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色を斬る母「白嶺」  作者: 雨-Ame-
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第15話「夕陽を呑むもの」

夜の河川敷は、風が強かった。

白嶺は残虹を携えたまま、土手の上を歩く。月明かりは薄く、水面が暗く光っている。色の気配は、はっきりと下流の方から流れてきていた。

ベンチに、一人の女性が座っていた。

長い髪を下ろし、薄い色のドレスのような服を着ている。三十代前半くらいに見える。川面を見たまま、動かない。表情は穏やかで、どこか遠くを見ているようだった。

白嶺は十歩ほど手前で足を止めた。

女性が、ゆっくりと顔を上げる。目が合った。

普通の目ではない。夕暮れのような、沈んだ熱を帯びている。

「……器か」

女性の口から、自分のものではない声が混じって漏れた。

白嶺は黙って残虹の柄に手を置く。

「希望を、呑んできた。活力を、吸ってきた。お前の中にも、まだ残っているだろう。その娘を守ろうとする、薄い光が」

『……出てこい』

女性の影が、月の下で引き伸ばされる。

橙の気配が、形を成していく。長く、しなやかで、どこか疲れた異形。夕陽をそのまま吞み込んだような、暗い輝きを持っていた。複数の腕と、円環状に並んだ目。仮面のようなものが、虚空に浮かんでいる。

ユウノミだ。

「お前が封じようとしても、意味はない。人は皆、いずれ沈む。私はそれを、少しだけ早めてあげているだけだ」

『早いも遅いもないわ。ただ、そこにいるのが邪魔なだけ』

白嶺は残虹を抜いた。刃が、薄い月明かりを吸う。

ユウノミが笑った。声は重層的で、複数の諦観が重なっていた。

「器のくせに、口だけは達者だ」

影が波打ち、細い触手のようなものが地面を這って白嶺の足元へ伸びる。熱はなく、ただ、踏む力を奪うように絡みつこうとしてきた。白嶺は一歩後ろへ下がり、残虹の切っ先でそれを刈るように断つ。切れた先端が、橙の光を散らして消える。

『……足元から来るのね。地味なやり方。もっと垢抜けるようにお化粧から始めたら?』

「わからない。何を言っている」

ユウノミは真顔で聞き返し、そのまま上体を大きく揺らした。複数の腕が、今度は頭上から扇状に降りてくる。白嶺は低く身を沈め、刀を構え直す。

【 薄斬 】

残虹が小さく、正確に弧を描く。ユウノミの腕の軌道を、浅い斬撃で流し、削る。一撃ごとに橙の光が散り、攻撃の勢いがわずかに鈍る。白嶺は間合いを詰めながら、次の手を測っていた。

決着は、まだ先だった。

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