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過去私をパシリにしていた男が、エリート社長になって戻ってきたら、溺愛宣言して放してくれません  作者: cheeery


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16/26

手料理


買い物を終えて、黒瀬のマンションに戻るころには、外はすっかり暗くなっていた。


「にしても嫌味なくらいいいお家ですね」


私が伝えると、黒瀬はこれまた嫌味なのか「気に入ってもらえて良かったよ」と言ってきた。


ウザ……。

まぁ……それだけずっと努力をして手に入れてきた立場だからなぁ。


黒瀬が鍵を開け、中に入ると無機質で広々としたリビングが現れた。

高い天井、大きな窓からは夜景が一望できるようになっている。


「ってか冷静にこれ絶対女の人連れ込んでますよね?」

「いや……家に人は呼ばない主義だから。家に来たのはお前がはじめてた」


「ウソつき」

「はぁ!?ウソじゃねぇよ」


私しか連れてきたことないなんて、絶対ウソじゃん。

まぁそんな話したくないんだろうけど。


キッチンに袋を置いて、私はそのままエプロンを借りて手を洗った。


「じゃあ……すぐ作りますね」


言いながら買ってきた豚ロースと玉ねぎを取り出す。


今から作るのは豚の生姜焼き。

黒瀬になにが食べたいのか尋ねたら、「生姜焼き」ってぶっきらぼうに答えるから笑ってしまった。


意外と家庭的なものが好きなんだ……。

失敗はしにくい料理だけど、美味しくできるかな。


玉ねぎを薄切りにして、フライパンに油を落とす。

するとそれを興味深々に見ている黒瀬がいた。


「手際いいな」

「まぁ……一応料理はしてましたから」


私は大学を出てから一人暮らしをしていて、1人暮らし生活は長い。

とはい一人の時はあんまりする気になれないけど、誰かのためにする料理は好きだった。


よく圭介くんにも作ったっけな?

