覚醒~Rage~
アパレイユの接近を告げる警報が鳴り響く。
「アパレイユ…!?」
「やっぱり、この辺りには何かあるの……?」
「っ!」
何かがおかしい。アパレイユがこんな地方に、立て続けに現れるなんて異常も異常だ。居ても立ってもいられなくなって俺はファコンの元へと駆け出そうとした。
「ちょっとどこ行くつもり!?」
「アパレイユが近づいてるんだろ。だったらファコンで出るだけだ」
「馬鹿なの?怪我人を出せるわけないでしょう」
「大した怪我じゃない。俺でも居ないよりはましだろ」
「そういう問題じゃあ」
殴ってでも止める。そんな雰囲気を醸し出すユウナの説得も、頭上から降りてきた叱責で中断された。
「ユウナ。何をしている。早く出撃準備を済ませろ」
ノーランはパイロットスーツに着替えて、戦闘準備を完了させていた。そのすぐ後ろにブルーノもいた。
「も、申し訳ありません!」
丁寧に頭を下げ、急いで格納庫から離れようとするユウナを横目に見て、俺はノーランに食いついた。
「あの!」
「何だ?」
「私も戦わせてください」
「イリア!」
格納庫の出入口付近から声が飛んできたが、聞き流す。どんだけ過保護なんだと言い返したい気分だ。
「何を言うかと思えば……お前はもう軍人なんだ。意志があるなら止めはしない」
「ありがとうございます!」
「分かったら、早く準備してこい。敵は待ってくれないぞ」
「はい!」
後ろにいたブルーノが何か言いたげだったが、即座に返事を返すことで遮った。
急いで自分の部屋に戻って、パイロットスーツに着替える。着なれないそれは中々新感覚な着心地ではあったけれど、耐久性に関しては、研究者の俺からお墨付きを出せるものだ。実はこういう細々とした用品の開発も行っていたりしたのだ。今は関係ないけれど、自分で考えたものを自分で使うっていうのは何だか嬉しかったりする。
着替え終わり部屋を出ると、部屋の前にユウナが腕を組んでたっていた。
機嫌悪そうだなぁ。
「ユウナ、あの…」
「別に怒ってないわよ」
「…おう」
絶対怒ってると思うんだけどな……怒ってない人は怒ってないって言わないんだぞ?
「どうせ止めても出るんでしょ?だったらしっかりサポートしてあげるわよ」
「ユウナ……ありが」
「ふう。……行きますよ、イリア三等兵」
お礼を言おうとしたら手を俺の顔の前に突き出して止められた。相変わらずキャラ変わりすぎだと思う。
「はい」
それでも、ユウナはユウナだと改めて思った。過保護なところも、何だかんだで甘いところも昔のままだった。
二人で格納庫に戻り、そのまま各々の機体に乗り込む。サージを起動させると、ノーランからの通信が飛んできた。
「全員揃ったな。時間がないから作戦は戦いながらつたえる。臨機応変にな。それから、始めての奴もいるから一応いっておくぞ。通信は常時開いとけ。忘れるなよ」
「大佐。お言葉ですが、やはり新入りは置いていくべきかと」
ノーランに進言するブルーノの声は冷めきっていた。新人を信用できないのは分かるがいくらなんでもというところはあると思う。
「大佐の決定に逆らうつもりですか」
「そう言うわけじゃない。2機ならば3人で充分対処できるということだ」
「3人で充分。なら4人だと余裕だな」
「………分かりました」
ノーランの言葉でブルーノも引き下がる。こんな風に軽口を叩ける辺り本当に余裕なんだろうか。軍のトップパイロット達の腕前は相当のものなのだろう。
「そういうことだ。実戦経験も大事だってな。………では、始めるか」
『はい』
「ノーラン・ベルナルド、エール、出るぞ」
「ユウナ・エアハルト、ウィユ、出ます」
「ブルーノ・ヴィスコッティ、グリブ、行きます」
シミュレータでやったとはいえ、宇宙での戦闘はこれが初だ。この何にも縛られない力の虚無的空間に於いて、1つの力となって俺は敵を討ちに行く。
「イリア・アーデルト、ファコン、出ます!」
宇宙空間に出て、母艦とある程度距離をとる。アパレイユとの戦闘に巻き込まれでもしたら俺たちの帰る場所がなくなってしまう。ビーム砲やミサイル等積んではいるものの、アパレイユには無意味だと言っていい。すべてかわされてしまう。
「さあて、敵さんに感付かれる前に大まかに説明するぞ」
敵を迎え撃てる距離に達したところで、ノーランから指示が入った。
「今回は4人で2機を同時に相手する。フォーメーション4ー1だ」
「あの…大佐」
「分かってるよ。イリアには逐一指示するから安心しろ。2人はいつも通りにな」
『はい』
「よーし、良い返事だ。それでは、ブルーノを前方に出し、イリアはそれに続け。ユウナは後方支援に徹しろ。俺はその間を埋める」
「分かりました」
サージの索敵システムが作動する。警告音がコックピット内でこだまする。敵との距離残り200。まだ攻撃範囲ではない。
「来るぞ!」
レーダーで探知したのも束の間、視認できる範囲まで近づかれ、ビームライフルが数発ファコンの腕を掠める。前方からそのまま1機のアパレイユが近付いてくる。
「くっ…!」
相手との距離を保とうと下がるが、同時にもう1機のアパレイユが横方向から迫ってくる。
俺が狙われている?こんなの……避けれっこない!どちらにも攻撃するしか…!
