純白な日 2
「帰り道で出会った女の子を連れ帰った??」
一通り話し終えて、発したユウナの第一声がこれだ。確かにそうなんだけど、もっとこう、言い方があるだろ。
「まあ、要約するとそうなる…かな」
「それで、その子どうするの?」
「ノーラン大佐の許可はもらったから、船にはのせてもらえるけど」
「そうじゃなくて。記憶喪失なんでしょ?家とか親とか、どうやって探すのよ」
「それは……特に考えてない」
「それで連れてこられたあの子も可哀想ね……相変わらず後先考えないんだから」
「う、うるさいな。どっちにしたって放っておけないだろ」
「そうね。私も同じことするだろうし……ねえ」
急に話しかけられて、サラは少し体を震わせる。やっぱり初対面の人間は誰であれ怖いみたいだ。でも、サラのそれは今までとは少し違う気がする。
「サラちゃん、でいいかな?イリアとだけじゃなくて私とも仲良くしてほしいな」
ゆっくりと笑顔でサラに近づくユウナ。サラの怯えはユウナの接近につれ大きくなっていくようだ。
「サラ、大丈夫だよ」
「……ん」
サラはユウナが差し出した手に恐る恐る自分の手を重ねる。
「私はユウナ。ユウナ・エアハルト。呼び方は何でもいいよ。ここ、女の人少ないからさ、何かあったら私に頼ってね」
「……」
サラはなにも答えない。けれど、その視線はユウナの方をはっきりと向いている。
「ごめんね。そんなすぐには難しいよね」
「……」
サラは一体、何を見てるんだろう。ユウナの方を見ているけど、顔を見ているようには見えない。
「痛い」
「え?」
サラは確かにユウナに言葉を、誰にも聞こえないような声で、告げた。
「よく、聞こえなかったんだけど…もう一回言ってくれる?」
「……痛い」
「どこか痛むの?どこ?」
「……」
サラは自分の胸に手を当てた。ぎゅっと苦しそうに自分の手を胸の前で重ねた。
「胸……?いつから痛い?」
「ユウナを見てから」
「私??」
「うん……ユウナを見てると、痛い」
「え、それって……心配してくれてるってこと?」
「そうなの……?始めてだから、こんなの」
「きっとそう。優しいね、サラちゃん」
「……やさしい」
サラはその言葉を受け止めかねているみたいだ。この子は、どんな当たり前もそうだと知らない。自分の感じていることもよく分からないのかもしれない。
「サラ、褒められたときは素直に喜んで良いんだぞ」
「ううん。私、何だか今とても嬉しい。でも嬉しいときどうすればいいのか、分かんないの」
「取り敢えず、褒めてくれた人にはお礼を言った方がいいよ。嬉しいときどうするかがとはちょっと違うけど」
「うん。ありがとう」
「ふふふ。どういたしまして」
ユウナが笑うと、つられて俺も笑ってしまった。何だか二人のやり取りが妙に微笑ましくて。俺もユウナも軍人で、世界が戦いに溢れているなんてことを忘れてしまいそうだった。
「イリア、嬉しそう」
「え、ああ…うん。嬉しいよ」
「嬉しいときは笑えばいいんだね」
「そうだな」
こうして、一つ一つ何かを教えていくっていうのは、子育てみたいだなと思った。すっごい大きな子供ではあるけど。サラは物覚えも物分かりもすごく早い。そんでもって、サラが子供で俺が父親……となるとユウナが母親??
「イリア、変なこと考えてない?」
「いや別に…そんなに変じゃないと思う」
「そんなにって……変だっていうのは否定しないんだ」
「何か……子育てしてるみたいだなって。俺が父親でお前が母親…」
思っていたことをそのまま言うと、ユウナは変なものを食べたような顔をした。何とも、何を考えているのか分からない表情だ。
「イリアって結構バカだよね。いや、絶対バカだと思う」
「急に辛辣だな…何がだよ」
「それが分かんないからバカだって言ってるの」
「何だよ、それ…」
「まあ、いいけど。イリアをバカにしたって仕方ないし。サラちゃん。ずっと気になってたんだけど、その格好ちょっと嫌じゃない?」
「?別に…」
「そうね…サラちゃんは何とも思わないかもしれないけど、私はかなーりダメだと思う。そんなにヨレヨレの服じゃ女の子失格だよ?ということでお着替えしよう。私と身長そんなに変わらないから大丈夫だと思うし……着替えとってくるからちょっと待ってて」
ユウナはそういって足早に部屋から立ち去ろうとする。俺はユウナが部屋からでるのを待って、少し遅れて部屋を出た。ユウナには言わなくちゃいけないことがある。サラの前だと言いづらくて、結局言い出せなかった。ノーランは言わなくてもいいと言っていたけど、そんなこと俺にはできない。
「何、イリア?」
ユウナは俺が部屋から出てくることを予想していたみたいだ。俺が部屋からでると、こちらから声をかけるより先に、背中越しに言葉を発した。言いたいこともきっとお見通しだと思う。
「その、怪我さ」
「別に気にしてないわよ。生きてたんだからそれでいいでしょ?」
ユウナはこちらを振り返らない。
「大佐にも同じようなこと言われた。でも、俺はそれでいいだなんて思わない」
「そう」
ユウナはさも何でもないことのように振る舞っている。それが本心かどうかなんて最初に声をかけられたときから分かってた。
「じゃあ、もし、立場が逆だったら、ユウナはどうするんだ」
「ズルいよ、それ。分かってるくせに」
「そっくりそのままお前に返すよ。だから……ありがとう、助けてくれて」
「……仲間、なんだから、助けるのは当たり前でしょ」
「そうかもな。でも当たり前だからって言わない理由にはならないだろ?」
「……やっぱりバカ」
「何?」
「何でもない。一々助けられてことに感謝してたら、この先大変よ。イリア、弱いんだから。守られて当然なんだから」
「……」
「何よ?」
「今は弱いけど、いつかユウナを守れるくらいに強くなるよ」
「……そ。期待しないで待っておくわ」
「そこは期待してくれていいんじゃないか」
「期待できないんだから、期待しないの」
「手厳しいな……」
「話は終わり?あんまりサラちゃん待たせても可哀想だし、もう行ってもいい?」
「いいけど、お前そんなんで着替え持ってこれるの?」
ユウナは右手にギブスをはめている。左手にも包帯が巻いてある。服の下は分からないけど、きっと傷がたくさんあると思う。下半身はそんなにでもないみたいだけど、何か物を運べるような状態ではないと思う。
「大丈夫よ。これくらいなら一人でなんとかなるわ」
「何とかなるのかもしれないけど、俺も手伝うよ」
「いいって、イリアはサラちゃんのことみてて」
「でも」
「私は、出来ることは自分でやるって決めてるの。分かった?」
「……分かった。けど辛かったら言えよ。少しくらいは頼ってもバチは当たんないぞ」
言葉をかけながら、扉に向き直る。後ろでユウナが何か言ったような気がしたけれど、きちんと聞き取ることはできなかった。振り返ると、ユウナは既に歩き出していて、発した言葉がなんだったのかは聞けなかった。




