~御殿山~ 9
『ここまでは、よう知っておる話と思うが、ここからが大事じゃ。
降将となった長髄彦は、饒速日命と神武帝の対面前に、饒速日命によって殺されたとも云われているが、密かに妹の登美夜須毘売によって逃されたのだ。』
経清と永衡の二人が息を呑む。
『むろん饒速日命も、もしかしたら神武帝も知っていたかもしれん。
はじめは、同族である出雲や石見の民に匿われた。
しかし、神武帝が高尾張邑の土蜘蛛を平らげて葛城に至り征東を完了すると、畝傍山の東南に橿原の都を定め、大物主の娘の媛蹈鞴五十鈴媛命を正妃とするに至って、再起は叶わないことを悟ってその地で薨じた。』
『亡骸は、はじめ出雲の富邑に、そして石見の八百山に移され、諏訪を経由して最終的にはこの陸奥の地、一森山に葬られたのだ。』
そう言って、頼時は静かに目を閉じた。
「一森山・・・。ということは、鹽竈の社に!」
経清が目を見開いた。
『かつて、出雲の民が辿った道を、逆に辿って至ったのだ。土蜘蛛と呼ばれた者たちと共に・・・。』
『話はそれだけではない。饒速日命の子の可美真手命は、物部氏の祖となり石見国にいたが、知っての通り政争に敗れた。
一方で、出雲の民と同族の媛蹈鞴五十鈴媛命と神武帝の子の神八井耳命は、多氏の祖であり、今は中央にはいない。』
『多くの民が、畿内の地を追われた・・・。和邇氏、蘇我氏、大伴氏、葛城氏、巨勢氏、そして阿倍氏・・・。』
最後の氏を聞いて、経清と永衡は顔を上げる。
『蝦夷とは何か・・。土蜘蛛とは?』
『はるか昔、豊葦原中国に塩と金(銅)を伝えた民は、はじめにこの鹽竈の地に至ったという。元から居た民と共に暮らし、西へと移っていった。』
『そして、恨みを持った御霊はこの地に還ってきた。その御霊を祀るは、かつての同胞と追われた人々。』
辺りの静寂が一層深くなっていくのが感じられる。




