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ワタシは貴方とイキテイク  作者: 水瀬 葉月
Dark cloud hanging in the sky
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宇宙に想う Ⅱ

 薄暗い部屋の中に、5人のパイロットが集結した。周辺の位置関係を示すホログラムを囲むようにして、並び立つ。


「揃ったな」


 全員の集合を確認し、ノーランが口を開く。決して物々しい様子ではなかったが、いつもとは違う堅さがあった。それだけで、事態がどんな様相を呈しているのが推察された。


「状況を説明する。先ほど、船のレーダーがアパレイユの進行を捉えた。数は10」

「10って……」

「ちょっと多いな。今まで見たことない」


 驚きを隠しきれない俺に言葉を返しながら、ノーランは眼前のパネルを操作する。投影されたホログラムが、検知された敵の姿を拡大し、視覚的に現状を伝えてくれる。


 その動きは直線的で、アパレイユはこちらに攻撃する意思はないように思われた。船とほぼ同じ方向に向かって進行しているのだ。こちらから仕掛けなければ、恐らくは戦わずに済む。索敵に引っ掛かっても、すぐに出撃準備をせずに作戦室に集められていることからも、指令側もそういう認識なのだろう。ただ、同じ方向に進んでいるということは……


「アパレイユは地球に向かっているんですか」


 俺が考えを発する前にブルーノが質問を投げかける。全員が同じ疑問に行き当たったのだろう。それ以上は何も言わず、ノーランの返答を待った。


「恐らくな。だが、周期から大きく外れている。ただ、この近くを移動していただけという可能性も捨てきれんが……」

「前回の侵攻は私たちが補給でテールに立ち寄っていた時…だから、まだ一週間も経ってませんよね?その前は私たちが地球を出る直前だから、4週間前……流石にスパンが短すぎますね」

「加えてこの数だ。もし地球に向かっているとしたら、準備もそこそこの本部に突っ込まれて、最悪壊滅だ。先ほど、本部と連絡を取ったところ、急ピッチで準備を整えるにしても、時間が足りない。ならば、どうするか……外側にいる俺たちが出るしかないという訳だ」


 そう言って、ノーランは再びパネルを操作し始めた。5通りのシミュレーションパターンが表示され、その一つ一つの状況に対応策が打ち出される。


「一番めんどくさいのがこのパターンだな。出来れば避けたいところだ」


 ノーランは心底嫌だという風に顔をしかめながら、説明をはじめる。確かに、聞くだけで正直遠慮したいと思うくらいには面倒、というか困難な内容だった。生きて帰れるのか不安になる程度には、越えがたい障害だ。気を引き締めなければ。


「以上だ。では各自サージに乗り込め」


 作戦は告げられ、後は状況の推移に身を任せるのみとなった。全員が足早に格納庫へと向かう中、俺は独り、胸中で自問する。


 このままでいいのだろうか。


 先行する3人の背中に、彼らの強さを思い知る。ユウナ、ノーラン、ブルーノ。誰しもが日常を過ごす雰囲気とは違う、一種の覚悟をその身に宿していた。


 けれど、隣を行く彼女は、サラはどうだろうか。チラリと横目で見やった彼女の瞳はいつもと変わらない。俺がそう思いたいがためにそう見えてしまっているのか、それとも、いつも通り感情の機微が分かりづらいだけなのか、判別はつかない。どうあれ、場違いな印象を受けるのだけは確かだ。


 サラが軍に入ってから、初めての戦闘。だからこそ感じてしまった。戦いに赴くために集められて漸く、まだサラが軍人になることを受け入れきれていないんだってことを実感する。この中の誰よりも力を持っているサラ。そんな彼女を、一番経験が浅い俺が心配するのはおかしな話ではあるのだが、それはまた別の話だ。


 彼女の場合、能力も適正も戦闘に関しては十分で……反対するところなんてどこにもないのかもしれない。でも、出来るから、向いているから、だからそれが本当に幸せだって言いきることは出来ないと思う。


 戦うことが怖いと震えていたサラ。それ以上に、俺が傷つくのは怖いと言ってくれたサラ。


 彼女が戦う原因は、俺にある。なら、きっとこれが最後のチャンスだ。彼女の意志をもう一度だけ聞いておきたかった。戦いを望まない人間を一人でも戦場から遠ざけることが出来るかもしれないのだから。


「サラ」


 格納庫に辿り着き、各々の機体へと散らばっていく。その最中、俺は彼女を呼び止める。不意に声を掛けられたにも関わらず、サラは落ち着き払った様子で振り返った。


 その姿を目の当たりにして、彼女はとっくに覚悟を決めていたのだと理解する。感情に支配されるままに戦場を暴れた前回とは違う。その一動作が彼女に抱いていた不安は俺の独りよがりだと咎めるように感じられる。


 ただ怖いから戦う。それ以上の何かをサラは手にしているのかもしれない。


 なら、それは立派な、誰に止める権利もない、正当な行為なのではないか?戦ってほしくないと願う気持ちは俺の我がままに過ぎないのではないか?


 逡巡する思考は、いつまでもまとまってはくれず、俺は言葉を紡げないでいた。


「イリア?」

「…………」


 彼女が自らの意志で戦いに赴くのなら、もはや俺に語るべきことなどない。ユウナに引き留められても、聞く耳を持たなかった俺だ。戦いを通して、そして俺たちとの時間を通して、サラにだって思うところがあったのかもしれない。


 だったら俺も覚悟を決めないと。一緒にいるって約束したんだから。


「あのさ」


 伝えるべきことは沢山あって、聞きたいことも山ほどあった。本当はこうなる前にちゃんと話し合っておくべきだったんだろう。ズルズルと先延ばしにして、言いたいことも言えない状況になってはじめて、言葉にしなければいけないと思うなんて、いかにも俺らしい。


 だから、ごく単純な、使い回された質問を投げかける。


「戦うのは、怖いか?」

「……怖い、よ?」


 答えが分かり切った問いに対して、予想通りの回答を手に入れる。こんなものを聞いたところで意味はない。これでは文字通りのただの確認作業だ。新しい言葉を選んだわけでも、異なる問い方をしたのでもない。同じように、反芻するだけの、問答。けれど、それ以上時間を消費すること許されない。あとは自分に対して誓うだけだ。


「なら、サラは俺が守るよ。何があっても」


 この言葉も結局は自己満足の我がままだ。もし君がいつか、戦いたくないと心から願った時、君を守れる程の強さを手に出来るように。約束するよ。 

 

「私も、守る」


 そう言って、彼女は微笑んだ。儚げに、けれど、鮮明な。心に残る笑顔だった。


 もう、言えることはない。後はこの戦いが終わってからだ。


 この戦いに勝って、サラを守る。そうすればきっと少しは明るくなった未来が待っていると信じて。

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