表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色を斬る母「白嶺」  作者: 雨-Ame-
27/106

第27話「まとわりつくもの」

朝、白嶺は彩華の泣き声で目を覚ました。

いつもより反応が、半拍遅れる。起き上がり、ベビーベッドに手を伸ばすまでの動作が、滑らかでない。彩華を抱き上げた瞬間、胸の奥で甘いものがくすぐるように動いた。

『……おはよう』

声のトーンが、自分でもわずかに優しく聞こえる。意図していない。黄の侵食が、言葉の端に色をつけている。彩華は白嶺の顔を見て、少しだけ落ち着いた。白嶺はそのまま、離乳食の準備に入る。

スプーンを口に運ぶ動作が、丁寧すぎる。

「もっと優しくしなきゃ」という思考が、先に立ってしまう。赤のときの熱でも、橙のときの虚無でもない。まとわりつくような、甘い強制力だ。

(……やりすぎない)

自分にブレーキをかけながら、白嶺は彩華の口元を拭った。


会社では、美咲がすぐに気づいた。

「加藤さん、今日は……なんか、柔らかい感じがします」

『気のせいよ』

「でも、声とか、目とか。……いい意味で、ですよ?」

白嶺は短く「そう」とだけ返した。美咲の視線が、嬉しいもののように自分に吸いついてくるのがわかる。普段なら流せる距離感が、今日は少しだけ難しい。侵食が、他人の善意や好意を必要以上に拾ってしまう。

悠人が書類を持ってきたときも、同じだった。

「加藤さん、これで以上です」

『ありがとう。助かるわ』

自分でも、普段より言葉が多い。悠人は少しだけ目を細めて、軽く頭を下げた。白嶺は書類を受け取りながら、胸の奥の甘さを意識した。

(……早く、引いてくれ)


夜更け。

彩華を寝かしつけたあと、白嶺はソファに座り、自分の手を見た。

甘い残り香は、まだある。だが、朝よりは薄い。まとわりつき方が、少しだけ弱くなっている。

残虹には触れなかった。触る必要がないほど、次の色の気配は遠かった。

白嶺は目を閉じる。

優しさを欲しがる感覚と、優しさを与えすぎてしまう感覚が、同じ場所で混じっている。厄介だった。赤や橙より、性質が掴みにくい。

それでも、明日にはもう少し薄れているはずだ。

白嶺はそう判断して、電気を消した。

彩華の寝息が、部屋のどこかで続いている。

その音を頼りに、彼女は今夜を越えることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