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色を斬る母「白嶺」  作者: 雨-Ame-
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第84話「重なる光」

黒花の刃は、まだ余裕があった。

白嶺の残虹を弾き、無月の眩虹を流し、同じ流派の型を知り尽くした者が持つ、冷酷な先読みが続いている。白嶺の肩が上がらない。残響が、呼吸のたびに色を帯びて疼く。このままでは、押し切られる。

白嶺は後退しながら、無月に短く言った。声は掠れているが、はっきりしていた。

『私の軌道に、乗れ。完成しなくていい。遅れていい』

無月の目が、揺れる。理解が、半拍遅れて追いつく。白嶺が先に動く。残虹が、花無垢の核を作り始める軌道を描く。黒花はそれを読み、滅虹を沈めるように振り下ろした。完成された封印の光を、先に潰すつもりだ。

無月は、半拍遅れてその軌道に乗った。

クチツチの中で見た、白嶺の太刀筋。未完成のまま、光が溢れる。形は崩れている。密度も足りない。だが、黒花が白嶺の本命を潰しに行った、その隙間に、無月の光が滑り込んだ。

黒花の読みが、一瞬だけ外れる。

『——今』

白嶺の残虹から、完成された花無垢が開いた。

無月の未完成の光が、その外側を支える。二本の虹が、沈んだ滅虹の光を両側から挟み込む。軸と支え。親が道を開き、遅れて乗った刃が隙間を突く。

【 花無垢 】

光が重なる。

滅虹の刃に、ひびが入った。黒花の目が、初めて大きく見開かれる。沈んだ光が内側から割れ、刀身が音を立てて折れた。折れた刃が、夜の地面に落ちる。

沈黙が、落ちた。

黒花は、折れた滅虹の柄だけを握ったまま、立ち尽くしていた。やがて、ゆっくりと息を吐き、高笑いを上げた。怒りではない。諦めと、何か別のものが混じった声だった。

「……もう、いいわ。あなたの好きにしなさい

……虹結家は、あなた方親子を諦めましょう」

白嶺は残虹を構えたまま、動けない。無月も、膝をついて息を整えている。黒花は二人を見下ろし、まず無月に目を止めた。

「分家のものにも、ああした未来を光らせる太刀筋を持つものがいるとはね。未完成でも、ちゃんと届いた。存分に、輝きなさい」

無月の目が大きく見開かれる。言葉が出ない。黒花はすでに視線を白嶺へ戻し、月を一瞥してから、静かに続けた。

「どうなろうと、結末を受け入れましょう。家も、器も、刀も。……最後に、最愛の娘のワガママを聞けて、嬉しかったわ」

その言葉だけが、母の声だった。

役目を果たす剣士の声ではなく、器の立場に縛られ、娘に能力を渡し、それでも剣で家を支えてきた女の、短い本音だった。

黒花は折れた滅虹を放り、背を向けた。追う者は、いなかった。白嶺も無月も、それ以上動ける状態ではなかった。

母の背中が、夜の中に消えていく。

白嶺は残虹を支えに、その場に膝をついた。無月が、すぐに傍へ寄る。

「……白嶺様」

『……大丈夫。まだ、立てる』

立てるかどうかは、わからなかった。それでも白嶺は、母の最後の言葉を、胸の奥に残したまま、短く息を吐いた。

家の頂点が、折れた。

次に来るものは、色か、別の刃か。どちらにせよ、休息は短そうだった。

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