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色を斬る母「白嶺」  作者: 雨-Ame-
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第68話「秘密の眠る場所」

藍の気配は、古いアパートの一室から濃く滲み出ていた。

白嶺は残虹を携えたまま、階段を上がる。眠りの端で誰かがこちらを見ている感触が、階を上がるごとに強くなる。ドアは半開きだった。中から、低い呼吸音がする。

部屋に入ると、ベッドに一人の女性が横になっていた。

年齢は三十代半ばくらい。ゴシック調のドレスを着て、目を閉じている。寝ているようで、寝ていない。白嶺が近づくと、女性の目がゆっくりと開いた。瞳が、深い藍に沈んでいる。

「……あ、器。来てくれた」

声は掠れて、遠くて、枕元で囁くように低い。

『アイム』

「うん。秘密、聞いてるの。誰にも言えないやつ。預かってるの。……あなたも、いっぱいあるよね? 家のこと。刀のこと。娘のこと。……ちょっとだけ、私に置いていきなよ」

影がベッドの周囲で揺れる。女性の身体の奥から、別の形が滲み出す。いくつもの顔が重なり、夢の断片が漂い、中心に大きな、眠そうな目が開く。

アイムだ。

『置いたら、返ってこないんでしょ』

「返さなくても、いいじゃん。楽になるよ。秘密って、重いし」

『重いのは承知の上。あなたに預けるほど、私は親切じゃないの』

白嶺は残虹を抜いた。刃が、部屋の薄闇を吸う。

アイムが、小さく息を吐くように笑った。

「器なのに、口、減らないね」

『減らないわよ。話し相手がいると、つい』

白嶺は小さく肩をすくめて見せた。アイムは目を細め、ほんのりと首を傾げる。その間に、白嶺は間合いを詰めた。

影が伸び、夢のような手が白嶺の肩に触れかかる。触れた先から、秘密を引き出そうとする感触がある。白嶺は体をひねり、残虹の切っ先でそれを断った。断片が散り、すぐに闇に溶ける。

『……手、柔らかいのね。もうちょっと力入れたら? 眠そうで、効きが悪い』

「……笑うところなのかな?」

アイムは欠伸をするように言葉を濁し、そのまま複数の影を伸ばしてきた。白嶺は身を低くし、刀を構える。浅い斬撃で軌道を削りながら、核の位置を測る。藍の気配は、斬っても斬っても、夢のように再生する。

決着は、もう少し先だった。

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