23
殺したい。今の思いはその一言に尽きた。
夏代子のことを好きになる。そういう能力が確かにあるのだろう。実際に彼女もそのようなことを仄めかしていたし、実際に魅了されているのだろうというのが分かる。
それくらい強力な能力。世界の中心になることも簡単だろう。
ただ私はその存在を滅茶苦茶にして、否定してやりたい。
この感情は愛憎。
「殺したいほど愛してる」
再確認するように呟き、夏代子の方へとゆっくりと一歩ずつ歩みを進める。
「やっと効いてくれた?ようこそ、私のハーレムへ」
その純粋に心から思っているときにしか出ない笑顔が好きだった。
「次はどうしようかな。この町だけじゃなくて東京…いや、日本全国のイケメンを集めてー、海外のイケメンもいいなー」
その夢見がちな性格も好きだったよ。
既に私と夏代子の距離は間近だった。
「愛してるよ……殺したいほどに」
愛の言葉を紡ぎながら、血が出るほどに握りしめた拳をその可愛い顔に叩き込む。
加減したおかげで首から上が吹き飛ぶなんてことにはならなかったが、それでも夏代子の体は宙を飛んで、何メートルか飛んだ。
追い打ちをかけるように近づく。殴ったことで頭がすっきりしたのかさっきまで掛かっていた靄も少し取れたようだ。
夏代子は自分の状況がまだうまくつかめていないようだった。体を起こしながら困惑した顔をこちらに見せる。
「な、何で?未来は私が好きなんでしょ?ならおかしいじゃん。なんで殴るの」
倒れ込んだ夏代子の胸倉を掴み、さらに放り投げる。魅了されている感覚も落ち着いてくる。
「じっとしてないで私を助けなさいよぉ」
思い出したように周りの取り巻きに助けを求め始める。
しかし、なぜだか動きがのろい。私と美代子の距離の近く、私たちに追いつくことも出来ない。
「許してぇ。ちゃんと謝る。謝るからぁ」
血と涙で顔を汚しながら許しの懇願を行う。私にはまったく響かない。むしろそれどころか、殺る気も失せ始めてしまっている。
もう一度鼻の頭を殴りつける。
痛い痛いと喚く美代子を横目に辺りを見渡すと、黒田さんたちも魅了されていた人たちも人喰いまでも好意の目がなくなっている。
むしろ、憎悪の目だ。ついさっきまでの私がしていた目だから良く分かる。
「好きだったよ。美代子」
脇のところから立ち上がらせるように持ち上げながら、そう話しかける。
それを希望と思ったか、最後の言葉と思ったのか顔を上げた美代子だったが私がその表情を見ることはなかった。いや、見たくなかった。
「さよなら」
ただ一言呟き、人喰いの群れているところに思い切り投げ飛ばす。
まるで歓喜しているかのように人喰いは美代子に群がる。
「いやぁぁあああ。来ないで。こないでぇえええぇ」
いつか聞いたような声が辺りに響きわたるがその願いは叶うことはなかった。
一応、補足説明しておくと、美代子の能力は魅了です。しかし、肉体的、精神的にダメージを負ったりすると効力が落ち、魅了の反対である拒絶、幻滅、嫌悪という形になります。傷つくことがなければ基本的には最強の能力です。




