一時の安らぎ
声が聞こえる。
―――!
声が聞こえる。
―――!
誰の声だろう。分からない。酷く懐かしくて、暖かくて、だけど、どうしようもないほど遠くて、霞んで、朧に消えていく。
―――ない―!
微睡みの中にいる。柔らかい羽根に包まれているかのようだ。とても気持ちが良い。このまま欲望に委せて、溺れてしまいたい。ずっとこのまま、この気持ちのまま、いたい。
わ―れ―――!
彼方から去来する声は、次第に輪郭を帯びてくる。それでもまだ、何を言っているかは分からない。それでも、何故か、胸が痛い。とても、何故だろう、とても、大切な人の声のような気がする。助けを求めているのか、それとも、俺を助けようとしているのか、必死に、声を荒げている。
それを、耳障りだと感じたのだ。
体も心も安らぎの中にいるというのに。どうして、この声だけがこの安穏を邪魔しようとするのか。
声は次第に、切迫したものに変わっていった。ただの叫びから、それは半ば絶叫に近かった。
とても、耳障りだ。
この声は、どうして俺を苦しめようとするのか。お前がいなければ、俺は幸せを感じられていたのに。
辛いのは嫌だ。
苦しいのは嫌だ。
寂しいのは嫌だ。
悲しいのは嫌だ。
怖いのは嫌だ。
だから、幸せでいたい。このままでいたい。
誰だってそうだから。俺も、その通りだから。
―――!
邪魔をしないで。
これでいい。これがいい。
だから、何もいらない。特別なことは、何も。
―!
求めてしまえば、覚めてしまう。
現実は非情だから。非情だという事実が幸せとの差異を見せつける。幸せを当たり前に貪る日常がどれだけ幸せなのかを突き付けてくる。そして、求めるということはそういうことだ。求めるのだから、つまり、それを持っていないということ。持っていないから自分のモノにしようと手を伸ばす。当たり前を手にしたい。当たり前だと思っていたい。幸せを。求めるほどに、自分には持ち得ないものだと、追い詰められる。
どうすれば幸せになれる。
何を以て幸せとする。
分からない。分からない。
思い通りにいかないことばかりだ。
幸せになりたいと願う人が全ていなくなればいいのに。
そう思うほどに、今の自分の心はぐちゃぐちゃだ。
夢なのだから、支離滅裂なのは、当たり前と言えば当たり前で。
夢なのだから、これが本当に自分の感情なのかと疑うのも当たり前で。
覚めてしまうのも、ひどく、当たり前のことだ。
「ーーー」
ああ、また声が聞こえる。
「ーーー」
目覚めたくないと思うのはどうしてだろう。現実を辛いと思っているからだろうか。なら、現実が辛いと思うのは、何故だろう。俺は。
「起きろ!!バカイリア!!!」
瞬間、世界がひっくり返った。
「ぐっ!」
ベッドから無理矢理引きずり降ろされて、床に仰向けになっている。そんなに高さがあるわけではないけれど、無意識に落下すると変な場所を痛めるものだ。……脇腹がいたい。
「痛……何するんだよ!」
あまりに理不尽な仕打ちに、堪らず事の張本人を睨む。ユウナは、ふんぞり返って、俺のことを見下ろしている。いや、より正確に言うなら見下している。
「何するんだよ!じゃないわよ!何してんのよ!あんたは!!」
言葉尻が上がっていたり、眉根が寄っている辺り、怒っているのだと思うが、目線は冷ややかで、お前が悪いと訴えているようだ。
「何って………あ」
何もしてないだろうと思って、部屋を見渡すと、俺のベッドに眠るサラの姿が目に留まった。そしてそのベッドはさっき俺が引きずり落とされた場所である。
つまり、あれか。見られたということですか。
