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ワタシは貴方とイキテイク  作者: 水瀬 葉月
Black flower which blooms in the space
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忍び寄る運命

「じゃあ指導を始めましょうかね」


  艦の航行が落ち着いてきたところで、ユウナの指導が始まった。さて、気合いを入れて頑張りますか。


「お願いします」

「と言っても最初は座学だから、イリアには記憶してもらうしかないんだけど」

「任せろ。覚えるのは得意だ」


  研究者だったころも、データとか集めたり、専門用語覚えたりするのは早かった。記憶力は良い方だと自負している。


「自信あるのね。じゃあ、取り敢えず……軍法と戦術基礎、武装解説、サージの取り扱い、戦時の応急手当。あとは……」

「ちょ、ちょっと待って!待ってください!」


  たまらず声を上げる。自信があるとは言ったけど、その量は多すぎではないでしょうか……


「何?まだまだ序の口なのに」

「え、そんなに?っていうか全部覚えたの??」

「当たり前でしょ。人命を背負ってるんだから、適当な知識じゃ困るのよ」

「ま、まあそうか」

「そうよ。自信あるんでしょ?頑張って」


  そう言って、膨大な資料の入った端末を渡された。ざっと見ただけでも10以上はあるな。これは、本当に覚悟しないと覚えられないな。


「……分かりました」


  資料を読みはじめて、2時間が経過した。流石に頭を使い続けるのも、疲れてきたので、何やら読んでいるユウナに、適当に話を話を振ってみた。


「そういえば、この船って何人くらい乗ってるんだ?」

「ん?えっと、艦長、副艦長、オペレーター2人、操縦士2人、整備士10人、パイロット3人だったと思う」

「人手不足って言ってた割には案外乗ってるんだな。そんなに乗ってて前線は大丈夫なのか」

「それに関しては大丈夫よ。アパレイユの攻撃ってそう頻繁にあるものじゃないの」

「あ、そっか。月に1、2回くらいだったもんな」


 アパレイユの出現には2つの規則がある。1つ目は殆どが単機、多くても3機という少数での侵攻であること。2つ目は一度現れたら、その後2から3週間スパンが空くこと。この2つのおかげで人類は未だに滅びず、日々生き残る手段を模索出来ているのだ。


「そ。この前の攻撃がちょうど3週間前。まあ1回は残ってる人で対応してもらうことになるけど、私たちがいないだけで負けるような軍隊じゃないわ」

「そうなのか…でもわざわざトップが直々に来る必要もなかったんじゃないか?」

「あ、それはね。何でもこの辺りでアパレイユと遭遇したっていう情報が最近多くてね。それの調査も兼ねてたから」


 アパレイユと遭遇?確かに珍しいな。アパレイユは地球周辺でしかあまり見かけられないはず……軍の本部が地球にあるからそこを狙っているんだろうけど、何でこんな何にもないようなところに…?


「それで、何か分かったのか」

「全然。リユーに侵攻されちゃって、それっきり。もしかしたらこの辺りに敵の本拠地があるかもって期待してたんだけどね」

「ふーん。防戦一方だと思ってたのに、結構積極的なんだな」

「それはノーラン大佐が指揮を執り始めてからよ。最初の頃は一回の戦闘で5機のサージはやられていたし。今では殆ど、誰も殺されることなく迎撃できているわ」


 勿論、最初の頃というのはサージが創られてからの意味だ。本当の最初は戦闘機や戦車で戦っていた。こちらの攻撃は全く通じず、ただただやられるしかなかった。最後の手段として1人1殺で、特攻することがしばしばあったがサージの開発に成功して、無闇に命を散らせるものは減った。


「やっぱりあの人は凄いんだな」

「ええ、とっても。技術だけじゃなくても人柄に惹かれている人も多いの。軍のみんなはね、あの人にだから付いていこうって思えるのよ」

「へえ……」


 そこで話は途切れた。俺は再び資料に目をやる。さて、もう一頑張りしますか。


 あんまり座学ばかりじゃ辛いだろうからと、船の案内をしてもらうことになった。食堂、シャワールーム、格納庫…と回って最後に管制室の皆さんに挨拶することになった。


「本日付で入軍いたしました。イリア・アーデルト三等兵です。宜しくお願いします」


 管制室に入り、全員の前で敬礼する。職務の片手間に聞き流す人。しっかり俺の自己紹介を聞いてくれた人。聞いてるのか聞いてないのか分からない人等様々だった。何だか個性がありそうな人たちだな…


