~蛇田山~ 11
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「何れにせよ、当人に確認する必要がございますな」
景通が、頼義の方を向いて進言した。
「うむ。経範、光貞とともに安倍の営地へ向かい、直ちに貞任を呼んで参れ」
説貞親子の証言を聞いた頼義は、軍監の佐伯経範に光貞らと共に、貞任を連れてくるように命じた。
光貞と元貞が、経範を案内して対岸の川下へ向かうと、そこは深閑と静まり返っていた。
途中からその異状に気づいた光貞は、張りめぐらされた陣幕へ走り寄り、勢い良くそれを捲った。
「くっ!」
「これは!・・・どういうことだ?」
隣に追いつき並んだ経範が、声を上げる。
旗も、机も、床几さえもそのままに、人馬だけが忽然と消えていた。
竈からは、薄い煙がまだ僅かに立ち登っていた。
「・・・・気づかれていたか」
光貞が小さくつぶやいた。
その言葉は、営内を配下とともに捜しまわる経範には、聞こえてはいなかった。
「光貞殿、安倍の行方を捜させる者を分けて、我らはこの有様を国守様にご報告しに戻るぞ」
「承知いたしました。元貞、あとは頼んだぞ」
「はっ」
-----結局、衣川関まで貞任らのあとを追った元貞は、堅く閉ざされた関門を前にして、為す術無く此治城へと帰還した。
戻った元貞の言を聞いた頼義は、このままここに留まっても益がないと判断し、軍曹の物部長頼を残して国府へと帰府することにした。
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「そのようなことが、あるはずがありません。なにかの間違いでございます」
「次郎様にそのような狼藉を働く謂れが、無いではないですか」
「お慕いしていたのは、わたくしの方でございます。ましてや、それで恨みを持つなどと・・・」
突然の出立の触れと、事の仔細を伝え聞いた貞子は、説貞のもとへ来てにじり寄った。
「贈物を受け取ったのであろう?断りもなく立ち去って、関門を閉じているのが何よりの叛意の表れではないか」
「もう、国守様がご判断なされたことだ。我らは従うまで・・・理解ったな」
わずかに目元に憐憫の影を湛えながらも、娘の目を見ることなく、説貞は下人に連れて行くように命じた。
「父上!ならばわたくしが、国守様にお願いしに参ります。どうか、何とぞお取りなしを!」
下人に抱えられるように連れ去られながら、貞子は説貞に訴えたが、その願いは届くことは無かった。
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