表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色を斬る母「白嶺」  作者: 雨-Ame-
43/106

第43話「歪みの芽」

中村玲奈は、最近、自分が少しだけ嫌いになり始めていた。

加藤白嶺を見るたびに、胸の奥がざわつく。前から嫌いだった。余裕ぶって、チヤホヤされて、何もしていないように見えて評価される女。それが、最近は以前より鮮明に、熱を帯びて意識に上ってくる。

美咲があの女に懐いているのも、腹立たしい。

自分がどれだけ仕事を丁寧にやっても、加藤の「普通にこなしている」姿の方が上に見える。努力が、報われない。そう思うたびに、舌の上に苦いものが残る。

昼休み、玲奈は給湯室で美咲と二人になった。美咲は加藤の話を、また始めようとしていた。

「加藤さん、昨日も遅くまで残ってたみたいで……」

「いい加減にしたら?」

美咲が目を丸くする。玲奈は自分でも、声が尖っているのがわかった。

「あなた、加藤さんのことばかり。いい加減、自分の仕事に集中したらどうなの。ああいう人に懐いたって、何も残らないわよ」

「……中村さん」

「私は、ちゃんとやってる。あなたより、よっぽど。なのに、なぜかあの人ばかり」

言いすぎた、と後から思う。だが、口から出た言葉は、自分の中の何かが後押ししたように滑らかだった。美咲は何も言い返さず、麦茶を持って給湯室を出ていく。玲奈は一人残され、蛇口を強く捻った。

(……何で、あんな言い方したんだろ)

自分でも、違和感があった。嫌っているのは事実だ。だが、今日の自分は、嫌っている以上の熱で動いていた。鏡に映った自分の目が、わずかに遠く見える気がした。気のせいか。

玲奈は顔を上げず、水を手に受けた。

胸の奥で、何かが小さく、理想の形を囁いている気がした。自分が「こうなりたかった」もの、手が届かなかったもの。それが、加藤白嶺の顔をして、ちらつく。

玲奈は水を切り、給湯室を出た。

違和感は、まだ消えていなかった。


同じ頃、白嶺は自分の席で書類を処理していた。

玲奈の視線が、時折刺さるように向いてくる。以前より、熱が強い。嫉妬の延長だと思っていたが、今日は少し違う。色の気配ではない。だが、人の感情が、どこかで歪み始めている感触があった。

白嶺は深くは追わなかった。

家の影が、まだ優先だった。次の色も、いずれ来る。玲奈の熱まで、今は手を回しきれない。

それでも、胸の奥の緑の空洞が、ごく小さく反応した気がした。

白嶺は画面に目を戻し、次の数字を確認した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