「ぬっ、、はあ!」
前方、横、両方のアパレイユにビームライフルを射とうと照準を散らしていたところに、ブルーノがナイフで横方向のアパレイユを攻撃した。それを見た前のアパレイユがブルーノの方に狙いを変える。ブルーノは最初に攻撃したアパレイユをビームライフルで牽制しつつ、ナイフによる接近戦で、2機目のアパレイユとやりあっている。ノーランはその絶妙なやり取りに、ビームライフル、ナイフ、双方を使ったヒット&アウェイの戦法でブルーノの戦闘をアシストしている。
「イリア!アパレイユの連携は尋常じゃない。1人で1機と考えるな。4人で2機と戦え!」
「は、はい…!うわっ!」
片方のアパレイユがこちらにビームを放つ。今のは、かなり際どかった。ギリギリで避けれたものの、何度も繰り返せば致命傷になりそうだ。
「イリア三等兵!」
そこに、後ろからユウナの支援砲撃が届く。怯んだアパレイユの数間の隙にナイフで右腕の間接部を切り落とす……!
「たああ!」
切り落とすまではいかなかったが、傷を残すことには成功した。今までのような素早い動きはできないだろう。
「やった!」
「調子に乗るな!たかが一撃だ。」
喜んだ気の緩みも、ブルーノに指摘される。厳しい人だ。でもこの人の腕も、それに裏打ちされたプライドも本物だと分かる。誰もが、自分の意志を持って戦ってるんだ。
「すみません…!」
戦況はこちらの優勢だった。俺が何度かミスをして、被弾することはあれど、致命傷にはならなかった。そのミスも3人がカバーしてくれたお陰で、ゆっくりと敵を追い詰め、今、ブルーノの放ったビームライフルがアパレイユの機体を捉え、見事、1機目の破壊に成功した。
「よーし、良くやった」
「まだまだです。2機目もいきます」
「さすが…」
1機倒したと言うのに全く動じていない。精神力、集中力のどちらをとっても驚異的の一言だろう。
「ボーッとしないで下さい。本番はここからですよ」
「えっ、でも」
あと1機だけ。それならずいぶん楽なんじゃないのか。そう思った矢先、アパレイユの機体が放っていた光が青から赤に変わった。禍々しい光を放つそれは、確かに、本番はここからという事実を如実に表しているようだった。それに、見た目の変化だけではない。
「は、速い!」
ブースターの出力が……確実に上がっている。だけど、あの放出量…俺のファコンのブースターと似ている。あのままだと……
「防御に徹しろ。下手に攻撃したらやられるぞ!」
考えている場合じゃない、たとえファコンと同じようにアンコトーラブルになるにせよ、それまでの時間を耐えきらないと意味がない。
防御に徹しろと言ったノーランやユウナ、ブルーノは隙を見てはアパレイユへの攻撃を試みている。
つまり、今の言葉は俺だけに向けられたものだったということだ。防御しながら攻撃をする。そんな器用な真似なんかできっこない。出来っこないかもしれないけれど、やる前から決めつめられるのは何だか癪だ。
守る。シールドを構えて、敵の的にならないように、不規則に動く。
攻める。ビームライフルの遠距離やナイフで近距離、どちらも隙を見せれば返り討ちだ。
だけど、選択肢はこの2つだけか?
