第83話「同じ流派」
黒花の刃は、速かった。
同じ虹結流の型が、白嶺の想定より半拍早く来る。残響で鈍った身体が、反応を遅らせる。白嶺は残虹で受け流し、間合いを取ろうとするが、滅虹の軌跡がそれを許さない。火花が散り、足元の石が弾ける。
無月が横から入った。眩虹が黒花の脇を狙う。黒花は視線も動かさず、滅虹の峰でそれを弾いた。無月の腕が痺れる。分家の手練れが、家の頂点に刃を向けた瞬間の重さが、腕に残る。
「分家の子が、よく付いてくるものね」
『無月は、私の取引相手よ。あなたには関係ない』
「関係あるわ。家の刃を、家に向けている時点で」
黒花が踏み込む。白嶺は残虹で受け、刃を滑らせ、肩を浅く削られる。血が滲む。残響が、傷口から色を帯びて疼いた。赤の熱が、小さく再燃する。白嶺は歯を食いしばり、踏み留まった。
『……まだ、立てる』
「立たなくていいのに。あなたは、もう十分に役目を果たした。あとは、彩華に継がせればいい」
『彩華には、継がせない。普通の娘でいさせる』
黒花の目が、わずかに細められる。感情ではない。計算だ。それでも、白嶺にはその奥に、何かが沈んでいるのがわかった。母の目が、一瞬だけ揺れた気がした。
無月が再び斬り込む。白嶺も同時に動いた。二人の刃が、黒花を左右から挟む。黒花は滅虹を一回転させ、両方の軌道を同時に崩した。同じ流派を知り尽くした者の、余裕だった。白嶺の膝が、大きく揺れる。残響が、限界を訴え始めていた。
「あなた一人なら、もう終わっていた。その子がいるから、少しだけ長い」
『……感謝しておくわ』
白嶺は短く息を吐き、残虹を構え直した。無月も、恐怖で白い顔のまま、眩虹を下ろさない。二人で、家の頂点に刃を向けている。勝算は薄い。それでも、退くつもりはなかった。
黒花の滅虹が、再び構える。
次の一合で、何かが決まろうとしていた。




