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~蛇田山~ 10

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



すでにときは、戊夜ぼやを過ぎようとしていた。


「・・・・それで、首謀者に心当たりはあるのか?」

頼義の左右に、嫡男義家と次男義綱、さらにそれぞれに続いて、修理少進景通、その子藤原景季ふじわらのかげすえ藤原則明ふじわらののりあき大宅光任おおやのみつとう清原貞広きよはらのさだひろの主だった郎党と、鎮守府軍監ぐんげん佐伯経範さえきつねのり軍曹ぐんそう物部長頼もののべのながよりら、頼義の腹心とも言える漢たちが居並んでいる。



彼らの前には、説貞、光貞、元貞の権守親子が並んでいる。


「これを・・・。」


光貞が、背後うしろに持参した長物ながものを取り出して説貞に渡し、説貞はそれを受け取ると、両手に捧げ持って、前に差し出した。


一番手前にいた物部長頼が、頼義の目配せにうなずいて、にじり寄って受け取る。


「空けてみよ。」


修理少進景通が、麻布あさぬのに包まれているのを見て、指図する。


長頼は一礼し、床に一旦置いて布をほどいていく。


包の中からは、一振りの刀が出てきた。


黒く変色した血糊の跡が残っている。


「それは?あまり見ぬ刀だな。」


藤原景季が、説貞の頭越しに、光貞に問う。


「舞草刀にございます。」


「わたくしは見たことがございます!俘囚の者共が好んで使う刀にございます。蕨手刀よりはるかに斬れ味が鋭うございます。」


義家が目を輝かせて、頼義の顔を見て言った。


「太郎様はよくご存知で。いかにも、俘囚・・・その中でも、兵を指揮するものが主に用います。」


説貞が、すぐさま補足する。


「で、これがいかがした?」


頼義が、促す。


「この刀は、言うまでもなく、賊が使いその場に捨て置いていったものでございます。したがって、一味の素性は俘囚である可能性が高いと考えられます。また、逃げ去った先には貞任の営地がございます。そのことから察して、恐らくは彼奴かやつが首謀者かと・・・。」

光貞は、顔を上げぬまま答える。


「それだけで、安倍次郎の仕業であると断じるのは早計ではないのか?」


景通が、低い声を放ちながら、光貞を睨みつける。


「実は、彼奴には凶行におよぶいわれがあるのです。」


それまで黙っていた元貞が、再度頭を下げて言い出した。


「謂れ?」


景季が、元貞の方を向く。


「貞任は、以前より当家の娘に懸想けそうし、度々いい寄っていたのです。」


元貞は、そう言って室の外に控えていた女の下人を呼んだ。


「この者は、妹の貞子の身の周りの世話のために付けている下人でございます。はばかりながら、国守様の御前おんまえまかでられる身分のものではございませぬが、私どもの言のあかしとして、あえて召し出しました。何卒ご容赦の程を・・・。」


「かまわぬ。この様な大事、確かなる証しが無くば、みだりに疑いをかけるわけにいかぬからな。」


頼義は、直ぐ様これをゆるすのだった。


「はっ。有り難きお言葉痛み入ります。」


光貞は、下人とともに平伏すると、下人の方をわずかに向いて尋ねた。


「これ、お前が見聞きしたことを申してみよ。」


「はい、この度、貞子様にお供して鎮守府に下りまして、最初の饗応の宴の夜ののちでございます。府内で貞子様とご一緒に歩いておりますと、度々安倍の次郎様に行き会う機会が多く、そのたびにお二方でそれは楽しげにお話されているお姿を拝見しておりました。」


「貞子様は、下人のわたくしが申しますのも、畏れ多いことでございますが、それはたおやかで、お美しい方でございますので、安倍次郎様も何かと良くして頂くようになられたようでございます。」


「ほう・・。良く・・とは?」

元貞が口を挟む。


「はい、先日などは見事なくしを頂いたそうでございます。」


「なるほど。下がって良いぞ。」


---。


「そう言えば、美しき女子おなごと、熊のような大男が府内で共にいるのをよく見かけると、聞いたことがございましたな・・。」


軍監の佐伯経範が、ぼそりと言う。


「それともう一つ・・・。」


光貞が、切り出した。


「なにか?」


景通が、聞き返した。


「実は、貞任より妹をめとりたいとの申し出があったのです。」


「「なんだと!」」


景季と藤原則明が、同時に身を乗り出した。


「ですが、あの者は俘囚の出。当家はまがりなりにも、北家魚名の流れをくむ末茂流のすえでございます。釣り合いが取れるものではございません。したがって、申し出を拒んでおったのです。」


「恐らく貞任は、このことを深く恨んでいたことは間違いないものと思われます。」


息子の言に、説貞が付け加える。


「この他に恨みを買うような憶えはございませんので、此度の所業は貞任で間違いはないものと推察いたします。」


光貞は、下げていた顔を上げ、頼義の両眼を見つめて言上した。


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