表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色を斬る母「白嶺」  作者: 雨-Ame-
14/106

第14話「沈む色」

朝の白嶺は、比較的穏やかだった。

彩華は機嫌よく起きて、離乳食も残さず食べた。白嶺はそれを横目で見ながら、自分の内側を探る。赤い残香はもうない。代わりに、薄い、沈んだ何かが、胸の奥でじっとしている。昨日の夕暮れの続きだ。

会社では、美咲が朝から明るく声をかけてきた。

「加藤さん、おはようございます! 昨日はありがとうございました。少し楽になりました」

『無理に明るくしなくていいわよ』

「えへへ……でも、本当に助かりました。加藤さんにそう言ってもらえると、自信が戻ります」

白嶺は短く「そう」とだけ返して、自分の席に向かった。美咲の笑顔が、視界の端で続いている。悪くない、と思った。

玲奈は今日も遠くから見ているだけだった。都合がいい。


退勤後、空ははっきりと橙に傾いていた。

白嶺は彩華を抱いたまま、駅前の広場を横切る。人々の足取りが、どこか重い。笑顔が少ない。誰かがベンチに座ったまま、動かなくなっている。

白嶺は足を止めなかった。ただ、その「動かない」影が、自分の感覚に引っかかる。

(……近い)

帰宅後、彩華を寝かしつけるまでの時間を、白嶺はいつもより丁寧に使った。

入浴させ、髪を乾かし、小さい声で絵本を読んだ。彩華は途中で眠った。白嶺は本を閉じ、しばらくその顔を見ていた。

『……行ってくる』

誰にともなく呟き、部屋を出る前に、もう一度だけ娘の頭に手を置く。熱はない。穏やかな寝息だ。


黒い着物に袖を通し、残虹を帯びる。

鏡の中で、白髪が虹色の筋を帯びて落ちていく。

白嶺は部屋の電気を消し、ドアに手をかけた。

外は、すでに夜だった。

月は出ている。明るすぎない、沈んだ光。

色の気配は、はっきりと街の方から流れてきていた。

赤ではない。もっと、終わりに近い、甘いような、諦めたような色。

白嶺は残虹の柄に手を添え、静かに歩き出した。

今夜は、逢う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