「始めまして。話は艦長から聞いてるよ。私はロアナ。オペレーターだから一番かかわることが多いかもね」


 差し出された手に、俺も手で以て返答する。俺の話をちゃんと聞いてくれていただけあって、愛想がいい人だ。綺麗に後ろで一つにまとめられた髪の毛からは、この人の真面目さが伝わってくる。声もよく通るし、オペレーター向きなんだろう。


「オペレーターは戦況を分析してパイロットに伝えるのが主な仕事だけど、それ以外にも機体状況とかパイロットの様子とか逐一、観察してるから。おかしなことがあったらこちらから言われる前に自己申告すること。いい?」

「は、はい。分かりました」


 思ったよりグイグイ来る人だな……距離が近い。


「ついでに、あそこでモニター弄ってるのが、もう一人のオペレーターのミシェル。ちょっと内気な子だから打ち解けるには時間がかかるかな」


 自分の名前が出たことで、ミシェルはピクッとしてこちらを振り返った。俺がお辞儀をすると申し訳なさそうに目を伏せてまたすぐに仕事に戻ってしまった。パッと見俺とあんまり年は違わないようだけど…どうなんだろう。


「ああいう子だけど、オペレーターとしての腕は抜群よ。それは信じていいわ」

「はい」

「戦いになったら宜しくね」

「宜しくお願いします」


 そう言ってロアナさんは自分の席に座り、ミシェルと同じようにモニターを操作し始めた。


 その後、操縦士の二人の仕事を邪魔しない程度に挨拶を済ませ、部屋を出た。操縦士の二人は男性で一人がダリウスさん、もう一人がジェストさんだった。二人とも気さくだけど職人気質みたいな真面目な人だった。



 部屋を出た後向かった先は訓練室と呼ばれるところだった。訓練室というくらいだからパイロットの訓練用の部屋なんだろうけど、何をするつもりなんだろう。


 部屋に入ると大型の機会が2台設置されていた。どうやらこれを使うらしい。


「これ、何なんだ?」

「シミュレータよ。乗ったことある?って乗ってなかったらあんな風に操縦できないか」

「まあ実験のときに何回か乗っただけだけどな」


 基本的な動作はわかるけど細かい動きとかは出来ない。射撃とかすごく苦手だし。近接戦闘が得意かと聞かれたら、頷くことは出来ないけど射撃よりはよっぽどましというところだろう。


「怪我は完治してないけど、シュミレータくらいなら大丈夫でしょう」

「そんなに気にしなくていいぞ。傷は大体塞がってるし」

「あらそう……じゃあ……まず私と模擬戦しよっか」

「いきなり!?ハードル高くない…?」


 さっきっから薄々感じてたけど……こいつ、とてつもなくスパルタなんじゃ!


 俺がよっぽど変な顔をしていたからか、ユウナは少し困ったような顔で言った。


「安心して、手加減してあげるから」

「それはそれで複雑だな」


  実力が足りないと言われているようなものである。実際、足りてないんだからどうしようもないけど。


  さてと。やることは決まったわけだし、早速シュミレータに乗り込もう。


  と、そんな俺を余所に、ユウナは何やら考えている。


「ちょっと待ってね……よし、決めたわ。手加減した私から1本とったらイリアの勝ち。20分間とられなかったら私の勝ち。どう?」


  どうって……そんなルールいるのかなぁ。絶対勝てそうにないし。それにこういう勝負ってことは


「これって負けたら、何かあるの?」

「え?何も考えてなかったけど。そうね。イリアがそう言うなら負けた方が勝った方の言うことを1つ聞くってことにしましょう」


  しまった。墓穴を掘ってしまった。こうなるんだったら何も言わずに勝負しておけば良かった……


  苦しい戦いになるなと思いつつ、始まる前から終わった後のことを心配した。


「それじゃあ始めましょうか」


  別々のシミュレーションポッドに入る。内装は当然ながら、一般的なサージと同じだ。今回、使うサージも特にカスタマイズされていない量産型サージだ。ファコンとは明らかに性能差があるから、そこをどう埋めるかが問題になってくる。