ユウナの方に視線を戻すと、先程までとはうって変わって、満面の笑みを浮かべている。ただちょっと握りこぶしを掲げている辺り、全く穏やかではないのだけども
"弁明があるなら今のうちにどうぞ"
そんな声無き声が聞こえてくるようだ。
「いや、待て、話せば分かる。これには深いわけが!」
「無いんでしょ!!」
「ぐぅ……!!」
何も言えぬまま、渾身の左ストレートを喰らった……右だったら危なかったかもしれない。
「聞く気ゼロだろ…お前」
「はあ……朝からこんな運動したくなかったな…」
じゃあ、やらなきゃいいのに……殴られる度、こんなことを思ってる気がする。
「それより、まだ、治りきってないんだろ、怪我。いいのかよ」
「別に、変態を成敗するくらいは余裕よ」
「そうかよ…」
「ぶっちゃけた話、日常生活に支障はないわ。まだサージには乗れないけどね。でも、今日でもう包帯は取れるってわけ。後で医務室に行くわ」
「そっか……良かったな」
「ええ、包帯姿で町を出歩くなんて嫌だからね」
「そうだな。それで何しにきたんだ?」
「その子を呼びに来たんだけど、まだ寝てるか」
その子というのは勿論、サラのことだけど、その呼び方に引っ掛かりを覚えてしまうのは、多分、先入観なんだろうな。
「起きたら、私の部屋に来るよう伝えて。………ああ、それと着いたわよ」
そう俺に一瞥して、ユウナは俺の部屋を出ていった。
嵐のように去っていったな……ユウナのいなくなったこの部屋がどことなく寂しく感じられる。
「ふぅ」
息をついて落ち着く。すると不意に心の奥がざわついた。思い出したというものとは違う。こべりついた感情が浮かび上がる。これは、何だ。
何かとても嫌なものを見ていた気がするけれど、今のワンシーンで全て忘れてしまった。ただ、漠然と、夢を見ていたという感覚だけが残る。忘れてはいけない、とても大切なのものだったのに。不思議とそんな想いが沸き起こる。
「っ……」
思考を振り払う。このまま考え続けると泥沼にはまってしまいそうだった。考え込んでしまうのは俺の悪い癖だ。
「サラ……起きろ、サラ」
気持ちを切り替える。起きる気配のないサラに声をかける。
「…ん」
が、反応が薄い。どうやらぐっすりのご様子。自然に起きるのにはまだまだ時間が掛かりそうだ。時刻は8:00。そんなに急ぐ必要もないと思うけどユウナを待たせるのも、あまり宜しくない。
「取り敢えず…」
自分の支度を整えておこう。あんまりにもサラが気持ち良さそうに寝ているものだから、無理に起こすのも気が引ける。サラを起こすのは準備ができた後でもいいだろう。
「さて、と」
準備をするとは言ったものの、何を準備すればよいのか。別段、持っていかなければいけないものとかもないだろうし。まあ、お金があれば何とかなるか。あとは、流石に軍服は不味いだろうから、着替えるとして、そんくらいか。よし、じゃあ着替えるか。あんまり服持ってきてないんだよな。何を着たものか。じゃあ家に服が一杯あるのかと聞かれればそんなこともないんだけど。一応、一番のお気に入りは持ってきている。カジュアルなジャケットとシャツの組み合わせだ。悩むのも面倒くさいし、これでいいか。
着替えようと思ったけれど、サラが寝ている目の前で着替えるのは変態にも程がある気がしたので、寝室を出て風呂と寝室の間の通路で着替えることにした。
「そうだ、イリア、言い忘れてたんだけど、この、あ、、と」
通路と言うからには当然部屋の外に通じる扉も目の前にあるわけで。確かにそんなところで着替えている俺が悪いと言われればそうなんだけど。人の部屋に勝手に入ってこないでくれますかね!!