「イリア!?」
また後でユウナに怒られるかな。でもいい。今思い付いた最善の索はこれだったんだ。
アパレイユの狙いが俺に定まる。さあこい。俺はここから動きはしない。
電源はそのまま、しかし、動きは静止させた。
下手に動いて当たるなら、動かず、狙いを引き受ける。
3人も狙いを変えながら動くアパレイユより1つに狙いを絞って動くアパレイユの方が動きが読みやすいだろうと判断したんだ。
俺には敵を倒す力がないのかもしれない。でも、俺たちがいるのなら話は別だ。
俺の狙い通り、俺に向かって迫ってくるアパレイユはユウナのビーム砲によって俺の元に辿り着くことなく、その動きを止めた。
倒したのか…?動きが止まっただけで、まだ破壊した訳じゃない。止めをさすため、近づこうとするとノーランの通信がその動きを阻害した。
「待て……離れろ!」
間一髪。あと少し近づいていれば爆発に巻き込まれていただろう。俺が目標にしていたものは、自ら破壊された。
「これって……」
「すまん、伝え忘れていた。あの形体に移行した後、追い詰められると奴等は自爆する。理由は分からんが、どの機体も同じ行動をとる」
「………」
「こちら側で情報統制しているからな。研究者だった君でも知らないことはある」
「そうですか」
情報統制。俺には知らないことが多すぎる。さっきのアパレイユの変貌もそうだ。あのブースターの輝き。あれを知っていれば、もしかしたら、ファコンの欠陥を直せたかもしれない。
軍の研究所なのに、そこにすら情報が完全に出回らないなんてどういうことなんだろう。帰ったらユウナにでも聞いてみようか。流石に何か理由がありそうだが……ああでも、その前に説教が始まりそうだな……嫌だな。
ともあれ戦いは終わった。ここから先の戦いもこんな風にうまくいくといいんだけど…
平和な日常への思いも、これからの未来への希望もロアナの差し迫った声にかきけされた。
「新たな熱源を確認。高速でこちらに接近中」
「1機か?」
「そうなのですが……速度が違いすぎます。これは、」
「何?」
「接触まで残り50。警戒体勢を維持してください」
「………」
異常な事態に誰もが、息を呑む。迫り来る未知に緊張を隠せないでいる。
来る。駆動音が近づいてくる。星屑ほどの明かりが急速にその光を膨大させ、目の前にまで接近し、停止した。
俺たちの前で止まったかと思うと、不気味な沈黙を保ったまま、こちらを見回している。
なんだろう。この感じ。今までのアパレイユとは違う。無機質に相手を殺すまで動き続ける。その冷酷さとはなにかが違う。俯瞰的にこちらを見ているような……心の中を見透かされているような、そんな息苦しさを感じる。
「え」
それは反射だった。漏れでた声は、情けないものではあったけれど、何が起こったかは理解できていた。
死んだ。音もせず、目にも留まらぬ早さで引き金を引かれた。その動作に何も反応することができない。死の光が近付いてくる。訪れる終わりの瞬間。最期まで目を逸らさないようにと直視した光景は、しかし、予期したものとは全く異なるものに換わった。
「く、うわぁあああ!」
今度は何が起こったかすら分からなかった。夢か幻か霞がかった世界の中に今はいる。爆発するサージ。流れてくる苦悶の声。視界がどんどん狭くなっていく。
火の海が目の前に。自分を助けるために、身代わりになった妹の姿が、再現される。
---ぉ、にい……ちゃん、にげ、て
逃げたらルナが、でも逃げないと死…ぬ。どうすればいい?どこに行けばいいんだ?
---せーぎの…ひー………ろ…ぉ、は、きっと
「イリア、三等兵……早く、逃げなさい……!貴方の、手に、負える相手では、ありません」
ユウナの声が、声が!聞こえる。ああ、どうして、どうして苦しいんだ。暗い、熱い、ここはどこだ?
遠くなって、近すぎて、何もかもが分からない。
---わるいてき、を……たおすの
ルナは死んだ。俺を助けるために。俺が、殺した。俺が、俺が!
正義のヒーロー。
俺は………
俺が。
悪?
「喋るな!それ以上血を流したら、死ぬぞ!」
"死"
ノイズが……雑音、流れてくる。
死、死。ルナが、そして、
「あ、ぁあ、ユウナ…ぁ」
俺が
ユウナ また
殺す?