  起動スイッチを押し、モニターに宇宙空間が現れる。どうやら今回の舞台はデブリ帯らしい。さらに、ユウナとの通信映像が表示される。


「準備はいいですか。宇宙空間での戦闘は、リユーや地球など重力がある場所とは勝手が違います。気を付けてください」


  ユウナの雰囲気が変わった。所謂、軍人モードというところだろう。


「分かってますよ」


  宇宙でのシュミレーションは初めてだ。頭では理解しているが実践となるとどうなるか。


  俺も気を引き締めよう。シュミレーションとは言え戦いだ。本気でやらないと意味がない 。


「宜しくお願いします」

「では、シュミレーションスタート」



「イリア・アーデルト。出ます」

「ユウナ・エアハルト。出ます」


  宇宙空間に出る。一瞬で理解した。確かにこれは地上とは違う。地面がないと言うだけで、平衡感覚が途端に狂う。どこが上でどこが下なのか全く分からない。ブースターを噴かせて姿勢を正す。なるほど。少しの動きでもしっかり反応してくれる。動くにも止まるにもしっかりと制御する必要があるのか。


  ようやく挙動に慣れはじめた頃後ろ斜め上からの無慈悲な射撃が俺を襲った。デブリに隠れていたユウナが出てきたのだ。


「うわっ…!」

「何をボーッとしているのですか。戦いはもう始まっていますよ」

「分かってるよ!!」


  必死にビームライフルで応戦する。しかし、その全てが敢えなく宇宙を切るだけだった。


「そんな直情的な攻撃では……!」


  ユウナはそのまま身を翻し、ナイフを引き抜いて接近する。俺もナイフを抜き、何とか鍔迫り合いの形まではもっていったが、勢いをつけて突進してきたユウナと、体勢を崩しながらの俺では、力負けするのは目に見えていた。


  吹き飛ばされ、デブリに機体が叩きつけられる。


  シミュレーションだから機体が壊れるとかはないけれど、実際にはもう戦闘不能だろう。


  だが、制限時間はまだ残ってる。やれることは何でもやってやる。可能な限り、ビームライフルを連射する。残念ながらユウナには一発も当たらない。


「うおおお!」

「何処を狙って……あっ!」


  だけど、始めから狙いはユウナじゃない。ここがデブリ帯だっていうんならそのデブリを活用する他ない。俺の放ったビームライフルの幾つかがデブリに命中する。デブリには廃棄された兵器や、岩石など様々だった。爆発、放電、粉塵。ユウナは完全に意識を持っていかれているはず。一気に距離を詰めて、ナイフで攻撃する。


「もらったぁ!」

「甘いですよ」

「なっ………ぐぅ!」


  しかし、攻撃を喰らったのはユウナではなく俺だった。ユウナはデブリでの撹乱なんてなかったかのように俺を正確にビームライフルで射った。


「そんな見え透いた作戦では通用しませんよ。デブリを利用するなど基本中の基本です」


  くそっ……残り時間はあと3分。


「どうしました。もう終わりですか。最後まで私は手を緩めませんよ!」


  ユウナが接近してくる。これが最後のチャンス。


「………!!」


  ユウナは真面目な奴だ。デブリを使うなんていうのもきっと、さっき渡してきた戦術基礎の中に書いてあるんだろう。


  だから俺は一か八かの賭けに出た。


「え……」


  ユウナの驚く声が聞こえる。それはそうだろう。戦闘中に俺はサージの動力を落としたのだ。俺のサージは糸が切れた人形のようにガクリと下に落下。ユウナのナイフは俺には掠りもしない。


