第16話「落ちる光」
ユウノミの腕が、再び扇状に広がる。
白嶺は【 薄斬 】で軌道を流しながら、少しずつ間合いを詰めていた。浅い斬撃では決定打にならない。だが、確実に相手の形を崩している。橙の光が、斬られるたびに小さく散る。
「まだ、その程度か。器」
ユウノミの声は、疲れているようで、どこか愉しんでいるようでもあった。
『……あなたの方が、よほど疲れてるわよ。休憩する?』
ユウノミは完全に無視して、次の攻撃を繰り出してきた。白嶺は小さく息を吐き、残虹を正眼に構える。
刃の先から、虹の光が溢れ始める。花びらのような粒子が、静かに舞い上がる。
【 花無垢 】
刀身を中心に、虹色のオーラが球形に広がった。
ユウノミが身を強張らせる。橙の影が、光に溶けるように外側から崩れていく。
「……また、封じるのか」
『ええ』
「希望は、いずれ沈む。お前が守るものも、例外ではない」
『それでも、今は沈ませない』
光が収束する。
ユウノミの形が、完全に消えた。
代わりに、ベンチに女性が倒れ込んでいた。呼吸はある。意識は戻っていないが、取り憑かれていたものはない。
白嶺は残虹を構え、ゆっくりと息を吐いた。
その瞬間だった。
沈んだものが、胸の奥に流れ込んでくる。
失われた希望。摘み取られた活力。誰かが夕暮れの中で手放した、温かいはずの光。それが、一気に白嶺の内側へ崩れてきた。
手元が、一気に重くなる。残虹の切っ先が、ゆっくりと下がった。白嶺は歯を食いしばり、鞘に手を添えて刃を戻す。膝はついていない。ただ、肩で息をしていた。
『……帰らないと』
彩華が、待っている。
その一点だけを、白嶺は手放さずにいた。
夜の河川敷を、虹色の髪を下ろした女が、静かに歩いていく。
沈む光は、まだ彼女の中に残っていた。




