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ワタシは貴方とイキテイク  作者: 水瀬 葉月
Dark cloud hanging in the sky
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宇宙に想う Ⅵ

 敵は扇状に展開している。視認できる距離まで接近しているのに、あちらから仕掛けてくる気配がない。ただ一定の間隔を保ったアパレイユの連隊が移動しているだけ。そしてそれも、直に終わりが来る。今はお互いに陣形をとって、向かい合う形で静止していた。まるで的にでもなりに来たような油断に満ちた動き。そんな戦場に不釣り合いの行為が、また新たな疑問を呼ぶ。


 奴らは何を狙っている?ここまで隙を見せることに一体どんなメリットがあるっていうんだ?


 この戦いが始まって以来全員が共有している疑惑。確かに狙いがあることを感じているのに、それが何かが分からないまま、状況は進んでいく。


「大佐、こちらから仕掛けますか」


 あまりの不用心さに、ユウナがノーランに指示を仰ぐ。ユウナの腕ならもう射程圏内だ。先ほどの戦いがそうであったように、先手をとることは十分に可能だ。


「いや、奴らは何かを待っている。迂闊に動くのは危険だ」

「了解です」


 そこで通信が途絶え、また奇妙な睨み合いが再開する。


 ノーランの言うことは一理ある。だけど、そうやって事態を眺めているだけじゃあ、余計に敵の都合のいい展開が整ってしまうんじゃないか?


 ツーと汗が頬を流れる。漠然とした焦りや不安が緊張をさらに高めていた。何もしないままではいけない、そう思っても自分の力ではどうにもならないことも分かっている。……どうしたら?


 突然。


 敵が動いた。


 中央の一機。指揮機体と認識されたその機体は、その場で弧を描き両腕を左右に大きく広げた。


 その光景に思わず目を奪われた。


 それは空に輝く太陽のように背に朱光の環を放ち、燦然と佇んでいた。


「……と、じゃ、……のか……」


 それと同じくして、激しい頭痛とともに、ノイズのような音がコックピットを支配した。通信機の故障?いや、違う…今、回線チャンネルは全て開いているはず。こんな音が入ってきたら、間違いなく誰かが反応する。けれど、それがない。…というとは、これは、何だ?まさか頭に直接響いているのか?どうなってる……何を言ってるんだ……?所々、人の声らしきものが混じっているけれど、正確には聞き取れない。ノイズは大きくなったり小さくなったり、本物の波のように満ち引きを繰り返していた。くそっ。何なんだ。これじゃあ、戦いに集中できない…!


 けれど、俺の事情などお構いなしに、戦場は変化していく。残りの4機のアパレイユも一斉に行動を開始していた。


「イリア、一機そっちに向かってる!」


 ノイズに割って入るようにユウナの声が耳に届く。視界の端で動いていたアパレイユは瞬く間に急接近し、その姿を目の前に晒していた。その動きに従ってノイズの音はさらに激しさを増していた。そこではたと思い至った。まさか、これは敵の攻撃なのか。どんな兵器を使っているのかは分からないけれど、人の脳に直接干渉するなんて姑息な手を使いやがる……!


「こんなもんで!!」


 雑音を掻き消す勢いで叫び、頭部バルカンを発射する。微弱ながらも、装甲に傷をつけられたアパレイユは踊るように舞いながら距離を開けた。その後を追いかけるビームの雨もするりするりと掻い潜り、再び俺の元へと接近を試みていた。


「…………?」


 っ………どういうことだ……状況に納得できず、敵の意図を慮る。あちらだって遠距離の攻撃手段を持ち合わせているのに、どうして撃ってこない。こちとらこのよく分からない、ノイズのせいで、照準が狂いっぱなしだっていうのに。なぜ?今なら簡単に撃ち落とせるはず……それに一機だけで向かってきている理由は何だ?敢えて4人の方に残りをぶつけて、俺に一機で相対しているのは、どうして……?


「……!!……!?…………???」


 ぐっ………!ノイズの刺激がこれまでにないほど高まった。余りの鮮烈さに頭が割れたかと錯覚するほどの鋭さだった。不味い……このままじゃ。


 目前に迫ったアパレイユ。苦し紛れに放った最後のビームライフルは、虚空へと向けて発射され、もう操縦桿を握る力も無くなろうとしたその瞬間。


「やっと、繋がった。ハロー。イリア・アーデルト君」


 少し擦れた、けれど、どこか聞き馴染みのある、澄んだ声が頭に鳴り響いた。これは……女性の声?


 いつか浮かんだ仮説が、否定しようのない事実として実証される。やはり、アパレイユには人が乗っているのか……?


