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ワタシは貴方とイキテイク  作者: 水瀬 葉月
Dark cloud hanging in the sky
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宇宙に想う Ⅰ

 地球到着まであと十数時間。昨晩は、荷下ろしの準備やらミシェルとの昔話やら、個人的なお仕事やら、ユウナに言い渡された膨大な課題やらをこなしたおかげであまり眠れていない。眠りたくなかったというのも相まって、実質的な睡眠時間は4時間くらいだろう。眠い。


 あれだけの話を聞いて、何も考えずに明日を迎えられるほど無神経ではない。今までの言動を顧みたり、これからどうやって接していこうかと考えたり、ユウナのことにばかり想いを馳せていた。

 

 それだけだと、不味いとも思い、悩んでは手を動かし、また悩んでは手を動かし…と繰り返すうちに、作業がかなり捗ってしまったのだ。軍の規律からしてみれば、課題を先に片づけた方がいいのだろうけど、俺の本来の役割というか、性というか、とにかく、俺の頭脳もきっと人類全体の役に立つ。はず。という思いで、パクスを出た後からもコツコツと続けていた俺の前職――機体の開発、それがもう最終調整の段階にきているのだ。


 出発当初はそんな呑気な心づもりだったのだが、アパレイユの設計図を手に入れてからはその意味が大きく変わった。きっと、何も知らない人が見たら、俺のことを天才だと言うのだろう。だが、その賛辞は別の、まさに人類が相対している敵に向けられるものなのだ。地球にデータを送る度に、色々と言われたが、正直後ろめたさで押しつぶされそうだった。設計図の出どころを明かせない以上、俺が天才の振りをするしかないのだが……どうにも柄じゃない。絶対変人になってる。


 そもそも、本部にこのデータを送ることすら、俺には少なからず抵抗があった。軍に対してある種の疑念を感じている以上、万が一、アパレイユとの繋がりを察知されれば、どんな風に扱われるか分からなかった。アパレイユの情報をどこか抑え込もうとしているのではないかとさえ捉えられる動きが軍にはある。その理由は未だに判然としていない


 そうは言うものの、本部の力がなければ新型の設計図だってただの図面になってしまう。地球本部にいるエンジニアの報告によれば、完成は間近に迫っているとのことで、滞りなく製作は進んでいるようだ。順調なことに少しばかり心が浮足立つのを感じつつそろそろ課題の方にも手を付けなければ……と思っていたところなのだが。


「もうすぐ地球ね」

「そうだな」

「今回の航行はいつもよりも長く感じたわ。色々ありすぎた」

「そうだな」

「あ、一応言っておくけど、向こうについても教育係っていうのは変わらないからね。残ってるやつちゃんとやりなさいよ」

「そうだな」


 今日は何故かユウナさんが、用事もなしにお部屋に滞在しているのだ。それもひっきりなしに話しかけてくる。しかも内容があるようでないような、かといって無下にしづらいそんなお話。はじめの内はちゃんと会話をしていたのだが、次第に片手間モードに移行し、今となっては相槌マシーンへと進化を遂げていた。因みに例によってサラは寝ている。


 しかし、相手が心を失った機械だと気付いたのか、ユウナは少しムッとするようにしてぼやいた。


「ねえ、さっきから返しが適当過ぎない?」

「俺は今まさに、その残ってるやつをやっているんですけど、見て分からないんですか??」


 流石に、ちょっかいを出され続けては作業も進まない。やれと言った張本人なのだからとこちらも抗議の意を顕わにする。


 ユウナはそれでも、当たり前と言わんばかりに反論した。


「そんなの分かってるわよ。逆に私は、なんでそんなに残っているのかが聞きたいわね。明らかに渡したスケジュール無視してるでしょ」

「色々あるんだよ、こっちにも」


 客観的に見て、向こうが正しいので、適当に煙に巻いて誤魔化そうとする。ユウナになら言っても構わないんだけど、技術的なことだし、万が一にも失敗とかになったら、その…恥ずかしいじゃない?自信満々に大見得切って、大惨事とかだと立つ瀬がないっていうか。


 ユウナは、事情を察して引いてくれると思っていたのだが。


「何それ」

「その内分かる」

「なーに勿体ぶってんのよ。教えなさいよ」


 どうにも今日のユウナさんはしつこいんです。


「あーーもう。何だって今日に限ってお前はそんなに突っかかってくるんだよ」


 昨日、おもーーーい過去を聞いたのもあるから、割と強めに感傷的になってたんですけどね。いや、それはこっちの事情だからさ、ユウナには関係ないんだけどさ。こう…あるじゃん。今日はテンション低めなんだな、みたいなの。ちょっとそっとしておいた方が良さそう、みたいな。そういうオーラ、ビンビンに出してたつもりなんだけどね!


 と、行き場のない不満を爆発させていると、ユウナの口から信じられない言葉が発せられた。


「だって……暇なんだもん」


 恥ずかしそうにそっぽを向いて、指先をくるくるさせながら呟くユウナはとても幼く見えた。さながら遊んでくれなくて拗ねてしまった幼児のように……。


 何だよ……可愛いとか思っちゃったじゃんか……


 こんなしょうもないやり取りが出来るなんて、平和だなと思った矢先に。


「……来る」


 いつの間にか起きていたサラがそう独り言つ。何度目かのその宣告は次に来る展開を予想させるには十分だった。


「怖いのが、来る」

「それって」


――各員に通達します。第二種戦闘態勢に移ってください。第二種戦闘態勢に移ってください。また、パイロットの方は至急、作戦室へ集合してください。繰り返します……


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