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色を斬る母「白嶺」  作者: 雨-Ame-
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第20話「近い用事」

金曜の午後、美咲は何度もタイミングを測っていた。

加藤さんの仕事が一段落した気配を見計らって、彼女は席を立ち、白嶺のデスクまで歩いていく。手には特に何も持っていない。ただ、言葉だけを用意していた。

「加藤さん、今、少しいいですか?」

白嶺が画面から顔を上げる。

『何?』

「実は……今度の土曜日、加藤さんの家の近くに用事があるんです。よかったら、終わったあと少し寄ってもいいですか? 短時間で大丈夫です」

白嶺は一瞬だけ黙った。美咲は自分の声が少し上ずっているのを自覚しながら、それでも視線を逸らさなかった。

『……場所を教えるわ。ただし、長くはできないけど』

「本当ですか!? ありがとうございます!」

美咲は声を抑えきれずに小さく拳を握った。白嶺は短く「土曜日ね」と繰り返すと、すぐに画面へ戻った。

美咲は「はい!」と元気に返事をして、自分の席に戻る。胸の高鳴りが、なかなか収まらなかった。

(差し入れ、何がいいだろう)

すでに頭の中は、次の準備でいっぱいだった。


同じ金曜の夜、白嶺は彩華の小さい足にクリームを塗っていた。

『冷えるからね』

彩華はくすぐったそうに足を動かす。白嶺はそれを押さえながら、残ったクリームを自分の手の甲で伸ばした。

次の色の気配は、まだ遠い。今日は刀に触れなくて済む。それで十分だった。

美咲が来る。

子供がいることは、まだ伝えていない。隠しているわけではない。ただ、話す機会がなかっただけだ。

明日、美咲は知る。白嶺はそれを、特に大ごとだとは思っていなかった。

『……おやすみ』

彩華の目が、ゆっくりと閉じる。

白嶺はしばらくその顔を見てから、電気を消した。

明日が、少しだけ普段と違う一日になる。

それだけのことだった。

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