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過去私をパシリにしていた男が、エリート社長になって戻ってきたら、溺愛宣言して放してくれません  作者: cheeery


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不愛想なのに優しいやつ【黒瀬side】



最初は、特別な感情なんてなかった。


クラスの中で目立たない女子……。

それが高梨莉乃だった。


髪はいつも真っ直ぐに結ばれていて、眼鏡越しの視線は誰とも交わらず、淡々とノートを取り続けている。


そいつは友達もおらず、ただひたすら勉強をしているだけ。


高校の頃からそんなに必死に勉強して何になる?


そんな風に思っていたけど、器用ではないのかけっきょく勉強したところで、クラス1位は俺で2位は高梨という結果だった。


せめてそこは1位取れよな?


話したこともなかったし、正直記憶にもほとんど残っていない。

でもそれが変わったのは、ある雨の日だった。


──ザー!


あーあ、やっちまった。

そういや、今日母親が傘持っていけって言ってたな。


こんなに晴れてるんだから大丈夫だろって、そのまま出てきたのが間違いだった。


傘を忘れて下駄箱で立ち尽くしていた俺。

どーするか、なんて考えていたらふいに高梨莉乃が近づいてきた。


傘を持っている高梨。

なるほど、そういうところまでマメってことな。


さすがガリ勉ちゃん。

なんて思っていた時。


「これ、良かったら……」


傘を差し出された。


「えっ」


戸惑って言葉を失っていると、彼女は自分のバッグから折りたたみ傘を取り出して、小さく笑った。


「もう一つ持ってるから」

「お、おう……」


──ドキン。


なんだ……コイツ。


笑うのか。

普段は不愛想なクセに?


しかも、俺らみたいな人間嫌いですって顔してんのに貸してはくれるのかよ。

なに考えてんのか、分かんねぇ。


「それ、お気に入りだから返してね」


しまいにはそんな風に言ってまた笑う。

笑ったところなんて見ていなかったからか、なんだか胸がざわついた。


「サンキュー」


帰り道、傘を差しながら俺は高梨のことを考えていた。


アイツ……大きい方のヤツを俺にくれたんだな。


意外と気が利く。

周りなんか見てません、みたいな顔してそんな意外な表情を見たからか、なんでか高梨の顔が頭から離れなくなった。


だけど、翌日。

俺はその傘でめちゃくちゃイジられることになる。


『黒瀬がネコの傘持ってたらしいんだよ~』

『お前が猫の柄の傘って……小学生かよ? マジでウケるんだけど!』


『つーか、待ってこれ地味子のじゃん』

『お前、地味子に借りたのかよ!』


クラスの男子たちにからかわれて、くだらないプライドがうずいた。


『ち、ちげぇよ!俺が奪い取ってやったんだ!』


笑われるのが怖かったわけじゃない。

でも借りたというのが恥ずかしくて、そう思った時には、もう口が勝手に動いていた。


『ほら、拾えよ』


俺はポンと高梨の傘を投げて返した。


『地味子のくせに、生意気なんだよ』


そう言葉を吐きながら。


何してるんだよ……。


ありがとうって、ちゃんと伝えて返すべきだろう。


心ではそう思っているのに、みんなが見てるから、俺は見栄を張るしかなかった。


俺は高梨の顔を見ることができなかった。


バカかよ、俺……なにしてんだよ。


いつか謝る機会が来るかもしれない。

本当はあんなことしたかったんじゃないと伝えられるかもしれない。


俺はその機会をずっと考えていた。

しかしその時、最悪なことが起きることになる。


クラスの女子グループが高梨を敵視し始めた。

それはリーダー格だった結城が、担任の浅見を好きだったからだ。


浅見に気に入られている高梨。


「頑張ってるな」

「みんなも高梨を見習うように」


浅見にたくさん褒められる高梨に嫉妬したのだろう。


教科書を隠してやろう、上履きを濡らしてカバンを捨ててやろう。

そんな陰湿ないじめの計画は俺の耳にも入ってきた。


なにしてんだよ、あいつら……!

俺はいてもたってもいられなかった。


高梨をいじめさせるわけにはいかない。

でも直接助けるなんて器用な真似は、俺にはできなかった。


だから、俺は誰よりも最悪な「悪役」になることを選んだ。


『高梨をいじめていいのは、俺だけだ。俺はこいつをパシリにする。だから手出すな!』


女子たちの前でそう宣言し、俺はあいつを「パシリ」にしてみせた。


パンを買いに行かせ、カバンを持たせる。

そうやって俺の管理下に置くことで、女子たちのくだらない嫌がらせから、あいつを遠ざけた。


高梨は俺に相当恨みを持っていただろうな。


傘を渡すという接点を作ったがために俺のパシリとさせられてしまい、俺の顔を見るのも嫌だっただろう。


当然だ。

俺は、好きな女に嫌われるという最悪の手段でしか、あいつを守れなかったのだから。


けっきょく、卒業まで本当の気持ちは伝えられず、あいつは俺の知らない場所へ行ってしまった。


それから当然会うこともなかったし、連絡先なんて交換していない俺は高梨と連絡を取ることさえ出来なかった。


大学を卒業してすぐに起業をして……恋愛もそれなりにした。

でも高梨のことは忘れられなかった。


なんなんだろうな。

後悔からなのか……単純に俺が彼女のことを好きなのか。


俺がもし、また高梨に再会することが出来たらなんと言うだろう。


あの時のことを謝ることが出来るだろうか。

過去のことを弁解することが出来るんだろうか。


そんな時、俺は高梨とキセキの再会をすることになる。


「社長秘書の高梨莉乃です。本日からよろしくお願いいたします」


凛とした声と共に差し出された手。

その名前を聞いた瞬間、俺は時が止まるのを感じた。


まさか、こんな場所で会うなんて。


高校時代、いつも二つに結んでいた髪は、今は艶やかに肩まで流れている。


勉強の時だけかけていたはずの眼鏡はなく、すっきりとした知的な目元が覗いていた。

あの頃の面影を残しながらも、声のトーンも、自信に満ちた立ち姿も、俺の記憶の中の彼女とはまるで違う。


それでも、すぐに高梨だと分かった。


彼女が小さく微笑んだ時、その目元がふわりと和らぐ。そうだ、俺はずっとその笑顔を——。


ああ、謝ろう。

あの時のことを全部。


しかし俺が差し出した手を握り返した高梨の表情は、完璧なビジネススマイルで、そこに一片の感情も読み取れなかった。


覚えてないのか……?俺のこと。


あんなに毎日、パシリとしてこき使ったのに。


お前の大嫌いな相手がここにいるんだぞ?

それなのに全部、忘れたとでも言うのか?


苛立ちと、自責と、どうしようもない懺悔がないまぜになって、けっきょく俺はあの時の謝罪とは真逆の行動をとった。



『地味子ちゃん。また思う存分パシリに使ってやるよ』


人は愚かな生き物だ。


「クッソ、何してんだよ、俺は……」


一人になった社長室で、頭を抱える。

結局、俺は高校生の時から何も変わっていない。


こんな自分なのだから、彼女に拒絶されて当然だ。

不意に、脳裏に声が響く。


『言ったでしょ、黒瀬のことは大嫌いだって』


大嫌い、か……。

それが俺が積み上げてきたものだ。

受け入れるしか、ない。


でも他のどんなことよりもその言葉が俺の心に突き刺さっていた──。



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