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色を斬る母「白嶺」  作者: 雨-Ame-
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第67話「守るものが増えた」

藍の気配が、対峙できる距離まで濃くなったのは、その日の夕方だった。

白嶺は帰宅後、彩華を無月に預け、着物に袖を通した。残虹を帯び、髪が虹色に変わるのを確認する。無月はリビングの入り口で、それを黙って見ていた。眩虹に手が伸びかけている。

「私も、出ます」

白嶺は帯を結びながら、振り返らなかった。

『ダメよ』

「家の者が、すでに周囲を嗅いでいます。一人で出るのは危険です」

『だからこそ、あなたはここにいる。彩華を守る使命を、与えたはずよ』

無月が一歩、前に出る。目が、本気だ。

「白嶺様を失えば、彩華様を守る意味もなくなります」

白嶺はようやく顔を上げ、無月を見た。刀を握っているときの目は、冷たく、はっきりしている。床に座ってお茶を要求する顔とは、別人だった。

『私は、守るものが一人から二人に増えただけよ。あなたまで外に出したら、また一人に戻る。それは困る』

無月の唇が、わずかに開いた。言葉を探すようにして、しかし何も出てこない。白嶺は残虹の柄に手を置き、続けた。

『ここにいろ。彩華を見ていろ。それが、今のあなたの役割だ。私は、二人分を守って、戻ってくる』

無月は拳を握り、やがてゆっくりと力を抜いた。拒否の言葉が、喉まで来て、止まる。白嶺の背中が、玄関の方へ向かう。

「……気をつけてください」

『ええ』

白嶺は短い返事だけ残して、ドアを開けた。夜の空気が流れ込む。藍の気配は、街の奥から、はっきりと流れてきていた。

無月は彩華の部屋のドアに手を置き、白嶺の気配が遠ざかるのを聞いていた。

守るものが、二人に増えた——その言葉が、胸の奥に残る。無月は眩虹に触れず、そのまま動かなかった。

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