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~蛇田山~ 11

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「何れにせよ、当人に確認する必要がございますな」

 景通が、頼義の方を向いて進言した。


「うむ。経範、光貞とともに安倍の営地へ向かい、直ちに貞任を呼んで参れ」

 説貞親子の証言を聞いた頼義は、軍監の佐伯経範に光貞らと共に、貞任を連れてくるように命じた。




 光貞と元貞が、経範を案内して対岸の川下へ向かうと、そこは深閑と静まり返っていた。


 途中からその異状に気づいた光貞は、張りめぐらされた陣幕へ走り寄り、勢い良くそれをめくった。



「くっ!」


「これは!・・・どういうことだ?」

 隣に追いつき並んだ経範が、声を上げる。


 旗も、机も、床几しょうぎさえもそのままに、人馬だけが忽然こつぜんと消えていた。

 竈からは、薄い煙がまだ僅かに立ち登っていた。


「・・・・気づかれていたか」

 光貞が小さくつぶやいた。

 その言葉は、営内を配下とともに捜しまわる経範には、聞こえてはいなかった。


「光貞殿、安倍の行方を捜させる者を分けて、我らはこの有様を国守様にご報告しに戻るぞ」


「承知いたしました。元貞、あとは頼んだぞ」


「はっ」




 -----結局、衣川関まで貞任らのあとを追った元貞は、堅く閉ざされた関門を前にして、為す術無く此治城へと帰還した。


 戻った元貞の言を聞いた頼義は、このままここに留まってもえきがないと判断し、軍曹の物部長頼を残して国府へと帰府することにした。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「そのようなことが、あるはずがありません。なにかの間違いでございます」


「次郎様にそのような狼藉を働く謂れが、無いではないですか」


「お慕いしていたのは、わたくしの方でございます。ましてや、それで恨みを持つなどと・・・」


 突然の出立の触れと、事の仔細を伝え聞いた貞子は、説貞のもとへ来てにじり寄った。


贈物おくりものを受け取ったのであろう?断りもなく立ち去って、関門を閉じているのが何よりの叛意はんいの表れではないか」


「もう、国守様がご判断なされたことだ。我らは従うまで・・・理解わかったな」


 わずかに目元に憐憫れんびんの影をたたえながらも、娘の目を見ることなく、説貞は下人に連れて行くように命じた。


「父上!ならばわたくしが、国守様にお願いしに参ります。どうか、何とぞお取りなしを!」


 下人に抱えられるように連れ去られながら、貞子は説貞に訴えたが、その願いは届くことは無かった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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