どうして
どうして 誰が
何のため 殺す 人が死ぬ
違うそんなつもりじゃない
違う
違う 違う
違う違う 違う 違う
違う 違う違う違う違う違う
助けたくて無くしたくて終わらせたくて
だから戦うんだって
こんなもの
こんな こんな 違うんだ
「かっぁ……っが」
痛い 痛い
痛い 痛い
痛い 痛い
痛い 痛い
痛い
痛い 痛い痛い痛い
痛い 痛い
痛い 憎い
痛い
痛い 痛い 痛い痛い
怖い 怖い怖い怖い怖い
怖い 怖い 憎い
怖い
怖い 怖い
怖い 怖い 怖い 憎い憎い
怖い
憎い憎い 憎い 怖い
怖い 怖い
怖い 怖い
憎い憎い憎い憎い 怖い
嫌だ
嫌だ 嫌だ
嫌だ 嫌だ嫌だ 嫌だ
嫌だ 嫌だ
嫌だ 嫌だ 憎い
憎い憎い 嫌だ 嫌だ
憎い憎い 嫌だ 憎い
苦しい
辛い
悶えて かきむしって
泣きじゃくって 狂ってしまう
地獄の中に
見つけたもの 彼女の死
と
己の無力さ
それから
ホラアノトキトオナジダ
オマエハヨワイ
ダレモスクエナイ
"おい、新入り聞こえてんだろ…"
"今は放っておけ、それより……"
「あ、ぁああっ、ぁ」
見つけた見つけた
だけど駄目
開けてはいけないパンドラの箱
否定し黙殺見て見ぬふりして
さよならするんだいつものように
---お兄ちゃん 俺は
---正義のヒーローに 無理だ
イイワケバカリ
オマエハカワラナイ
チカラハテニハイラナイ
開けて開けてパンドラの箱
力が欲しいの 変わるんだ
委ねる 放棄だ 自分を失う
それでも だから 誰よりも
自分が自分でいられるの
---私を増やしたい? ……嫌だ
---なら ………
---守らなきゃ ま、もる
---倒すの 倒す……?
---殺して 殺す
---敵を 敵を
『殺し尽くす!』
サアオマエノチカラヲミセテミロ
「ああああああああああああああああああああああ!!」
頭が痛い。オーバーヒート寸前まで脳が処理し続けている。想いが、気持ちが、感情が、溢れかえってとまらない。
殺せ、殺せ、殺せ。
命令してくるのは自分自身。感情という名のもう1つの自分。
「おおおおおーーぉおお!」
ビームライフルの乱射。弾幕を張り、逃げ道を無くす。
早い、速い、敵の有りとあらゆる面がこちらの上をいっている。だが、早る気持ちと処理速度、それだけは俺が上をいく!
見逃すな。相手の一挙手一投足を。
読みきれ。刹那の未来を。
生き残り、相手の命を奪い取れ!
「あの馬鹿っ…!」
「ブルーノ、頼めるか?」
「分かってます!」
敵が迫る。分かっている。ビームライフルの射撃から、機動力を活かして背後に回り込む。先回りでは読まれてしまう。だったら。
「おい、新入り!いい加減に……ぐぁ!」
相手のビームライフルを近くのサージで防ぎきる。巻き起こる爆風の中からサージを掴み、敵に投げつける。よろめく隙を見逃さない。ナイフでもって斬りつける。
一撃。二撃。三撃目からは防がれた。鍔迫り合い。蹴り合い。ぶつかり合い。殴り合い。射ち合い。使える武器を使い尽くす。止まらない乱舞。踊り狂う暴風。
まだだ、まだ足りない。上げれるだろ。もっと、もっと!もっと!!俺についてきてみせろよ!!!
「がっ……!!」
動きが止まる。オーバーヒート?アラート??なんで、なんでだよ。なんで動かねえ!全然だろ。まだ、これからっだってのに。邪魔するんじゃねえよ!
敵の姿を睨み付ける。終わりじゃないと訴える。
敵は俺に触れ、何をするでもなく去っていった。
何を………?分からない。あいつは何を考えているんだ。倒せるはずの敵を倒さずに……一体。何が、起きたんだろう。一体……俺は何を………?
俺の意識はそこで途絶えた。




