、待ち構えていたように数人の女性社員が近づいてきた。


「社長、お疲れさまです。営業の加藤です。お時間、大丈夫でしたら……お食事でもいかがですか?年が近いってこともありますし」


「私たち、社長ともっとお話ししてみたくて……。みんなで、お祝いの気持ちも込めて歓迎会でも……!」


一人が言えば、もう一人が続く。


どうにかして社長と接点を作りたいようだった。


黒瀬社長は、一瞬だけ驚いたように目を細めると、すぐにいつもの穏やかな表情をつくった。


「恐縮です。でも今日は、あいにくこのあとも予定が立て込んでいまして……」


断りながらも、その口調はあくまで丁寧で、相手を下げない。


手慣れてる。


「そうだったんですね。それなら、また時間がある時に」

「絶対ですよ~!」


女性たちはキャキャ声をあげながら、その場を後にした。


あんな意地悪なやつがモテモテと来たか……。

なんだか腹が立って、つい言葉をこぼしてしまう。


「おモテになるんですね」


やば……口に出しちゃった!

すると黒瀬社長は言った。


「分かります?」


……は?


一瞬、聞き間違えかと思った。

でも、彼は真顔だった。


ほんの冗談めかしつつも、どこか自信ありげな目をしている。


「まぁ……もう慣れましたよ」


む、ムカつく……!

俺モテますけどアピール!?


本当気に障る。


「高梨さんはどうなんですか?ほら……秘書って気が利く方が多いですから」


すると笑顔でそんなことを聞いてきた。


私?

つい昨日、結婚するかも~なんて思っていた相手に不倫されフラれましたけど!?


「そういうプライベートのことは言わない主義なので」


イライラしたのもあってか、私は突き放すようにそう言った。


「つれないな」


ふんっ!誰があんたなんかに教えるものですか!


イライラする……。


なにもかも上手くいかなくて、大キライな相手が社長となってきて……私はその社長のためにこれから身を粉にして働かなきゃいけない。


『今日はからお前は俺のパシリだ』


そんなの、本当にパシリのようじゃない……。


なにが悔しくて、昔の自分にならないといけないの。

気づけば私は、無意識に唇を噛みしめていた。


「そうやって噛んでいたら、傷になってしまいますよ」

「えっ」


低く落ち着いた声が、すぐ目の前から聞こえた。


はっとしたときにはもう遅かった。


黒瀬社長の手が、私の顎をぐいっと持ち上げていた。


「……っ」


逃げようとしたけれど、動けない。

そのまま指先が、私の下唇をそっとなぞる。


「……もったいないな。キレイな唇なのに」


甘く低い声と、触れた指の感触が同時に身体を貫いていく。


「……っ!」


私が慌てて身を引くと、黒瀬社長はふっと口元だけで笑った。


「その癖、治したほうがいいですよ」


な……なに今の……!?

もしかしてモテようとしてる!?


この人……会社になにしに来たのよ!


人をイジメたことをすっかり忘れて、雑誌なんかで展望を語って……。


女性は全部自分の思い通りになると思ってる。

そういうところが昔から大キライなんだ。


使われるなんて嫌。

もう私は昔のなにも言えないやつじゃない。


……そうだ。そうよ。

もう昔とは違う。


今、黒瀬は私のことを気づいていない。

ってことは、秘書としてある程度身をゆだねることになるってことになる。


今、彼の一番近くにいるのは私だ。


これから社長秘書として私は社長を支えていく立場に立っていかないといけない。


ってことは……黒瀬に復讐出来る大きなチャンスってことにならない!?

こんなに近くにいるのであれば、彼を社長から失脚させることはたやすいのでは?


そうよ。

やられぱなしなんてありえないわ。


いいわよね。

だって今まで黒瀬のせいで苦労させられたんだから。


仕返し、してやる……。



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