なんて考えていると、黒瀬が後ろから私の頬をつまんできた。


「おい、今誰のこと考えてる……?」

「う“……」


妙に鋭い……。


それから肉をフライパンで焼き、その間にお皿にはキャベツを敷いて、出来上がった生姜焼きを盛りつけた。

横にはプチトマトと、出汁をとった味噌汁。


そして炊きたてのごはん。

よし、完璧。


「……できましたよ」


黒瀬は少し仕事の連絡が入ったのか、リビングで仕事をしていた彼に声をかけると、彼はソファから立ち上がり、嬉しそうにこっちにやってきた。


「すげぇ!」


なんか犬みたい……。


黒瀬はお皿を運んだり食べる準備を手伝ってくれた。

黒瀬が席につき、静かに箸を手に取る。


「いただきます」


私も向かいに腰を下ろしながら、そっとその様子をうかがった。


どうかな……。

口に合うといいんだけれど……。


彼は最初に、豚の生姜焼きを一切れ、箸で静かにつまむ。

そしてぽつりと言った。


「……うま」

「えっ、本当?」


思わず返す声が、少しだけ上ずってしまった。


「マジ」


黒瀬はそのままご飯茶碗を取り、無言で食べだす。

味噌汁も続けてすすり、ふたたび生姜焼きへと箸を戻した。


「お前すげぇな。肉も柔らかいし、味付けも好き」


こんなに褒められるとは思ってなかったな……。


本当に美味しいと思ってくれたのか、その後もたくさん食べてくれた。


なんか、もっと「味うすくね?」とか上から目線で「まぁ合格かな」とか言ってくると思ったのに。


変なところ素直だから調子くるっちゃう。


こんなにウキウキしながら食べてくれたら、こっちも作って良かったとか思っちゃうじゃない。

それからふたりで何気ない話をしながら食事をした。


黒瀬とは最近ふたりで向かい合って食事をする機会が多い。

でも不思議と居心地の悪さは感じないのよね。


すべてをキレイに食べ終えると。


「ごちそうさまでした」


彼は丁寧に手を合わせて食器を片付けはじめた。


「座ってていいですよ。私が洗いますから」

「いや、そこまで任せらんねぇだろ」


そう言って彼は洗い物をはじめる。


「いやいやいや、社長にはさせられません」


社長と秘書がいて、社長に洗い物させるなんて気が引ける。


「私がやりますって!」

「いいから休んどけって。俺がやるって言ってんだ!」


彼は頑固だ。

ここまで言ったら絶対譲らないだろう。


「なら……」

「ソファーに座ってろよ」


「うん」


私は言われるがままにソファーに腰を下ろした。


片付けもやってくれるなんて思わなかった……。


圭介くんに料理を作った時も美味しいって言って食べてくれたけど、彼が洗い物をすることなんかなかった。


それよか、「料理得意なんだね。それなら、結婚したら莉乃に任せられるね」って言われて、その時は結婚のこと考えてくれてるんだって舞い上がってたなぁ……。


案外黒瀬って、結婚したらいい旦那さんになるのかも。

なんて考えながらくつろいでいると、黒瀬は洗い物を終わらせて、ハーブティーを入れてくれた。


「ん」

「あ、ありがとう……なんかここまでしてもらうと逆に気が引けます」


「なに言ってんだよ。お前の方が大変だろ。仕事終わりでそのまま作ってもらってるんだから」

「黒瀬もそんなことが言えるようになったなんて成長したね」


「お前の高校の頃の俺ってどんな印象だよ」


「最低な俺様命令男」


「最悪じゃねぇか……」


「むしろ最悪じゃないと思ってる?」


私はそう返すと、黒瀬ははぁと深くため息をついた。


「……悪かったと思ってるよ。昔のこと……あの時は俺も若かったから……」

「若かったで済ませないでもらえます?」


ふんっ。

絶対に許さないんだから。


私がそっぽを向くと、彼は困ったように頭をかいた。


「俺だって……お前のこと、イジメたかったわけじゃない」


小さな声でそんなことを言う黒瀬。


「なにを言ってるの。あんたが私をパシリにするってみんなの前で言ったんじゃない」


こんなことになるならあの日。

傘なんか貸すんじゃなかった。


何度もそう思った。


「どうせ黒瀬は覚えてないだろうけど」


──パシン。

するとその時、黒瀬が私の手をとった。


その手は熱を覚えていて、心臓がドキンと跳ねる。


「な、なに……」

「全部覚えてる。あの時のこと、忘れたことなんかない」


まっすぐに私を見つめる黒瀬。

それはウソには見えなかった。


「ちょっ、放してよ!」


──ドキン、ドキン、ドキン。


私が動揺すると、黒瀬は我に返ったのか私の手をゆっくりと放した。


「……わり」


び、びっくりした……っ。


それから黒瀬はなにごともなくタクシーを呼び、外まで私を見送ってくれた。


なによ、あの時の表情……。

イジメた側はすぐに忘れるのよ。


覚えているのは私だけだ……。

絶対にそう。なのに……。


なんでこんなに胸がドキドキするんだろう。


「じゃあ、今日はありがとう」

「いや、俺の方こそありがとう」


黒瀬にお礼を言う。

でもその間も黒瀬の顔を見ることはできなかった。


私がタクシーに乗り込むのを確認すると、彼は唇を噛みしめながら言った。


「高梨」


名前を呼ばれ顔をあげると、切なげな表情をしている黒瀬がいる。


「俺は……あの時のこと、後悔してる。戻れるならもっと……違う方法でお前と……」


黒瀬がそこまで言った時、車は走り出してしまう。


戻れるなら、違う方法で私と……?

なに?


黒瀬はなにを言おうとしていたの?


窓から覗き込むけれど、もう黒瀬の表情は分からない。


黒瀬はどうしてあんな顔をしていたのだろう。


どうしてか、気になって仕方なかった。




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