「だ、誰だ!?」

「まあまあ、落ち着きなよ。もう、人間の脳に干渉するのって滅茶苦茶めんどくさいんだよ?そこんとこ分かってる?」

「何を、言って…………」

 

 人間の脳に干渉……本当に、そんなことが出来るのか?普通に会話できているけれど、相手は本当にただの人間か?


「大分、お疲れだね。まあ、こっちも体力使うし、用件は手短にってやつだね。早速本題に入ろうか。君は僕が誰なのか、知っているはずだけど、今の君じゃあ、ちょっと思い出せないかな」


 知っている……?俺がお前を……?そんなこと…でも、この声……どこかで


「それはさておき、わざわざ、君にだけこうして言葉を届けているのは、君に興味があるからなんだ。イリア・アーデルト君。だから、君のことをちょっぴり試させてもらう、ね」


 女は玩具で遊ぶ子供のように、楽しげに呟いた。それがとても純粋な感情だったから、この場に不釣り合いなほど、尊いものように感じられた。純粋に…無邪気…に?いや、違う。これはそんなものじゃない。


「ふざ、けるな……!」


 本能的にその在り方を否定したけれど、その理由は分からなかった。彼女の正体も、目的も、何もかもが未知なのだ。どうしたってそんなこと分かりっこないんだけれど。


 彼女は、俺の疑念など、どこ吹く風と言った具合に、ただ自分の心のままに言葉を紡ぎ続ける。


「さあ、大切なもののために、君はどこまで抗えるかな?」


 その言葉をきっかけに他の4人と闘っていたアパレイユに変化が起きた。ユウナ、ブルーノ、ノーランに各一機ずつ向かい、残りの二機がサラの下へと迫る。


「きゃああーーー」

「何だ、どうなってる!?」

「こいつら……!」

「みんな!?……あぁっ!」


 それは、先ほどまでの、いや、今までのアパレイユとはどこか違った動きを見せた。こちら側の攻撃を全て把握しているかのように回避し、接近する。それはまるで、既に見たことがあると言いたげなほどに予定調和じみていた。


 4人が4人とも、必死の抵抗を試みる。それでも、射撃も斬撃も防御も回避も何もかもが見切られる。圧倒的な劣敗は免れないかに思える。しかし、戦場には爆発音どころか、金属音すら聞こえない。敵はこちらに危害を加えようとはしてこない。ただ、いつでも命を刈り取ることは出来るのだと、暗に宣告し続けるのみである。こちらから仕掛けることは不可能。全ての動きは意味をなさない。自由に動けるはずなのに、行動を封じられている。けれど、敵は目の前にいる。故に今は、目の前の敵にくぎ付けにされる他はない。


「まずは邪魔者を排除して、と」


 どうしようもない状況に誰もが歯噛みする中、女は愉快そうに呟いた。すると、またしてもアパレイユがその行動を変化させた。ユウナ、ブルーノ、ノーランは、後ろから機体を完全に掴まれ文字通り身動きが取れなくなってしまった。そうして、そのままこの宙域から遠ざかっていく。その状況はまるでチェスの如く、女はその全てを操るようにして、頭上から全てを見下ろしていた。


「じゃあ、返してもらうとしますか。愛しき我が妹を」


 盤上が大きく動き出す。ずっと俺の前を漂っていた女の機体がサラの下へと迫る。その加速はどこまでも過ぎ去り、遠く隔てられていたはずの距離を一瞬にして無に変えた。


「私は…………負けない!」


 三機に囲まれ、もはや敗北は必至だというのに、サラは毅然と声を上げた。突破口を見出そうとひたすら動き回り、目にも留まらぬ銃撃戦を繰り広げる。瞬きのように撃っては消えるビームの応酬。それが命のやり取りでなければ、純粋に美しいとさえ思える程の熱量。けれど、現実は確かにサラの機体を疲弊させ、この戦いの終わりを予感させる。


「ん?おかしいな、どうして……いいさ。小細工は止めだ。力ずくで奪ってしまえばそれでいい!」


 女は何か、想定外を感じ取ったとのか。女の声は僅かにくぐもったが、それも些細なことだろう、女の優位は揺るがない。言葉通り、力でこの場を蹂躙しているのは女の方なのだから。


 二機のアパレイユがサラに特攻する。寸でのところで回避するも、それが女の狙い。回避後の隙を突いて確実にビームライフルを直撃させる。推進部を破壊された。サラの機体はもう満足に動けない。最早完全に勝敗は決した。


 圧倒的な力の前に、俺たちは為すすべもなく敗北したんだ。


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