宇宙に想う Ⅳ
指定ポイントへ近付くにつれ、視界が徐々に明るく、開かれていく。地球は自ら輝いているわけではないけれど、太陽の光を反射して青く、その存在を主張していた。そういえば、自分の目で地球を見るのは初めてだと、まだ、小さな円に過ぎない地球を遠くに感じながら、ぼんやりとそんなことを考えた。
地球を見ることがはじめてなら、当然、地球に降り立ったこともないわけで、このまま何事もなく戦闘が終われば、本物の大地に立てるのかと今更ながら感動を覚えてきた。
正直、暗闇の中を走行していたときは不安で仕方がなかったけれど、小さくても、確かに到達点が確認できて、内心ホッとしている。この先のことを考えていられるのもそのおかげだ。
ここまでの移動中に敵機の反応はなかった。となれば、誰かが落とされてしまった可能性は低いはず。目的地に既に誰かが着いていたとしたら、あと少しで通信範囲に入る。そうすれば、僅かに残った不安も完全に消えてくれる。
「こちら、エアハルト少佐です。聞こえますか」
「ああ、大丈夫。聞こえてるよ」
望みに応えてくれたように、通信が繋がる。ユウナだ。その声に安心してつい緩んだ口調で話してしまう。すると、それを咎めて、咳ばらいを一つ入れられた。
「気を抜いてるんじゃないですか」
「抜いて……ました。少し。安心してしまったので……」
「気持ちは分かりますけど、まだ作戦中です。船に戻るまでは油断できませんよ」
「すみません……」
「いえ。まあ、無事なら良いんです。じきに、目視でもお互いを確認できるようになるはずです。こちらにはもう二人も来ていますので、あとは船の到着を待つだけです」
了解です。と返したところで通信は終了した。そうか。全員無事なんだ。良かった。本当に良かった。出撃前はこんな結果になるなんて思いもしなかったけど、とにかく難は逃れたんだ。
「こちらノーランだ。全員に聞こえてるな。イリアはこっちに向かったまま、話に参加してくれ」
「はい」
「さて、どうやら全員しっかり無事みたいだが、ちょっとなぁ」
「そうですね。流石にこの状況は不自然です」
「何か意図があるんでしょうけど、現段階では分かりませんね」
ノーランのぼやきにブルーノ、ユウナが追随する。三人の間で、既に情報共有がなされているのだろう。話は若干、俺を置き去り気味に進行していくが、大体の推測は出来ている。それにもう、カメラの映像が三機の影を捉えている。それだけで、十分な情報量だ。
三機とも、機体に傷一つない。
アパレイユ十機に攻め込まれて、ほとんど無傷なんて、とても現実離れしている。でも、実際にそうなのだから、それをどう受け入れていいのか、少し迷ってしまう。
ユウナの声を聞けて、全員が無事だと分かって、ようやく、胸の奥の冷えが収まったと思ったのに、その事実が逆にやはり一抹の不安を感じさせる。上手くいきすぎていると。
「誘導したつもりが逆に誘導されちまったのかね」
「どうでしょう。それにしては手を抜きすぎな気もしますが」
「まあ、そうだよな」
全員で考えを巡らせても、それらしい答えは出なかった。であれば、こちらに確実な対処法はない。出来ることは、臨機応変に、周りの状況に備えることだけだ。
「次に敵がどう動くか分からない。各自、警戒を厳に、母艦の到着を待つぞ」
ノーランの指示と共に、それぞれが死角となる位置に移動する。これならばどの方向から攻撃が来ても応戦できる。
蒼く光る地球を背に、ただ遠く、吸い込まれそうな虚空を見つめる。敵の存在を見逃さぬように、敵の存在など探知されぬように祈りながら。