パンツ一丁の俺とユウナが向かい合う。ユウナは次第に言語ならざる音を発し始めた。
「な、な、ななな」
ああ、もう……嫌だな。
「変態!!」
いや、もう、ごめんて。
ユウナはそのまま扉を閉めて走り去ってしまった。着替え見たくらいでそんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないか。
「……イリア?」
そう思って、振り返ったところ、寝ぼけ眼をこすったサラがいた。
………またすごい誤解をされた気がする。
「サラ、いつから、そこに?」
「ユウナが来る、少し前」
ダメだこりゃ。
………。
……。
…。
着替えを済まして、サラをユウナの元に連れていく。ユウナはずっとツンツンしていたが、とりあえず放っておくことにした。
準備が終わるまで、小一時間掛かると言われたので適当にラウンジで寛ぐことにした。
誰もいないだろうと思って、入ったものだから、予想外の人物の存在に驚いてしまった。じっと目が合う。無言でただただ見つめ合う。
「……」
「……」
ブルーノがいた。この人も出掛けるのだろう。黒いシャツがいつもと違う男らしさを引き出していた。ってどうしてこんなに凝視しているんだ…?ハッとなってようやく目線を逸らす。そして、ブルーノが座っている場所とは遠すぎず近すぎない位置に座った。
「……」
「……」
微妙な空気だ。こう。プライベートで話をしたことがないから、何を話していいのか、何を考えているのか、全然分からない。
「……」
「……お前は」
「え」
話しかけるべきか、否か。悩んでいる内に相手の方から声が掛けられた。顔をそちらに向けると、どうやら相手も相手で、何を話していいのか分かっていないようだった。
「お前も出掛けるのか」
「ええ。まあ。折角ですし」
「そうか」
再び沈黙。話を振ってもらったのに、どうにも上手く返せない。ブルーノにはいつも怒られてばかりのような気がするから、話しかけられるとつい、身構えてしまう。
「少佐は何処に行かれるのですか」
けれど、そうも言っていられない。あまり無愛想にしては失礼だ。何とか話を続けようと、こちらからも話題をふってみる。
「……」
すると、ブルーノは怒っているのか、困っているのかよく分からない顔で此方を見てきた。そんなにも変な話だっただろうか。
「前から思っていたが、その少佐という呼び方はどうなんだ?」
「どう、というのは?」
「少佐は他にもいる。だからそれだと区別が出来ないだろう」
「それは、そうですね」
「ユウナも、少佐だが、お前はあいつのことを少佐とは呼ばないだろう」
「え、それは」
「まあ、お前とユウナは別の繋がりがありそうだがな」
思わぬ図星を突かれて、どぎまぎする。やはり、端から見ても分かるものなのだろうか。
「………どうして、そう思うのですか」
「どうしても何も、ユウナの態度がお前と他だと全然違うんだ。それこそ、人が違うほどな」
あながち、間違ってませんよ。という事実はぐっと堪えて飲み込んだ。
「ユウナのことは、別に良いんだが。そうだな。今の方がよっぽどましだな」
「?」
「お前は今何歳だ?」
「18です」
「ユウナも18だ」
「……それが何か?」
「年にしては、肝が据わりすぎているんだ。あいつは」
「それは、別に悪いことではないのでは」
「人を殺す兵器を何の躊躇いもなく使えることが、良いことだと思うか」
「それは…」
「入軍当初はそんなことなかったと聞いているがな。普通のどこにでもいる女の子で、ただ、負けん気だけは人一倍強かったそうだ。だが……」
と、考えるようにして、ブルーノは言いよどんだ。そして、「何でもない」と一言添えて、話を続けた。
「軍人になれば誰もが次第に慣れる感情がある。良く言えば覚悟、悪く言えば狂気だ。敵は倒さなければならない。当たり前のように感じるかもしれないが、それは何度も何度も実戦を経験してはじめて身につく、いや、身についてしまうものだ。心が麻痺していくか、引き金を引く指と心を切り離す術を覚えるか、そのどちらかだ。……お前はどうなんだろうな」
