現実の意味 Ⅲ
「風はきままと言うけれど、ちょっとばかり気分屋が過ぎるよね。段取りがメチャクチャだよ」
女性は、言いながら俺の拘束を解き、立ち上がる。すると、その場で踊り出すんじゃないかってくらいステップを踏みはじめた。とても無邪気に、純粋に。
「サラ………」
名前を呼んだが、それだけだ。それ以上は何も。何も言えなかった。その声は、顔は、姿は、紛れもなくあの子のものなのに。
違うんだ。同じでも。
同じなんだ。違っても。
訳が分からなかった。他人の空似では済まされない。姉妹?もしくは双子だろうか。けれど、そうした枠組みでさえも納得できない。そんな違和感がある。
心臓が激しく脈打つ。これでもない程に、胸が苦しい。呼吸も浅い。何か、見てはいけないものを見てしまったようで、酷く視界が揺らぐ。
「驚いたかな?その内バラすつもりだったから問題ないんだけど。もっとこう盛大にお披露目する予定だったから、ちょっと残念」
唄うように女性は語る。その姿がいつかの彼女と重なる。だからだろう。余計に鼓動が早まる。眼前に広がる事実を心が受け入れようとしない。
「それでも。これで充分だよね。君が今一番知りたいことを教えてあげる。僕自身がその証明になるはずだよ?僕のこと、そして君がサラと呼ぶ女の子のこと。知りたかったら、僕に着いてきて」
取り付く島もないままに、踵を返して、女性は歩きだす。
「着いてきなよ」
そう言ったきり、彼女はもう振り向かない。ここで何もしなければ、きっとこのまま去っていく。そう思わせる背中だった。それを見送ることに、彼女から離れてしまうことに、何か、何か、言葉では表せない、首筋を掻きむしりたくなる激情を感じた。
ここで、立ち止まれば、あの人には、もう会えない。そう確信した。
「っ……」
コロコロと姿を変える現実。酷く断片的で、その奥には何が待っているのか、知りたいと思わずにはいられない。
この人は一体誰なのか。サラと同じ顔……声だって似ている。
何故俺たちのことを、サラを知っているのか。俺がここにいることを知っていたようにこの人は現れた。
答えを知るには着いていくしかないと直感的に分かっている。
そして、それはとても重大で、取り返しのつかないことだと、理解している。
サラの正体。それは、彼女と出会ってからずっと知りたかったことの一つだ。それが判明する。どんなに怖くてもそれは知らなければいけないことだ。ユウナと対立して、自己矛盾を抱えてでも、あの子を守りたいと誓った責任がある。
行くしかない。
たとえ罠でも、何の収穫が得られなくても、可能性があるなら進むしかない。
そうやって言い聞かせるように決意を固める頃には、女性は既に近くの森に入ろうとしていた。
その背中を見失わないように、整いかけていた鼓動を高鳴らせ、再び走り出した。




