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色を斬る母「白嶺」  作者: 雨-Ame-
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第40話「静かな距離」

緑の根は、四日目でかなり薄くなっていた。

朝、白嶺は彩華の顔を見ても、もう過去の誰かの顔を重ねることはなくなっていた。美化された記憶は、遠くに退いている。その代わり、胸の奥に小さな空洞のようなものが残っていた。楽になった、という感覚と、何かを置いてきた、という感覚が、同じ場所にある。

会社で、悠人が書類を持ってきた。

「加藤さん、これで以上です」

『ありがとう』

いつものやり取りだ。だが、悠人は書類を渡したあと、少しだけ居残った。

「……最近、少し警戒しているように見えます」

白嶺は画面から顔を上げた。悠人の視線は、いつものように静かで、踏み込んでこない。それでも、見られていることは確かだった。

『気のせいよ』

「そうですか。気のせいなら、いいんです」

悠人は短く返事をして、その場を離れる。白嶺は彼の背中を見送りながら、指先で書類の端を揃えた。家の影を、悠人は知らない。色のことも、知らない。それでも、白嶺の変化を、彼は静かに拾っている。

(……気づかれている)

悪い気はしなかった。ただ、今はそれに応える余裕がない。家が動いている。次の色も、また来る。悠人の視線を、どう扱うかまで手が回らなかった。

それでも、書類を受け取ったときの指の感触が、少しだけ残った。緑の侵食が残した空洞の中に、別の温度が、ごく小さく灯った気がした。

白嶺はそれを、深く追わなかった。

追うのは、もう少し先でいい。

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