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色を斬る母「白嶺」  作者: 雨-Ame-
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第87話「白い兆し」

全色の残響は、少しずつ薄れていた。

それでも、完全には引かない。白嶺は出社し、仕事をこなし、帰宅して彩華の顔を見る。感情の制御は、以前よりは戻っている。だが、ふとした瞬間に、世界が白くぼやけることがある。記憶の端が消えるような、名前が出てこないような、短い空白だ。

(……次は、白)

名前を呼ぶまでもない。身体が、先に理解していた。赦し、浄化、消去。苦しみだけを消せず、愛した人の顔や名前や喜びまで白紙に戻す霊。その気配が、街のどこかで静かに目を開け始めている。

会社では、美咲が相変わらず時折視線を寄せてくる。白嶺の「大好き」という言葉を、何も知らないまま胸にしまっている顔だ。悠人は距離を置いている。告白のあとの、自制した距離だ。玲奈は苛立ちを小さな嫌味に変えて、日常に戻っている。

帰宅後、無月が彩華の報告をする。

「彩華様は、順調です。白嶺様の顔色も、昨日よりは戻っています」

『そう』

「……また、出ますか」

『近いうちに。白が、動いている』

無月は短く頷いた。黒花戦以降、家の気配は遠ざかったままだ。それでも無月は、玄関と窓の確認を欠かさない。白嶺はそれを見ながら、自分の内側の白い空白を測った。

次の色は、消去しに来る。

何を消される前に、斬らなければならない。

白嶺は残虹の位置を確認し、今夜はまだ出ないと決めた。

前段は、ここまでだ。白の輪郭が、もう少しだけ濃くなるのを待つ。

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