  ユウナが呆気にとられている隙に、空かさず再起動。ユウナに突撃。よろめいたユウナにナイフの一撃を叩き込む。


「うっう…ぁ!」


  そこで、制限時間終了の合図が流れた。


「俺の勝ちだな」


  シュミレータから出て、得意気に言い放つ。しかし、遅れて出てきたユウナは俺を見るなり説教を始めた。


「貴方は一体何を考えているのですか!戦闘中に電源を切るなど、自殺行為です。あんなことをしては敵のいい的です。死にたいんですか!?」


  うっ、言われてみればその通りなんだけど……俺だって必死だったんだ。そこまで言わなくても。


「そういう訳じゃないけど…」

「実戦では絶対にしないで下さい。いいですね?」

「……分かりました」


  これは素直に反省するしかないか……ユウナに迷惑かけるなんて思ってなかった。


「とは言え負けたのは事実です。約束は守ります。さあ、どうぞ」


  そうだった。ユウナにお願い……お願い……思い付かないなぁ


「急に言われてもな、保留じゃダメか?」

「いいですけど…」

「じゃあそれで頼むわ」

「はい」


  このお願いはここぞというときに取っておこう。そんなことより。


「やっぱ、猫被ってるだろ」

「うるさい!」

「うっ、なぜ…!」


  また殴られた。畜生、俺、勝ったんだよな。


「イリアが失礼なこと言うからよ」

「戻ったな……ごめんごめん!」


  拳を高くあげて、ニコニコしている。この話題を振ると殴られるそういうふうに記憶しておこう。


「何やってんだ。ユウナ」


  部屋の入り口から声が発せられる。振り向くとそこには長身の男性が立っていた。


「ブルーノ少佐」


  ユウナが敬礼する。


「ブルーノ……?」


  この人確か、ノーランの護衛でユウナと一緒にいた。


「そんな素人に一杯喰わされるなんて、隊長失格だぞ」


「すみません……油断していました。あの、見ていたのですか」


  こいつ俺と一緒にいるときのノリを見られたくないんだろうな………気にするなら、キャラ変えなければいいのに。


「あ?まあ別室だけどな」


  ユウナがあからさまに安心した。だからなんでキャラ変えるんだよ。


「で、お前か…新参者は。俺はブルーノ・ビスコッティ。人類継続軍第3特殊部隊グリフの指揮官だ」

「イリア・アーデルトです。宜しくお願いします」


  手を差し出して、握手を求める。しかし、ブルーノは俺の顔を見つめたまま動こうとしない。


「ブルーノ少佐……?」

「宜しくはできないな」

「なぜです」

「お前じゃあ、先が見えているからだ」


  俺とユウナは二人して、怪訝そうな表情を浮かべる。いきなり現れて、一体何なのだろう。


「ユウナは厳しそうに見えて、甘いからな。俺は遠慮なんかしない。はっきり言ってやろう。お前じゃあ、アパレイユに太刀打ちできない」

「少佐!……イリア?」


  ブルーノに食って掛かろうとするユウナを、間に体を入れて制する。


「素が出てますよ。………ブルーノ少佐。今の私に力がないのは認めます。ですが、それは今の話です。これから先どうなるかなど分からないはずです」

「だから駄目なんだよ」

「え?」

「その点だとさっきのユウナも駄目だった。だから負けたんだろうが」


  話がユウナにも飛び火する。さっきから話が回りくどい。


「どういうことですか」

「お前は感情におどらされている」


  心臓を掴まれた気分だった。確かに……俺は自分の思うままに戦っている。だからこそ、型破りな行動も出来た。でも、それのどこがいけないというのか。


「戦いは激しいものだ。命がかかってるからな。だからこそ、戦うものは常に冷静でなければならない。感情的な攻撃は得てして軌道が読みやすい」

「………」


  戦闘中にユウナにも言われたことだ。直情的な攻撃では通用しないと。


「分かったか?死にたくないなら精々努力するんだな」

「……?はい」

「ユウナ。お前はもう一度大佐の戦訓を見返しておけ」

「はっ…はい」


  最後の一言はアドバイスだろうか。もしかして、心配してくれていたのかもしれない。だとすると、不器用な人だなと思った。


「はあ。相変わらず一言多いやつね。つまりは死にたくないなら冷静になれってことでしょ」

「うん。そうだな」

「落ち込んでるの?」

「どうだろ。落ち込んではいないと思う。………ちょっとな」

「?」


  ブルーノの言うことに一理あるのは理解できる。冷静さを失ったパイロットは凶器でしかないと思う。でも俺は、感情的になることを悪いことだとは思わない。もしも無機質に戦うことが出来るのなら、それは機械と変わらない。そして、そんなことが出来るなら、戦いに何も感じずにいられることが出来るなら、戦いは永遠に続くものになってしまう。戦うからには俺は人であり続けなければいけないと思うのだ。


  俺が、何も喋らなくなって空気の流れが止まってしまった。それを察してユウナが愛想笑いを浮かべながら言った。


「何か白けちゃったね。一区切りつけて部屋に戻ろっか」

「ん……そう言えば大佐の戦訓っていうのは?」

「ああ、じゃあ次はそれを教えてあげる」


  何にせよ、座学も実践も俺には足りていないことが多すぎる。今は少しずつでも精進しないと。


  しかし、俺には悠長に少しずつなどと言うことは許されていなかった。


 ーーー緊急事態発生。緊急事態発生。アパレイユ2機の接近を確認。パイロット各員は迎撃体勢に移行してください。


  戦いは、もう待ってはくれないのだ。

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