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色を斬る母「白嶺」  作者: 雨-Ame-
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第63話「眠りの端」

無月が家に来てから、数日が経っていた。

朝は無月が彩華の相手をし、白嶺は支度をして出勤する。夜、白嶺が帰宅すると、無月は短い報告だけして、自分のスペースに戻る。会話は最小限だ。それでも、彩華が無月の腕の中で安定して眠るようになったのは、確かだった。白嶺はそれを、取引の成果として受け取っていた。

異変に気づいたのは、夜ではなかった。

昼休み、白嶺は給湯室で缶コーヒーを開けながら、ふと「誰かに何かを話した気がする」と思った。内容は思い出せない。話した相手も、はっきりしない。ただ、胸の奥に、秘密を置いてきたような、薄い穴が残っている。白嶺は缶を持ったまま、立ち止まった。

(……気のせいか)

赤や紫のような明確な熱はない。褐色のような低い誘いでもない。もっと曖昧で、境界が溶けるような感触だ。眠りの端に、誰かが座っている。そう思った瞬間、感覚は消えた。

美咲が給湯室に入ってきて、白嶺の顔を見た。

「加藤さん、今、少し考え事してました?」

『してないわ』

「そうですか。なんか、ぼーっとしてたので」

美咲の声には、心配というより、自分の存在を確認したいような熱が混じっている。白嶺は短く「気のせい」と返して、先に給湯室を出た。美咲の視線が背中に残る。独占欲の残り火は、まだ消えていない。

白嶺は自分の席に戻り、画面を開いた。

指先に、ごく薄い眠気のようなものが残っている。夜に眠るときとは違う。誰かに、何かを預けたあとの、軽い喪失感だ。

次の色は、秘密と眠りの側から来ている。

名前は、まだ呼ばない。呼ばなくても、輪郭はゆっくりと近づいてきていた。

白嶺は画面の数字を追いながら、自分の内側に残った薄い穴を、意識の端で測っていた。

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