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色を斬る母「白嶺」  作者: 雨-Ame-
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第47話「静けさの残り」

朝、白嶺は彩華の泣き声を聞いていても、胸がすぐに動かなかった。

いつもなら、反射的に体が起きる。今日は、半拍遅れる。起き上がり、抱き上げるまでの動作が、滑らかでない。青の静けさが、感情の発火点を少しだけ遠くしている。楽だ。楽な分、自分が母親として遅れている感覚がある。

『……おはよう』

声は、いつもより平坦だった。彩華は白嶺の顔を見て、少しだけ落ち着いた。白嶺はそのまま、離乳食の準備に入る。手は動く。だが、心が後からついてくる感じがした。

会社では、美咲がすぐに気づいた。

「加藤さん、今日は……なんか、静かですね」

『そう?』

「はい。悪い意味じゃなくて。落ち着いてる、というか」

白嶺は短く頷いた。美咲の心配は本物だ。だが、今はそれに深く応える余裕がない。静けさが、善意を受け取る温度も下げている。悠人が書類を持ってきたときも、礼を言う声が、自分でも遠く聞こえた。

(……早く、薄れて)

心地よい静けさは、確かに楽だった。

楽なまま、何かを手放し続けている気がして、白嶺は昼休みに自分の手の甲を強く摘んだ。痛みで、感覚を呼び起こす。


夜。

彩華を寝かしつけたあと、白嶺はソファに座り、自分の内側を探った。

青い静けさは、まだ残っている。だが、朝よりは浅い。明日にはもう少し薄れているはずだ。

家の影は、今日も直接は触れない。

玲奈の歪みも、水面下に沈んだままだ。

次の色は、まだ遠い。

白嶺は目を閉じた。

静けさの中で、唯一はっきりしているのは、彩華の寝息だけだった。

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