そう言って、彼は問いかけるようにこちらを見やる。突然、振られたので、愛想笑いを浮かべることしか出来なかった。慣れてしまう感情……か。一つ確かなのは、恐らく俺はそのどちらでもないということだけだ。俺はあの時、敵の存在を疑うことなんてしなかったのだから。
その沈黙を答えと見做したのか、俺に返事を期待していた訳ではなかったのか、特に追及するでもなく、再び話題はユウナへと移っていった。
「あいつの覚悟は生半可なものじゃない。平和を脅かすモノは倒すべき悪だと、そう断じて戦っている。それを機械のようだと言った奴もいる。冷酷だと恐れた者もいる。それでも、自分を律し続けたあいつは誰よりも強くなった。18で部隊長をやっているのがその証拠だ」
俺の知らないユウナが語られる。ユウナの苛烈な信念は今に始まったことではないのか。ずっとずっと前からそうしてきて、それを胸に、ユウナは戦ってきたのか。でも、どうしてそんな風に考えるようになったのか。それを俺は知らないし、きっとブルーノも知らないだろう。
「ユウナ……少佐はそんな人じゃないです」
「分かっている奴も勿論いたさ。あいつの部隊の人間は全員あいつを慕ってる。それに、冷静に指揮するあいつに惚れる奴もいたそうだ」
惚れ……ということは色恋沙汰??あのユウナにそんな浮いた話があるとは。これは話が少し面白い方向に傾き始めた気がする。
「そんなだから、周りから氷の姫と呼ばれるようになったりと、色々話はあるんだが」
ポロっと溢した今の話に凄く興味を引かれたが、話の腰を折るわけにはいかない。黙ってブルーノの話に耳を傾けた。
「話が逸れたな。とにかくだ。昔のあいつはそうだったが。今は違うと俺は思ってる。その原因がお前だともな」
「そんなことは」
真っ直ぐ告げられた言葉を受けとることができず、俺は顔を伏せた。変わったんじゃない。違うわけでもない。ユウナはいつだてユウナだったはずだ。それを知っている人がいなかっただけで、あいつは今も昔もきっと、同じ、はずなんだ。
「……あいつは自分を犠牲にしてまで、人を庇うような奴じゃなかったんだよ」
「え」
呟かれた一言は、俯いていた俺には届かなかった。どこか満足げなその横顔を、ただ見つめるだけだった。
「お前が違うと思いたいなら、そうすればいい。俺には関係のないことだ」
そう言ってブルーノは立ち上がり、ラウンジを出ていこうとする。その背中に向かって、知らず、声を発していた。
「出掛けるのですか」
「時間だからな。遅れるとうるさいんだ」
「誰かと一緒に行くんですか」
「ああ」
今度こそ、出ていこうとしたブルーノは、何かを思い出したように俺の前へと戻ってきた。そうして、手を差し出し、告げた。
「俺はブルーノ・ビスコッティだ」
それは、以前、終えなかった挨拶の続きだ。
「俺、いえ、私はイリア・アーデルトです」
立ち上がり手を握る。確かな感触に嬉しくなる。
「別に俺で良い。さっきユウナのことを言ったがお前も大して変わらん。精々、気を付けることだ」
「は、はい…?ありがとうございます……」
俺も?言わんとしてることの意味を受け取りきれず、浮いた返事になってしまった。どういうことか聞きたかったがブルーノのはすでにラウンジの出入り口の前まで進んでいた。
「あ、あの、ブルーノ……さん??」
呼び止めようとしたが、そこでさっき指摘されたことを思い出した。あそこまで言われたら少佐と呼ぶわけにもいかない。けれど何と呼ぶのが適切なのかも分からず、口をついて出た名前は変なイントネーションになってしまった。
「ふっ……何とでも呼べばいい。折角の休暇だが、あまり羽目を外しすぎるなよ」
「は、はい」
俺の呼びかけに応じる訳ではなく、ブルーノは背中越しに声をかけた。そして歩みをそのままにして外へと出てしまった。
「何かよく分かんない会話だったな……」
気になることは幾つかあるが、彼と話すのはこれが最後というわけではないだろう。寧ろ、これからはもう少し、気軽に話せるようになるかもしれない。そんな淡い期待を胸に、俺もラウンジを後にした。
………。
……。
…。
「おーい。もういいか?」
一時間経つか経たないかくらいの頃合いでユウナの部屋に戻ってきた。流石に待つのも飽きてきた。
「もうちょっとー」
「…はいよ」
中から元気な声が飛んでくる。もうちょっとと言ってとんでもなく待たされたりしないか、少し心配になる。
壁にもたれ掛かり、準備が終わるのを待つ。急いでいる訳でもないから、いくら時間がかかっても良いと言えば良いのだけど
―――――シュン
考えている間に扉が開かれる。ホントにあとちょっとだったのか。
「準備終わった、、、の、か」
扉の奥にいる人物が視界に入った瞬間、言葉を失った。雷に撃たれたような衝撃とはまさにこのことなのかもしれない。
「?」
俺が固まっている理由が分からず、目の前の女性は首を傾げている。
「念のため、確認するけど、ユウナだよな?」
「何よ、その確認。どこからどう見てもそうでしょう」
「いや、そうなんだけど、その」
こうも印象が変わるものなのかと。驚いてしまっただけで。
「まあ、いいけど……えっと、どう?」
どう、と聞かれると返事に困る。改めてユウナの姿を見直す。普段まとめている髪は下ろされ、大人っぽさを感じさせる。 化粧もケバさは全くなく、色気さえも思わせる。落ち着いたベージュのカーディガンにワインレッドのスカートの組み合わせはいつかの病室で見たものと同じだった。
「その………綺麗だと、思う」
「ホント?」
「……本当だよ」
「イリア、照れすぎ。真っ赤じゃん」
「人が誉めてるんだから素直に受け取れよ!」
「ふふ、ありがと」
悪戯めかして笑うユウナ。着飾っても中身はユウナということだ。それに安心した自分に気付いた。さっきの話もあるだろうけど、いつもと違うユウナを見て、俺は寂しいと感じたのかもしれない。
「それで、サラは?」
「いるわよ。奥に引っ込んでる」
ユウナに導かれて部屋の中に入る。以前入った時と同様、ほのかに甘い香りがする。
「サラちゃん、イリア来たわよ」
「あ」
俺の存在に気付いて、もじもじとしながら此方に向き直る。顔が俯きがちなせいでよく見えない。けれど、この反応は始めて見るものだったし、着ている服は白の控え目なワンピースだけど、やっぱり似合っていた。
「似合ってるじゃないか」
そういうと、サラはようやく俺のことをちゃんと見てくれた。白い肌に添えられた一輪の薔薇。頬に挿すのは薄紅。深紅の瞳が相まって、否応にもサラに目が引き寄せられる。
「ほら、もっと褒める」
横から茶々を入れてくるユウナ。
「そんなこと言うと褒めづらいだろ」
「そう?」
「まあいいけど」
「……変?」
サラが心配そうに俺のことを覗きこんでくる。瞳の揺らぎが、その胸中を表しているようだった。
「そんなことない。凄く可愛いと思う」
ユウナのときとは違って、容易く感想を言えた。どちらも別に意識している訳ではないはずだけど。
「………」
サラはまた俯いてしまった。けれど、その表情からは嬉しさを読み取れた。それだけで、俺も何だか嬉しかった。
「はい。じゃあ準備も終わったことだし、出掛けましょうか」
普通に考えるとユウナとサラと三人で出掛けるのだが。ここは一つ、からかってやろう。
「そうだな。サラ行こうか。水族館だよな?」
「うん」
そうして二人で部屋を出ていこうとして
「ちょっと待ちなさいよ!」
ユウナに止められた。
「何だよ?」
「何だよ?じゃないわよ。何で私を置いてくのよ」
「お前と一緒に行く約束はしてなかっただろ」
「え………た、確かに。そうだけど!……私、一人で行くの?」
「それは、そうなるんじゃないか」
わざと素っ気なく言ってみる。さて、どうでるか。
「………イリアが露出狂だって言いふらすから」
「何でそうなるんだよ!」
「うるさい!変態!」
「ああもう、分かったから。悪かったよ。一緒に行こうぜ」
「………」
「拗ねんなよ」
「拗ねてない」
「そういうのを拗ねてるって言うんだよ」
「だから拗ねてない!」
「ケンカ、ダメ」
「うっ………イリアの馬鹿」
「はいはい。もう馬鹿でいいよ」
しばらくユウナはこんな調子だったけど、すぐいつも通りになった。
そうして、馬鹿みたいな会話をしながら三人で街へと降り立った。




